【32】冥王星のハートマークに降下せよ
「司令!また緊急入電です!」
宇宙軍火星本部に緊張が走った。
「こちら、おとめ座方面軍第4機動艦隊、旗艦[むつ]。
現在、おとめ座スピカ連星系にて、未知の敵と交戦中。至急、付近の艦隊の応援を乞う。
こちら、おとめ座方面…機動…、…、スピカ…、…」
緊急通信は途切れた。
「また未知の敵からの攻撃か?」
宇宙軍総司令官イアナ提督は、立ち上がって言った。
「イオニ将軍、至急本件に対応せよ」
イアナ提督は、副司令官のイオニ中将に命じた。
「海王星にプロキオンに、一体、何なんだ」
中将は何が起きているのか見当もつかなかった。
「それと、今回はスピカです」
中将付きのHDが念を押した。
「分かっておる!」
* * *
「艦、減速中。出力30%、速力500。冥王星地表まで1,200キロメートル」
「よろしい」
俺は、ハロヤ航海長の報告を承認した。
「冥王星に降りて、他の艦を待とう」
「了解しました。
艦、さらに減速。出力20%、速力300」
航海長は、[しらかぜ]を冥王星に着陸させるべく操艦した。
「サクラ、他の艦はどうした?」
俺は、サクラに他の奴らの船について聞いた。
「[はまかぜ][いそかぜ][つきかぜ]が、現在、
亜光速航行中で、あと3時間ほどで到着かと思われます。また、残り6艦のうち3艦が、明日の0800時に火星基地から出航予定です」
「分かった」
先に揃う4艦は友だちだけど、残り6艦の艦長は知らない。たぶん、俺らみたいに過去から集められてきた奴らなんだろう。
さて、冥王星でおおいぬ座方面軍第3駆逐艦隊が10艦揃ったら、どこで何をすればよいのか。
* * *
「第2327輸送船団、護衛艦2、駆逐艦2、魚雷艇4、輸送船20。ほぼ、それらの残骸です。
輸送物資、航行記録等、HD320体、人間62名です。」
トリトン基地の司令官に、回収調査担当主任は報告した。
「敵についての情報は?」
司令官は、広大なエリアに並べ敷き詰められた残骸を見回して言った。
「敵の使用した武器は、全てレーザーで、艦砲及び速射砲です」
主任は、艦体の小さな破片を手にして言った。
「宇宙軍のものか?」
「はい」
「確定か?」
「はい。エネルギー充填量は、最大です」
「艦砲と言ったが、艦種は分かるのか?」
「駆逐艦から、巡洋艦、戦艦までの砲です」
主任は、タブレット端末に写し出された様々な艦種を司令官に見せながら言った。
「反乱軍か?」
司令官は、小声で聞いた。
「今のところ、その可能性が最も高いかと」
主任もまた小声で答え、
薄い窒素の大気から身を守るための宇宙服を着た2人は、明るいライトで照らされた残骸置き場の通路を歩き始めた。
* * *
「艦長、冥王星圏まで10億キロメートル。これより減速開始します」
[はまかぜ]の航海長ハイニ軍曹は、イシダ艦長に報告した。
「減速開始、よし」
「機関出力、98%。要身体固定」
ブリッジに響く機関音がわずかに変わり、体がほんの少し前方に引かれる感じになった。
アツシは、艦長席でシートベルトを締めた。
[はまかぜ]の艦外モニターには、同様に減速を始めた[いそかぜ]と[つきかぜ]が写っていた。
「今度はおとめ座のスピカ星系で、交戦があったようです」
ウメがアツシに報告した。
「またか」
「交戦したのは、戦艦[むつ]を旗艦とした、第4機動艦隊です。宇宙軍の中でも、精鋭艦隊です」
「状況は?」
「詳細は、まだ不明です」
「大したことなきゃいいけどな」
「同感です」
「機関出力80%、さらに減速中」
ハイニ航海長が、割って入った。
* * *
[しらかぜ]は冥王星上空100メートルで静止した。
「微速降下。アンカー射出準備」
ハロヤ航海長が報告した。
「微速降下、よし」
[しらかぜ]は、下方スラスターを微噴射しながら、冥王星表面へゆっくり降下し始めた。
「降下地点は、冥王星のハートかな?」
俺は、サクラに聞いた。
「はい」
「じゃ、後から来る奴らに、緯度経度を連絡しておいてくれ」
「了解しました。
あ、艦長は、ザ・ハートをご存知なんですね」
「写真で見たことあるよ」
「今、実物が見れてよかったですね」
「うん。実物見たかったんだよー」
「冥王星は、1930年にアメリカの天文学者、トンボーによって発見されました。当時は太陽系第9惑星だったのですが、他の惑星の衛星より惑星の冥王星が小さいのはおかしいということで、2006年に準惑星に定義されました」
「そうだよねー。初めは惑星だったんだよね」
「地球の衛星の月よりも小さいんですからね」
「で、あのハートマークは、雪なんだろ?」
「窒素の氷や雪や霜が積もった部分で、トンボー地域といいます。2015年に太陽系探査機ニュー・ホライズンズによって、初めてハッキリとしたハートマークが撮影されました」




