【42】民間旅客宇宙船 消息を絶つ
「上空2,000メートルを航行。さらに上昇中」
[しらかぜ]を先頭に、5分間隔で一列になって艦隊は進んだ。
「各艦、異常発生の際は、速やかに報告せよ」
今のところ、異常は無いようだ。
カズの[つきかぜ]も、無事に3艦後ろに付いて来ている。
「各艦、周囲警戒を厳となせ。特に前方に異常発生の場合は、即時回避せよ」
前でつっかえたら、オカマを掘るなよ。
と、俺は、言いたかった。
「上空、3,000メートル、速力500」
航海長のハロヤ軍曹が報告。
「よし。冥王星圏離脱」
俺は、命じた。
「冥王星圏、離脱します」
冥王星の脱出速度は、秒速1.2キロだ。
もう、とっくに冥王星の重力からは逃れている。
「第3駆逐艦隊[しらかぜ]より、火星本部作戦司令部へ」
「[しらかぜ]どうぞ」
「本艦隊は、冥王星を離脱した」
「司令部、了解。先の行動計画の通り、太陽系外周軌道に入れ」
「[しらかぜ]了解」
「さて、サクラ、俺たち、お巡りさんだ」
* * *
「こちら[スペース・レッド・ライン、5150便]、ガニメデ管制センター、応答せよ」
西暦2020年、つまり俺らの時代には、町にはバスやタクシーが走り、通勤通学には満員電車に乗り、旅行の時は新幹線も使った。ビジネスマンやどうしても必要な人は飛行機を使って地球上を移動した。
5000年後、他の星に行く必要のある民間人は、民間の宇宙船で星と星の間を移動しなくてはならない。新幹線やジェット機よりスピードは速くなったが、ほぼ変化の無い真っ暗な窓の外を見続けるのは苦痛なので、座席や割増料金を払って確保したベッドで眠らされ、平均3,000人程度を運ぶことができる旅客宇宙船を利用するのが一般的だ。もちろん、もっとリッチな上流階級は、ワープ可能な旅客船に乗ることもできる。
この時代、この広大な銀河系の海にはもうすでに、巨大な交通路線図が描かれていた。
今、木星の衛星ガニメデの管制センターに連絡をとりたがっている人間も、民間旅客宇宙船のパイロットだった。
手は震え、顔と背中には汗が流れていたが……。
「こちら[スペース・レッド・ライン、5150便]。
ガニメデ管制センター!応答してくれ!」
「こちらガニメデ管制センター、SRL5150便どうぞ」
「何かが、後方から… … …」
その通信を最後に、乗員乗客2,580名を乗せたSRL5150便は、ガニメデ管制センターのレーダーから消えた。
* * *
「火星本部作戦司令部より[しらかぜ]へ」
木星軌道上で民間旅客宇宙船に何が起こったかを知らなくても、この呼び出しが俺に入ることは、至極当然なことだろう。
「こちら[しらかぜ]、司令部どうぞ」
「本日、木星と土星の軌道間において、民間旅客宇宙船が消息を絶った。比較的近い距離にある貴艦隊への調査活動を命じる。以上」
「[しらかぜ]了解」
「だってさ、サクラ」
「はい。現在、詳細を受信中です」
俺は、黙って、サクラが情報整理するのを待った。
「消息を絶ったのは、木星の衛星ガニメデ発、土星の衛星エンケラドゥス行き、スペース・レッド・ライン社の定期旅客宇宙船の5150便。乗員500名、乗客2,080名、全て人間です」
「それが、破壊されたのか?」
俺は、報告を聞いた後、サクラに聞いた。
「現地を調査しなければ分かりませんが、
消滅したのではないかと」
我が艦隊は現在、冥王星軌道から太陽系の内側へ向かって航行している。
ここから木星の衛星ガニメデの軌道までは、ざっと50億キロほどだろうか。お互いに離れつつなければだが。
ま、10億キロ単位の航行なら、トロッコ・フライが適しているか。
「艦長、距離は52億7,633万キロメートルです」
「5時間半てとこかな?」
「そうですね」
俺とサクラとの会話で、だいたい決まった。
「艦隊司令クロダから、艦隊全艦に達する。
本艦隊はこれより木星の衛星ガニメデ方面へ向かう。概要については各艦において、各部署内で情報を共有すること。距離は約53億キロ、所要時間は5時間半である。航行中は周囲警戒を厳となし、支障なく目的地に達することを望む。以上」
俺は、全艦への通達を終えた。
「サクラ、亜光速域への移行は2100時で」
「了解しました」
「[しらかぜ]副長より、艦隊全艦に達する。
亜光速域への移行開始は2100時とする。なお、全7艦による編隊航行においては、接触等の不慮の事故の可能性が高まる。このため、1番艦の移行開始から10分の時間的間隔と左舷500メートルの距離的間隔を保持し移行することとする。以上」
サクラは、通達を終えた。
「なるほどね。さすがだ」
こういう時、サクラに表情があったら、
どんな顔をするのだろうか?
人間だったら、赤くなってることだろう。
20:15
トロッコ・フライまで、
あと45分だ。




