【25】[しらかぜ] 時速10億キロ 亜光速航行
「機関より艦長へ。準備完了です」
「艦長より機関へ。よろしい」
機関室は準備ができたようだ。
「トロッコ・フライってさ、
リニアモーターカーみたいなもんじゃないの?」
俺は、サクラに聞いた。
「ピンポーン。理屈は同じです」
サクラがおどけるのを、久しぶりに見た。
「で、重力場の形成方法は?」
「艦の核融合原子炉で発生した素粒子を射出します」
「安全性は、確立してるの?」
「核分裂原子炉よりはるかに安全なのは、ご存知でしょう。核廃棄物も生成しませんし」
「サクラ、説明ありがとう」
「もう頭に入っているはずですので、思い出す努力をしてみてください。それが記憶を引き出すスイッチです」
「あ、はい」
それがあのヘッドセットから頭へ転送された情報を引き出す方法か。
「機関より艦長へ。原子炉稼働率75%」
「艦長より機関へ。了解」
「トロッコ・フライは、稼働率50%以上で可能です」
サクラが念を押した。
「よし、行ってみっか」
ピーッ!フィーッ!
サクラが号笛を鳴らした。
「艦長より達する。
本艦は、これより海王星軌道へ向かう。
所要時間は、約4時間30分。
航行中は、航路の安全確保と周囲警戒を厳となせ。
目的および到着地点の詳細は、現時点では不明である。情報が入り次第伝達するので、いかなる状況においても即時対応可能な準備を怠らないように。以上」
フィーッ!ピーッ!
サクラの号笛で終わった。
「艦長より、航海長」
俺は、ハロヤ航海長に言った。
「飛ばしてくれ」
「了解しました」
ハロヤ航海長は答えた。
「こちらブリッジ、航海長より機関へ。
イオンエンジン出力アップ80%へ」
「機関から航海長へ。出力80%了解」
艦内にわずかに響いていた機械音が大きくなった。
体が少し、シートの背もたれに押し付けられる。
「現在、出力50%」
「ベリーウェル」
俺は、答えた。
* * *
「距離50。減速15%」
駆逐艦[はまかぜ]の下部カーゴドア、つまり荷物出入口に補給艦が接近していく。
「補給艦CA-77より[はまかぜ]へ。
タイプCでドッキングします」
「4、3、2、1」
ガコン
艦体同士が接した。
ガシャン!プシュー!
「ドッキング、ロック、完了」
四角い大きな荷物搬入用のタイプCのドアに、
補給艦の同じ形の接続部がドッキングした。
人が1人通れる直径1メートルほどの円形接続部は、
タイプA。
1辺3メートルの4角形の、多少の荷物が搬入できる接続部は、タイプB。
今回のタイプCは、1辺が10メートルの四角い搬入口で、大型機械や兵器の搬入に使う。
そしてこれらの接続部形状は宇宙軍艦船、全て共通だ。
「両艦内気体状態確認。異常なし」
[はまかぜ]側と補給艦側の中の気圧や温度や酸素量などが同等であることが確認された。
プシューッ
ウィーーーーーーン
両艦のドアが同期して開いた。
「よーし、ご苦労さん!」
「搬入、急げ!」
色々な号令が飛び交い、物資や武器、ミサイルなどの搬入が始まった。
* * *
シートの背もたれに、体が押し付けられ続ける。
加速が続いているのだ。
「現在、出力75%、時速8億キロ」
「ベリーウェル」
窓の外の景色にある星たちは、すごーく遠くにあるので、時速8億キロのスピードで飛んでも、後ろへ流れて行くようなSF映画のようにはならない。
「出力100%、時速10億キロ。亜光速域です。
目標まで、あと約140分」
すげーな。
ほぼ光の速さで飛んでいる。
電車の窓の外のような比較対照が近くにないので、
真っ暗な宇宙にたくさんの星が輝いている景色は
ほとんど変化しない。
変わったように見えるのは、艦の後方の様子をモニターしている映像に映る太陽が、他の星と同じ大きさに見えることだけだ。
こう考えてみると、
宇宙戦争とか、宇宙戦艦とか、銀河鉄道とか、
そういうものに描かれる宇宙ってのは、
現実とはだいぶ違うものなんだな。
要は、比較対照が無いから、
動いているのか、止まっているのか、
分からないということだ。
そこでひらめいてしまったのが、
アインシュタイン先生だ。
この宇宙に、止まっているものは無い
ということ。
ウチの部屋で寝ていても、
地球は太陽の周りを動いている。
その太陽も銀河系の中を動いている。
その銀河系も局部銀河群の中を動いている。
その局部銀河群は、おとめ座銀河団にあって、
おとめ座銀河団は、ラニアケア超銀河団にある。
中の1つ1つも、中間の1つ1つも、全体も、
全てが動いていて、
止まっているものは、なにひとつ無い。
「目標まで約5億キロ。減速開始します」
「ベリーウェル」
若干、体が前に浮きそうになる。
艦にブレーキがかかりはじめた。
こんな経験は、友だちは誰も経験したことないだろう。
感動的以外の何物でもない。
ヒューンーン。
減速中だ。




