【21】ボチボチ、練習開始かな
「オリオン座方面軍司令部から、宇宙軍本部へ。
リゲルB、惑星デルタより、緊急救助要請」
宇宙軍火星本部の通信士官が、遠くはなれた銀河の彼方からの通信を受け、宇宙軍総司令官イアナ提督へ報告したのは、駆逐艦[しらかぜ]と[はまかぜ]が訓練航行として火星上空を3周回した頃だった。
略式任命で、シンヤは少尉となり、駆逐艦[いそかぜ]艦長となり、カズは少尉となり、駆逐艦[つきかぜ]の艦長の任命を受けた。
ともに、おおいぬ座方面軍第3駆逐艦隊所属である。
「命令を受信しました。
カドマツ少尉は50番ハンガーの駆逐艦[いそかぜ]に、ドバシ少尉は63番ハンガーの駆逐艦[つきかぜ]に乗艦し、2日後の0800時までに出航準備を完了し、報告すること。本命令受信後はHDに向けて復唱し、敬礼実施によって、命令受諾となす。以上」
ユリが、神妙に伝達した。
「カドマツ少尉、了解しました」
「ドバシ少尉、了解しました」
2人は、ユリに向けて、敬礼した。
シンヤとカズは、ユリとスミレに挟まれて、
ハンガーに向かって歩きだした。
* * *
「本艦は、高度5,000メートル、水平、時速8,000キロで、火星周回航行中。これより4周目です」
[しらかぜ]のハロヤ航海長が報告した。
「よろしい」
俺は、報告を承認した。
「異常はないか?」
「ありません」
「では、訓練を」
「了解」
ウーーーッ!
ウーーーッ!
警報が鳴った。
俺は、ストップウォッチをスタートさせた。
「第2デッキ、厨房付近で、火災発生。
消火班、救助班、警備班、設備班は出動せよ」
サクラが訓練の開始を、館内に伝達した。
「艦長、こんな時ですか、辞令を受信しました」
サクラの胸の部分が透過され、ディスプレイになった。
「おおいぬ座方面軍司令部発。
当該HDを、
駆逐艦[しらかぜ]所属の専任曹長に任命する」
俺は、サクラのディスプレイをOFFにした。
「サクラが、専任曹長?」
「はい」
「そう言えば、HDにも階級はあるのかい?」
「基本的にはありません。HDが人間に命令する事態が生じてしまうのを防止するためです」
「だよね」
俺は、サクラのディスプレイをONにした。
「[しらかぜ]艦長クロダ中尉より、司令部へ。
ただ今の辞令、了解しました」
俺は、サクラに敬礼し、ディスプレイを切った。
「頼むよ、専任曹長」
警報が止まった。
「消火班より統括管理へ。
火災発生区域の消火完了。負傷者なし、発生原因については警備班と設備班が調査し、後に報告いたします」
「ブリッジ了解。統括管理は、これより専任曹長の任命を受けた」
「消火班、了解。おめでとうございます。以上」
俺は、サクラのやり取りを気持ちよく眺めていた。
「HDの艦長もいればいいのにな」
「そういうのを、買いかぶりと言うのです」
サクラは、謙遜して言った。
「ストップウォッチ、止め忘れたよ」
俺は、編隊航行している[はまかぜ]を眺めた。
「[はまかぜ]から入電。
本艦はこれより火星大気圏を離脱。射撃訓練を実施する」
通信士官のHDが報告した。
「アツシのやつ、やるなー」
俺は、通信回路をON LINEにした。
「[しらかぜ]了解。艦を壊さないように」
左側で編隊航行していた[はまかぜ]が、
艦首の上昇角を上げ、速力を増した。
* * *
「艦首上下角プラス10度。速力、時速20,000キロまで加速。火星の重力圏を離脱する」
アツシは、航海長に命令した。
「時速20,000キロ。アイアイサー」
航海長は復唱した。
「測距、障害物に注意せよ」
「測距、アイアイサー」
「駆逐艦[はまかぜ]より、火星防空司令部へ。
本艦はこれより空間射撃訓練を実施する。そのため、空域6000から6050の範囲にダミーターゲットの誘導を要請する」
アツシは、射撃訓練用の目標を準備するように、本部へ要請した。
「防空司令部から[はまかぜ]へ。了解しました。
ダミーターゲット発射は、15分後です」
「[はまかぜ]了解」
[はまかぜ]は、水平航行していた[しらかぜ]から艦首を25度上げて、グングンと加速して行く。
* * *
アツシのヤロー、カッケー操艦だな。
「うまくいけば、石田少尉も中尉へ昇級ですね」
サクラが言った。
「君に作戦や計画を言えば、各部署への通達は、君が瞬時にやるのかい?」
「はい。例えばAという目標を攻撃せよと命令すれば、関係各部署が必要な対応を予測したプログラムを組み、自動的に連携して命令完遂まで実行します」
「途中変更は?」
「臨機応変に対応します」
「なるほど。頼もしいねー」
「それが私たちの職務です」
火星の防空基地から、ダミーターゲットが打ち上げられるのが見えた。
1、2、3、4、5発か。
上空で、太陽の光を反射して、[はまかぜ]がキラリと
光った。




