【18】銀河系辺境での異常事態
「この腕時計を、左腕に着けてください」
サクラが言った。
スマートウォッチふうの腕時計だ。
未来の物だし、たぶん色んな機能があるんだろう。
「内蔵チップの情報がこの端末へ送られ、少尉のポジション、つまりスキルポイントやレベルなどの個人情報を表示させることができます。少尉は、人類バージョン1ですので、デバイスとして面倒なのです」
久しぶりに、サクラの説明にムカついた。
時計を左腕にはめて、表面をタッチしてみた。
色々と数値などが流れて表示されるが、なんだかよく分からない。
もう一度タッチしてみると、
「UPまで75」と表示された。
たぶん次のレベルアップまで、75ポイントのスキルが必要なんだろう。
「この世界へ来てから、いちいちスキルアップしてるの?」
俺はサクラに聞いてみた。
「もちろんです。少尉が見たり聞いたり、シミュレーションをおこなったり、上官に敬礼をしたり、部下に命令を下したり、全て、スキルポイントとして記録されます」
「ポイントが高いのは?」
「もちろん、実戦で敵艦を破壊することです」
あ、そりゃ、そうだ。
「さて、少尉、いや艦長、出航36時間前です。乗員を召集すべきかと考えます」
「そうだな。頼めるかな?」
「了解しました」
サクラは、乗員召集を発令した。
もちろん黙ったまま、内蔵の通信システムで。
* * *
「クロダ艦長が、乗員召集を発令しました」
ウメが、アツシに報告した。
「俺もした方がいいのかな?」
「その方がよろしいかと」
「じゃ、頼むよ」
「了解しました」
ウメも、乗員召集を発令した。
「ところで、副長は誰かな?」
「ハイニ専任曹長です」
ウメは答えた。
「ハイニねー。
人類バージョンいくつだい?」
「人類バージョン2.6.2です」
「水掻きとかあるのかな?」
「長いお付き合いになるでしょうから、
必要であればご自身でお確かめください」
ウメは、控え目に答えた。
ペラペラ喋ると、個人情報保護違反にでもなるのか。
「ウメの立場は、どうなるんだい?
いつも、俺のそばにくっついてるだけ?」
「艦長専属のHDとして、本艦を一括監視します」
「そりゃー、心強いや」
「人間は、何人乗るんだい?」
「10名です」
「人間10人と、HD1,190人てことか」
「はい」
* * *
「クジラ座方面軍第5防衛隊、旗艦ルイテンより、ミラ・アルファ本部へ。
本艦より散開発射した偵察衛星48機のうち、特定方向の5機との通信が途絶。意図的な干渉と判断されます。これより本防衛隊は、調査のため当該区域へ急行します」
クジラ座にある恒星ミラの惑星、ミラ・アルファにある、クジラ座方面軍に緊急通信が入った。
この第5防衛隊の旗艦は、戦艦[ルイテン]で、クジラ座にある星から名付けられた。この隊は他に戦艦2隻、空母2隻、重巡洋艦5隻、軽巡洋艦8隻、ミサイル巡洋艦3隻、駆逐艦12隻、その他小型艦艇で編成されていた。
「司令!また1機、消滅しました」
ルイテンが放出した偵察衛星をモニターしていた士官が報告した。
「衛星は、何かを探知していないのか?」
防衛隊司令のタタン大佐は、士官に尋ねた。
「消滅前に、集束エネルギーを検知しています。やはり何者かからの攻撃です」
「詳細なデータを、本部へ送れ」
「了解しました」
ミラは地球から約300光年離れた距離にある赤色巨星である。地球から観測するとクジラ座を形成する星の1つで、最も明るくて、赤い星だ。
そして最近、この付近で人類の未知の現象が起きていた。
人類は、重力や異次元航法を利用した宇宙船による超長距離航海を実現させ、直径約10万光年に及ぶ大きさの天の川銀河系内を探査し、その内部については、かなり詳細な情報を得ることができた。つまり、銀河系内部での生命の起源や繋がりについては推測が可能になったが、今回のように銀河系の外縁部に、銀河系の外から何らかの意図的な干渉があり、仮にそれが生命体によるものだとすると、その由来が全く分からないのである。
こうした状況から、宇宙軍はクジラ座方面の警戒を重くする方針とし、艦艇及び人員の派遣を計画したが、すぐに増強できるものでもない。
だから、とりあえず、人員については市販のオンラインゲームで適正試験をおこない、見込みのあるプレーヤーを時空転移で集結させ、訓練の上、実戦配備する計画を立てた。
このことについて、アツシは強制的に脳内に情報注入されたが、俺と、シンヤと、カズは、詳しいことは知らなかった。俺がこのことを知ったのは、もう少し先のことだ。
だから、今はまず、俺の駆逐艦[しらかぜ]の出航準備を進めることが、第1の優先課題だ。




