【40】重力の底へのダイブ
「これは、少し古いな」
スピカ星系で回収された残骸を見ながら、第4機動艦隊[むつ]の調査係員が言った。
「全ての残骸を撮影して、全部組み合わせて一つの欠損も無く復元画像を作るんだぞ!」
調査を指揮する調査官が、フリゲート艦内のハンガーで、大声で指示した。
フリゲート艦内に納まりきらない残骸は、巨大なネットに入れて、散り散りにならないように艦に繋ぎ止めてある。
「残骸に、新旧があるようだな」
「旧型艦と新型艦が混じってると?」
「それもあるんだが…」
調査係員は残骸を撮影しながら、気が付いた意見も記録していく。
「同じ部品でも、時間的経過が違うような気がする」
「時間の経過が違う所にあったと?」
「推測の域だがな」
「HDの方はどうだ?」
「それも、新旧混合だ。
古いのは、今は使われていない6000年代の物もある」
「プログラムやシステムのバージョンアップはされているのか?」
「色々なパターンが混じっているな」
「最も驚くべき発見は、これだ」
係員は、どこかの何か分からない残骸の一部を持って刻んである文字を指して言った。
[Light Cruiser SUMIDA ,6950]と、ある。
* * *
6975年、宇宙軍ぎょしゃ座方面軍第212航路調査艦隊がカペラ星系付近を航行していた。
戦艦[するが]を旗艦とし、重巡洋艦[みょうこう][だいせん]、軽巡洋艦[たま][すみだ]、そして駆逐艦5艦で編成された、ワープ航行のための新航路開拓調査を任務とした艦隊だった。
この頃すでにワープは宇宙艦艇の高速移動には日常的に利用され、安全性もかなり高められていた。
長距離ワープにはある程度大きな時空の歪みを持つ空間が必要で、それを見つけるのは比較的簡単であったし、より長距離移動に使用するワームホールも、入口のブラックホールと出口のホワイトホールを見つけるのは、たやすいことだった。
しかし、使用頻度が高いと予想された、短・中距離のミニ・ワープについては、まだ完成度が高いものではなかった。
入口は重力のそれほど大きくない何かがある所。
出口も同じ程度の、判別が簡単ではない所。
宇宙空間には、その程度の歪み箇所は結構あるので、事前に入口と出口を正確に計算しておく必要がある。
また、ミニ・ワープ空間内を航行中に、出口に何らかの異常があれば、どのような結果になるか、想像すらできなかった。
この時も、通常と変わらない新航路開拓調査航行だった。駆逐艦3隻が先行し、軽巡、重巡、戦艦[するが]を中心に据え、両舷を駆逐艦2隻で守り、重巡、軽巡と続いた。
「グラビティセンサーに感あり!
方位027、上下マイナス10.5度、距離30,000」
戦艦[するが]の、重力の歪みを専門に観測する士官が報告した。
「どの程度のレベルだ?」
艦長が、重力の歪みの大きさを確認した。
「レベル5程度でしょう。10から20光年くらいのミニ・ワープが可能でしょう」
士官は答えた。
「では、行ってみるか。半径10から20光年の中の相対する歪み箇所を抽出し、司令部へ報告しておけ」
戦艦[するが]の艦長は、今回発見した重力の歪みへ試験航行することにした。
「[するが]艦長より達する。本艦隊はこれより、前方にある重力の歪みへ試験航行をおこなう。航行距離は10光年から20光年と思われるので、出口も銀河系内であろう。しかしながら、何らかの非常事態の発生も危惧されるため、各員、気を引き締め、任務にあたるように。以上」
艦長は、事前に注意喚起をおこなった。
「歪みの中心には、何がある?」
「直径50メートルほどの小惑星タイプの大質量物体です」
「太陽くらいあるのか?」
「いえ、木星程度の質量かと」
「目標まで、あと10,000」
艦内でやり取りが重なるにつれ、緊張が高まる。
「原子時計ポッド、射出」
「ポッド射出、了解」
[するが]は、原子時計を納めたカプセルを、宇宙空間へ飛ばした。艦隊はこれから時間の流れの違う空間へ入るので、出口から出た時間と比較するために入口前に原子時計を置いた。
「目標まで5,000」
「機関、出力100%。イオンブースター噴射」
「目標まで2,000」
「先行駆逐艦、突入します!」
駆逐艦3隻が、重力の渦に消えて行く。
「艦長!レーダーに感あり!障害物が接近中!」
[するが]のレーダー士官が叫んだ。
「なんだと?!」
軽巡[たま]と重巡[みょうこう]が突入した。
「障害物は、なんだ?!」
「小惑星と思われます!」
レーダー士官が答える間に、
戦艦[するが]と直衛駆逐艦2隻が、
重力の渦に入った。
航路変更は不可能だった。
重巡[だいせん]が吸い込まれた直後、
小惑星が渦に吸い込まれ重力の中心に接触、
軽巡洋艦[すみだ]も姿を消した。
そして、15光年彼方の重力の歪みから現れた第212航路調査艦隊に、軽巡[すみだ]だけ、いなかった。




