【41】第3駆逐艦隊 冥王星からの旅立ち
「1500時を20分過ぎたな」
「申し訳ありません!」
俺の前で、[つきかぜ]艦長、ドバシ・カズト少尉は、直立不動で敬礼を続けていた。
「1500時までの出航準備完了の命令は、認識していたのか?」
俺は、カズに確認した。
「はい!」
カズは、敬礼したまま答えた。
「まぁ、直れ」
「いえ!自分はこのままで」
カズは、敬礼を続けた。
「何故、遅れた。そもそも、遅れる予想がついた時点で、なぜ報告をおこなわなかった」
「整備に集中し、時間を見るのを忘れました」
「おまえ、なに子供みたいなこと言ってんだ」
俺は、ムカついて、カズに当たった。
「で、まぁ、いい。艦の不調は直ったのか?」
「はい。今のところ、オッケーです」
「また、適当な応急処置なのか?」
「海王星基地から交換品が来るまでの処置です」
「そうか、来たらまともにしてくれよ?」
「もちろん!了解です!」
はあぁぁぁーーー。
俺は、大きくため息をついた。
「ったく、しょーがねーなー」
俺は、やり場もなく、艦長席の周りを歩き回った。
「艦長、出航時刻の変更を司令部へ届け出ませんと」
サクラが言った。
「そうだな。1800時だ。サクラ、連絡しておいてくれ」
「艦長がしなくていいのですか?」
「緊急事態ということで、代理として頼む」
「はあ、かしこまりました」
サクラは、仕方なく代理を引き受けた。
* * *
時は遡り、6975年。ぎょしゃ座カペラ星系付近。
戦艦[するが]が全艦点呼をおこなったが、軽巡洋艦[すみだ]からだけ応答がない。
考えられるのは、重力の歪みの入口で、[すみだ]が突入する寸前に小惑星が混入し、歪みの中心の大質量物体に衝突または合体し、質量に変化が起こり、それに伴い重力変化が起こり、[すみだ]が突入する前と後では、時間の流れが変わってしまったのかもしれない。しかも、付近で未だに発見されないということは、未知の時空で漂流している可能性が非常に高い。
「レーダーサーチレンジを広げろ!」
戦艦[するが]は、ミドル、ワイド、スーパーワイドの探索範囲を持つレーダーを装備している。
「時空」とは、「時間」と「空間」であって、つまり
「時間」と「場所」である。
レーダー探査している[するが]と同じ「現在」に[すみだ]はいなければならないし、[するが]と同じ宇宙空間に[すみだ]はいなければならない。
どちらかがわずかでもズレていたら、今後、永遠に、双方が出会うことはない。
* * *
戦艦[むつ]のブリーフィングルームで、艦長のエレノ少将は、発見した軽巡洋艦[すみだ]についての報告映像を見終わった。
「300年前の幽霊船が我々の前に現れて、何らかの復讐をしていると言いたいのか?」
エレノ艦長は、シダク副長に言った。
「目的は不明ですが、艦の一部の破片が見つかった[すみだ]という軽巡洋艦は、そういう船だという……」
副長の言葉を遮るように、艦長は睨みつけた。
17:30
「各部、出航前点検報告。最終チェックにおける異常箇所のみ報告せよ」
出航予定時刻まであと30分。サクラは[しらかぜ]各部に通達した。
「艦長より機関へ、アイドリング開始」
[つきかぜ]のドバシ艦長は、機関室へ命じた。
「兵装、エネルギー、攻守システム、異常なし」
[さわかぜ]の戦術長が、タグチ艦長に報告した。
「岩を撃つ訓練しかしてないからな、実戦でヘマしないようにしてくれよ」
17:45
[はまかぜ]が下方スラスターに点火し、わずかに浮いた。
「こちら[あきかぜ]出航準備完了」
「[きぬかぜ]より[しらかぜ]へ、出航準備完了」
「[いそかぜ]出航準備完了」
[しらかぜ]に、続々と出航準備完了の報告が入る。
「[つきかぜ]より、[しらかぜ]へ」
「こちら[しらかぜ]、[つきかぜ]どうぞ」
「[つきかぜ]、出航準備完了」
よし!
俺は、思わずつぶやいた。
「[しらかぜ]より、第3駆逐艦隊全艦へ。
下方スラスター噴射、アンカー解除、100メートル上昇」
冥王星のハートマークに着陸していた駆逐艦7隻は、艦底にあるスラスターを噴射し、艦と地表を固定していたアンカーを巻き上げた。
アンカーが解除されると、わずかに左右に振れる艦も見られたが、スラスター調整でバランスをとり、おおむね全艦同様に上空100メートルへ上昇した。
「おおいぬ座方面軍第3駆逐艦隊[しらかぜ]より、火星本部作戦司令部へ」
「こちら司令部、[しらかぜ]どうぞ」
「本艦隊は、これより出航します」
「司令部、了解。グッドラック」
俺は、司令部との通信を切った。
「艦隊司令より全艦へ。1番艦より5分間隔で出航開始。1列縦隊を保持せよ」
18:00
「全艦、出航!」
[しらかぜ]がイオンエンジンを噴射した。




