【35】第4機動艦隊 ミニ・ワープ
「旗艦[むつ]より、艦隊全艦へ。間もなく本艦隊はミニ・ワープに入る。各艦、航路前方注意及び周囲索敵を厳となせ」
第4機動艦隊司令官、戦艦[むつ]の艦長エレノ少将は、全艦に通達した。
「ジャンプ・アップ・ポイントまで850」
フタラ航海長が報告した。
艦の前方には、目には見えないが、重力が歪んだ凹みのような場所がある。そこがワープ航法の出発地点である。
「ポイントまで500。機関、エンジン切り替え準備」
「機関、エンジン切り替え、準備よし」
航海長に機関長が復唱する。
「全員、着席、耐衝撃姿勢をとれ」
副長のシダク大佐が命令する。
「ポイントまで200。機関、エンジン切り替え10秒前」
「プラズマEMドライブエンジン切り替え、
5、4、3、2、1、EMスタート、イオンストップ」
戦艦[むつ]の艦尾エンジン噴射ノズルから眩い光が放たれ、艦は光跡を曳いて姿を消した。
そして、ほぼ同じくして、
戦艦[ひたち]、戦艦[のと]、戦艦[ひだ]、戦艦[みかわ]が続き、多数のミサイル巡洋艦、重巡洋艦、駆逐艦、フリゲート艦、潜宙艦が、眩い光の光跡を曳いて漆黒の宇宙へ消えていった。
そして、数分と経たない9光年以上先に、
トンネルから出てきたクルマが急ブレーキをかけるように、戦艦[むつ]は、出現した。
そして、[ひたち][のと][ひだ][みかわ]の4戦艦が到着し、巡洋艦をはじめとする多種多様な艦船が、あっという間に出現した。
「旗艦[むつ]より、各艦、異常の有無を報告せよ」
[むつ]に、各艦から報告が入る。
今回のミニ・ワープで、艦隊に異常は無かったようだ。
「副長!敵はいるか?!」
エレノ艦長は、シダク副長に聞いた。
「方位022、上下マイナス1.1度、距離9億5千万キロメートル。測距、今後ミドルレンジに切り替え」
「よし!全艦、攻撃準備!」
副長の報告によって、艦長は攻撃準備命令を出した。
距離9億キロでは、まだ早いのだが。
* * *
冥王星のトンボー地域と呼ばれるハートマークに着陸待機している駆逐艦6艦の間を、1隻の小型艇がタクシーのように各艦の艦長と副長を乗せながら、最後の[しらかぜ]に向かって来た。
発着口に格納された小型艇から降りた6名の艦長と6名の副長。副長の中には、HDも含まれていたが、人間は別室で正式な軍服に着替えて、[しらかぜ]のブリーフィング・ルームに向かった。
正式であれ、略式であれ、ずっと軍服のままでいられれば楽なのだが、わずかでも宇宙空間へ出る場合は危機管理上、宇宙服の装着が必要なのだった。
コン、コン
「各艦、正副指揮官、入ります」
[はまかぜ]艦長、イシダ中尉が代表して言った。
「入れ」
俺は、部屋の中から答えた。
「失礼します」
ドアが開くと、ゾロゾロとみんな入ってきた。
ニヤけてるやつ、キョロキョロしてるやつ、不安そうな顔をしたやつ、青白い顔色のやつ。
堂々としてるのは、HDだけだ。
ブリーフィング・ルームの壁沿いに、各艦の艦長、副長の順で整列した。
「[はまかぜ]艦長、イシダ中尉です」
「[いそかぜ]艦長、カドマツ中尉です」
「[つきかぜ]艦長、ドバシ中尉です」
ここまでは、知ってる。
「[あきかぜ]艦長、ヤマナカ少尉です」
「[きぬかぜ]艦長、シモダ少尉です」
「[さわかぜ]艦長、タグチ少尉です」
全員、敬礼しながら、自己紹介した。
各艦の副長は、全てHDだった。
後着の3艦の副長HDにも、名前を付けなくては。
「以上、本日、着任いたしました。よろしくお願いいたします」
「火星からの航行、ご苦労だった。別命あるまで待機し、各艦長指揮のもと、休息なり、整備なり、時間の有効活用に配慮するように」
「了解しました」
俺の命令に、みんな素直に応じた。
「この際、何か質問はあるか?」
俺は、みんなに聞いた。
「[きぬかぜ]のシモダです。最近の銀河系外縁部での不明艦隊からの攻撃について、最新情報はありますか?」
「本件について、現在のところ特段の進展や別の事案発生は無いが、緊急的措置として、我が艦隊の編成が10艦から7艦へ減となった。よって、現在待機中の7艦で今後の作戦行動をおこなうこととなり、その後一時的に、太陽系防衛の任に着く」
「7艦でですかー。残りの3艦も、準備はできてたはずですがね?」
カズが言った。
「たぶん、艦隊数を増やすために、他へ回すんだろう」
「なるほど」
俺が適当に答えると、カズは納得したようだ。
「ま、全てをここで話す必要もない。何かあれば、個別に連絡してくれ。解散していいぞ」
俺はそう言って、散らした。
「あ、ヤマナカ、シモダ、タグチ各艦長も、やっぱりゲームから引っ張られてきたのかい?」
新しい3艦長に聞いた。
アツシたちも興味深そうに足を止めた。
「はい。オンラインゲーム中に、
訳の分からないことに巻き込まれました」




