【19】駆逐艦[しらかぜ][はまかぜ] 発進
「統括管理より達する。各部署、出航準備進捗状況を報告せよ」
駆逐艦[しらかぜ]艦内に、サクラの通達が響いた。
各部署長がHDの場合は、HD間の伝達システムで報告され、人間同士では、言葉を使って報告しなければならない。
「CICより、統括HDへ。砲雷、索敵、兵器、各部点検終了。稼働準備完了」
「よろしい」
CICからの報告に、サクラは答えた。
「機関部より、統括HDへ。機関部、準備完了」
「よろしい」
「医務、衛生、調理より、統括へ。準備完了」
「よろしい」
俺は、艦長室を出て、ブリッジへ入った。
ピィー、フィー!
士官が号笛を吹いた。
「艦長は、ブリッジ」
号笛は、艦長が乗艦する時や、ブリッジに入る時など、艦長の所在を知らせるための笛である。
しかし、考えてみれば、かなり昔からの伝統である。
ゆうに5000年続いている。
さらに考えてみれば、この艦名が理解できない。
今までに触れてきた艦名は、全て日本語だ。しかも、1940年代中期に地球上で起きた第二次世界大戦で使用された艦名も使用されている。
俺らは、そういう艦名を聞いたことはあるが、この7000年の時代の人にとっては、意味が無いのではなかろうか。
「艦長、現在、0500時です。出航予定まで3時間。お気掛かりな案件はございますか?」
サクラが確認をおこなってきた。
「私からは特に無いが、君からは?」
「いたって順調に進捗していると思われます。私個人として思うに、艦長はさすがだと思います」
サクラは言った。
「ずいぶん、人間臭いことを言うねー」
「私は、人間臭いHDですから」
「ありがとう。なんか、嬉しいよ」
「今後もお役に立てるよう、努力いたします。では」
サクラは、ブリッジから出て行った。
* * *
31番ハンガーでは、駆逐艦[はまかぜ]の出航準備が急がれていた。
「HDが3体足りませんね」
ウメが、アツシに報告した。
「他の部署から回せるか?」
「大丈夫だと思いますが、補充はしなくてよいですか?」
「補充要請しても、間に合わないんじゃないか?」
「そうかもしれません」
「じゃ、総員1,197名で報告しておいてくれ」
「了解しました」
アツシは腕時計を見た。
0640と表示されていた。
「艦隊本部から通達です。
本日0700時。各艦内センターブリーフィングルームで、オンラインブリーフィングを行う。各員へ周知せよ」
ウメが報告した。
「お偉いさんは、お話し好きだな」
自分は従うしかないと、アツシは思った。
0700時ぴったり。
オンラインブリーフィングが始まった。
ピィーーー!フィーーー!
司令に注目するよう、号笛が鳴った。
「諸君、おはよう。
諸君にはこれから、警戒航行に出てもらう。
諸君らは、おおいぬ座方面軍所属であるが、今後の展開によっては超長距離を移動し、異常事態発生区域への応援もありえる。そのことを予め理解し、日頃より訓練を重ね、我等が銀河系全体の期待に応えるべく任務を果たされんことを願う。以上」
モニターの中で司令が敬礼すると、
室内の全員が立ち上がって答礼した。
ピィーーー!フィーーー!
「司令は退出」
「ブリーフィングは、以上」
ブリーフィングルームは、騒々しくなった。
人間は10人。あとは大勢のHDなのに、
騒がしくなるのが、なんだか可笑しい。
0715時[しらかぜ]
「機関より艦長へ、イオンエンジン基本回路始動。核融合炉異常なし。電力その他エネルギー供給システム異常なし」
「ベリーグッド」
機関長は人間だ。名前はまだ覚えてない。
0730時[はまかぜ]
「統括管理より艦長へ。全部門、最終確認完了。最終乗艦人員1,197名。機関、運航、武装、異常なし」
「よろしい」
0740時 太陽系方面軍司令部
「おおいぬ座方面軍第3駆逐艦隊より、太陽系方面軍司令部へ。[しらかぜ][はまかぜ]出航準備完了」
「司令部、了解。0800時の出航を許可する」
27番と31番のハンガーから、生命維持に必要な気体が火星の大気へ放出された。
「統括管理より艦長へ。艦体気密異常なし」
「よろしい」
「機関より艦長へ。重力制御スラスター噴射、艦体固定アンカー解除します」
「よろしい」
「基地制御より[しらかぜ]へ。ハンガードーム全開します」
「[しらかぜ]了解」
火星表面の大きな基地にいくつも並んでいる、半球状のドームのうちの1つがゆっくりと半分に割れて、中の宇宙船が見えるようになった。
ほどなくして、4つ隣のドームも同じように割れた。
27番と31番ハンガーの2艦は、固定アンカーを解かれ、空中に浮いていた。
0800時
「[しらかぜ]発進!」
「[はまかぜ]発進!」
両艦は、下方スラスター噴射で100メートルほど上昇してから、艦尾イオンエンジンを噴射し、
火星基地を離れて行った。




