【31】ヒューマノイドは、夢を見るのか
海王星の衛星トリトンの基地には、30隻の輸送船が必死でピストン輸送を行い、膨大な量の船団の破片が運ばれてきていて、
基地作業員によって、分類作業が行われていた。
まずは大雑把に、船の破片か、岩石や氷などの物か。
その後、どの輸送船の物か、直衛艦隊の物か。
そして、船の破片か、それ以外か。
それ以外の物の中には、
多数のHDと、
人間の一部。
作業員は、全ての物を撮影し、画像処理で宇宙軍の物か選別、記録していく。
記録担当の作業員は、端末に表示される、「宇宙軍以外の物資」の量が0%から全く増えないのを見ていた。
「司令、現在のところ、68%が回収されましたが、
宇宙軍以外に由来する物の痕跡はありません。
ちなみに、HDが243体分、人間が32人分です」
「分かった。ご苦労。データは随時火星本部へ転送し、作業を継続してくれ」
「了解しました」
トリトン基地司令官と調査作業主任とのやりとりは、
このようなものだった。
* * *
それとは全く対照的に、
トリトンからはるか遠く離れた、プロキオン星系の宇宙空間では、莫大な量の艦艇の破片が漂流したままだった。このままにしておいたら、その辺の適当な大きさの小惑星の引力に捕らわれ、宇宙軍のマークが描かれた金属片が回る輪を持つ小惑星になることだろう。
「宇宙軍火星本部より、ふたご座方面軍ポルックス星系防衛隊へ。先の戦闘のあったプロキオン星系へ急行し、現場確認及び調査を実施し、残留物の回収計画の策定を早急に実施し本部へ報告せよ」
宇宙軍本部は、ふたご座方面軍にこのような命令を下し、HDや人間の一部が小惑星の周りを回り続けないように対処することにした。
* * *
「機関出力90%。時速9億キロメートル。亜光速航行中。冥王星圏到達まで、約5時間」
[はまかぜ]の航海長、ハイニ軍曹が報告した。
「了解。航路に異常はないか?」
専任曹長のウメが聞いた。
「はい。異常ありません」
「よろしい。
「艦長、軍本部は、プロキオンで起きた事件の対応をはじめるようです」
ウメは、アツシつまり[はまかぜ]イシダ艦長に言った。
「そうなのか。変な事件が色々と起きてるな」
「はい。本当に不可解です」
ウメは答えた。
「敵は、レーザー攻撃オンリーだって?」
「はい」
「レーザーの種類は、宇宙軍のものなのか?」
「映像記録や破片の状況から、そう思われます」
「反乱軍とか、海賊とかってことかな?」
「色々な要素の各方面で調査中です」
ウメは、相手が何者なのか、宇宙軍本部が懸命に調査していることをうかがわせた。
「人間もかなり犠牲になっただろうな」
「海王星での輸送船団では、おそらく50名以上、プロキオンでの戦闘では、その10倍以上は犠牲者が出ていると思われます」
「そうか。HDの被害は?」
「おそらく、その100倍にはなるかと」
「そうか。残念だな」
アツシは、ウメが破壊されて、バラバラになる様子を想像した。
「なぜですか?」
ウメは、アツシに質問してきた。
「だって、破壊されたら、死ぬだろ」
「私たちに、死の概念はありませんが?」
「でも、怖いだろ?」
「怖い、という概念もありませんが」
「だって、体がバラバラになったり、頭が取れちゃったり、そうしたら大変だろ?」
「バッテリーと動力部が分離したら可動しなくなりますし、バッテリーとメモリー回路等が遮断されれば、演算機能が停止します。それだけです」
「怖くはないのか」
「機能が停止するだけです」
人間とHDとの、こういう会話は、まだまだ理解し合えないのだろうか。
「機能が停止した後はどうなるのか、心配にならないのかい?」
「ご質問の意味が理解できませんが、
私たちは、機能停止後を推測する必要がありません」
そういうものか。
アツシは、HDにとっては、それが良いことなんだろうと思った。
「機能停止後、分解されたり、データを取り出されたり、スクラップになったり、
他のHDの処分方法を見て、機能停止後にどう扱われるか推測することはできますが、それ自体に意味はありません。どう扱われるにしても、その時点で私たちは記憶メモリーも演算回路も停止していますし、何よりもそれが人間のためになるという、私たちの本来の存在意義のためであるからです」
ウメの話を聞きながら、
アツシは、目が熱くなってくるのに気付いた。
「ただ最近、不思議な感覚を覚えました」
「不思議な感覚?」
アツシは聞いた。
「私は、MHD-7258-6637-1563号です。
これが私の固有管理番号です。
私はこれまで、管理者である人間に、この番号で呼ばれたことはありません。
しかしあなた方は、この番号にリンクする、特別な名前を付けてくれました。
私は、ウメです。
他の何万体ものHDとは違い、
私は、ウメと呼ばれると、不思議な感覚になります」




