【23】駆逐艦[いそかぜ][つきかぜ] 出航準備
「おはよ」
カズは50番ハンガーにやってきて、シンヤに声をかけた。
「おー。寝てきたのかよ」
シンヤは、ハンガーの隅でパソコンをいじっていた。
「そんなのいじって、なんか分かんのかよ?」
カズは聞いてみた。
「知りたいことは、全部分かるぜ」
シンヤは懸命にパソコンをいじっている。
よく見ると、パソコンのコネクタにユリが人差し指を差し込んでる。
なーるほど、パソコンで調べながらユリから情報を引き出してるのか。
「さて、俺も寝てくるかな」
シンヤは立ち上がって、ユリと出て行った。
カズがハンガーを見回して、空中にある駆逐艦[いそかぜ]を見上げていると、
「おはよー」
シンヤがユリと戻ってきた。
先ほど出て行ってから、10分も経っていない。
「よく寝たかよ?」
「あー、ちと、寝すぎたかもな。ふぁ~」
シンヤはまだ眠そうに大きなアクビをした。
「さて、やるか」
カズは、スミレとともに63番ハンガーに向かって、ムービング・ロードに乗って行った。
「しかし、便利だよな。時空転移だっけ?」
「はい」
シンヤの質問にユリが答える。
「ここの転送室からウチに帰って、好きなだけ寝て、メシ食って、マンガ読んで、また時空を飛んで、ここを出発した時間に戻ってくれば、こっちでは全然時間が経ってないんだもんな」
「人類がこの法則を証明するのに、2,000年の時間が必要でした」
「そうなんだねー。発見者は偉大だね」
シンヤは感心した。
「ただ残念ながら、人類はこの法則を発見しましたが、不可能なことがただ1つ。
どうしても、過去に行くことはできません」
「そこなんだけどさー」
シンヤには納得できない部分があるらしい。
「俺が往き来してるのは、ここと過去じゃないの?」
シンヤは、首をかしげながら言った。
「カドマツ少尉は、2020年5月19日の人類です。
その日が少尉の[今]であって、[現在]なのです。そして、この7200年代は未来です。少尉の[今]とこの未来の中では往き来できますが、少尉の[今]より前の過去に行くことができない。ということです。
ですので、先ほどは2020年5月19日13時00分に戻りましたが、また戻りたいと思った場合、13時00分より0.1秒たりとも前には戻れないということです」
ユリは、詳しく説明した。
「なるほど。うん。うん。なるほど。なるほど。
なんか、分かる気がするよ。
過去も含めて自由に時間が往き来できると、どう考えても、なんかメチャクチャだよな。俺の生きてる[今]よりも前には行けないってのは、なんか、分かる気がするよ」
カドマツ・シンヤは、高校1年生としては、頭が良い方である。
「さて、出航時刻36時間前です。平均的にはこのあたりで乗員召集し、各部署の出航準備を開始すべきかと思われます」
ユリは50番ハンガーで、シンヤに、
スミレは63番ハンガーで、カズに進言した。
「そっか、分かった。じゃ、手配を頼む」
で、別々の場所で、
シンヤもカズも、同じ指示をした。
ユリとスミレは、HD間コミュニケーションシステムで駆逐艦[いそかぜ]と駆逐艦[つきかぜ]の乗員に召集命令を発出した。
2000時。
順次、乗員が集まってきた。
しかし、やたら人数が多い。おそらく、[いそかぜ][つきかぜ]だけの乗員ではないのだろう。しかもやたら気になるのは、人間に対し、HDが100倍以上はいるだろう。
「少尉、服をお着替えください」
ユリが、シンヤに制服を持って来た。
カーキ色のシャツにパンツ。茶のネクタイにオリーブ・グリーンの上着。金ボタンに、襟章、肩章、袖章。
気持ち曲げて制帽をかぶってみた。
パチパチパチパチ。
シンヤの制服姿を見て、
これも制服姿のカズと、ユリとスミレが拍手した。
「記念に写真をお撮りしますか?」
ユリとスミレは、
シンヤとカズの制服姿の写真を撮った。
古ーい、古ーい、アメリカのミュージカル映画のようだ。あれは、ジーン・ケリーだったか、フランク・シナトラだったか。「錨をあげて」なんてのもあったな。
あ、あれは水兵さんのスタイルか。
「ユリ、点呼はとったか?」
「現在、5体のHDが未到着です」
「よし!急いで出航準備を進めるぞ!」
0800時
50番ハンガー駆逐艦[いそかぜ]
「出航予定時刻まで、あと24時間となった。出航準備について不足物品や問題点、改善箇所がある場合は、優先的に所属長へ報告の上、対処すること」
ユリが全員に通達した。
0800時
63番ハンガー駆逐艦[つきかぜ]
「出航予定時刻まで、あと24時間となった。計画的に休憩を取り、自身の体調について慎重に管理を行い、多少にかかわらず気になる点がある場合は、速やかにドクターの診察を受けること」
スミレの声が、63番ハンガーに響いた。
「体調管理は大切だね。さすがスミレだ」
カズは、スミレを褒めてやった。




