【44】ガニメデ軌道での捜索開始
[むつ]の調査官は、金属の破片の一部を、揮発油を含ませた布切れで拭いていた。破片には、銘板が貼ってあり、文字が刻まれていて、布で拭くと銀色の輝く板となった。
銘板には、[Battle Ship HYUGA,6977]と刻まれていた。
6977年に竣工した戦艦[ひゅうが]であった。
[ひゅうが]は6980年、火星から新たに確認された空間を使ってワープ航行中に行方不明になった。発着点計算にミスがあったのか、機械的なトラブルがあったのか、現在でも原因は判明していない。
それが今回、異なる時空で行方不明になった2艦が、同じ時空で、現在の我が艦隊によって破壊された。
普通では、考えられない。
軽巡[すみだ]のものと思われていた人間の遺体やHDも回収されていたが、今回、別の艦が確認されたことによって、遺体やHDも戦艦[ひゅうが]の乗員も含まれると考えられる。
また、それ以上に危惧すべきは、さらに別の艦艇が確認される可能性もあるということだった。
* * *
「艦長、目標まで約2時間です」
サクラが俺に報告した。
「なー、サクラ、全艦、トロッコ・フライに入ったのか?」
「特段の緊急通信は受信しておりませんので、大丈夫かと思われます」
「カズの艦が心配なんだが」
俺は、心配して言った。
「連絡舟艇が接舷していましたので、交換部品供給は間に合ったと思われますが」
サクラが言った。
「部品が間に合ったって、交換が間に合わなければ、ダメだろ?」
「たしかに、そうですが」
サクラは、少しうろたえた。
「ま、こういう特殊な空間で予期せぬ事がおきなければいいんだけどな」
最近、俺は、心配性だ。
「そう言えばサクラ、俺は大尉になったが、他の奴らはどうなってるんだ?」
俺は、サクラに聞いた。
「あ、一覧は端末で確認できますよ。この1週間以内に全7艦長は昇級しています。やはり、航行時間と実戦的経験が大きく物を言いますからね」
トロッコ・フライ開始から3時間が経過していた。
重力の前引き後押しが瞬間的に繰り返され、艦は時速10億キロという光速に近いスピードで進んでいる。
ワープ航法のように異次元空間を利用するわけではないので、その航路に障害物があれば、物理的に衝突する。
単艦で航行するなら、1艦分の航路予測計算で済むが、今回は7艦の編隊航行である。俺らの時代にも、自衛隊のジェット機の編隊を組んでアクロバット飛行なんてあったが、今回はそのジェット機が前の機と10分の時間的間隔と横に500メートルの距離的間隔をとった編隊を組み、光に近い速度で飛行をしていると考えればいいわけだが、今回は全長150メートル全幅25メートルの駆逐艦である。自衛隊のジェット機なんて、蚊が飛んでいるようなもんだ。いくら宇宙空間が広いとはいえ、駆逐艦が小石くらいのものにでもぶつかったらどうなるのか、ゾッとする話しだ。
「目標まで約5億キロ。減速開始します」
「ベリーウェル」
若干、体が前に浮きそうになる。
艦にブレーキがかかりはじめた。
ヒューンーン。
減速中だ。
「サクラ、民間船が行方不明になった所へ行って、何か見つかると思うか?」
「行方不明ですので、痕跡は無いのではないかと思われます」
サクラは答えた。
「だよねー。戦闘の形跡は無いんだろ?」
「はい」
「行っても、無駄足なんじゃないかなー?」
「大尉、命令に疑問を持ってはいけません」
「アイ、アイ、サー」
俺は、サクラに敬礼した。
パシュー!
プシュー!
パシュ、パシュ!
[しらかぜ]は艦首スラスターを微噴射させ、完全停止した。
「航海長、艦を右舷上方に移動させ、後続艦の追突を防げ」
「方位045、上下プラス45度、距離1,000、移動します」
[しらかぜ]は左舷及び下方スラスターを噴射させ、現在位置から移動した。
そうしているうちに後方から識別灯、探照灯が接近し、スラスターを噴射させて停止した艦があった。
2番艦[はまかぜ]だった。
「[いそかぜ]より[はまかぜ]へ。航行ご苦労。後続艦の支障にならないよう、現在位置から退避せよ」
「[はまかぜ]了解」
アツシの声が答えた。
「到着ごと、各艦に通達せよ」
「[はまかぜ]了解」
[はまかぜ]は現在位置から移動し、その後10分ごとに
後続艦が到着した。
目の前に大きな木星が迫っている、衛星ガニメデの軌道上に第3駆逐艦隊7艦が整列したのだった。
「[しらかぜ]より艦隊全艦に達する。ガニメデ軌道上、探索範囲最大として7倍化した宙域を速力5,000で編隊航行する。全艦、遅れをとるな!」
俺は、全艦に命令した。
艦隊は編隊を組んで、スペース・レッド・ラインの旅客宇宙船をくまなく捜索することにした。
ドワァーーーーーン!
[しらかぜ]はイオンエンジンを噴射し、
他の艦もそれに続いた。




