【14】銀河系憲法
「もう、乗ってみてもいいのかな?」
俺は、整備員に聞いてみた。
「正式な任官式は明日ですが、その前に巡視する方は、たくさんいらっしゃいます」
整備員は、きちんと答えた。
「じゃ、ちょっとだけ」
俺は、そう言うと、
アツシとサクラとウメと、エレベーターで艦内へ上がった。
「これが、俺の船だってよ」
オモチャに見えるか?俺は、アツシに言ってやった。
「オモチャには見えねーけど、本物かは分からん」
「疑り深いやつだな」
「あ、忘れていました。クロさんは、私と握手してください。で、アツシさんは、ウメと握手してください」
俺とアツシは、言う通りにした。
「埋蔵チップの能力を最大にしました。あなたがたが見た物や覚えた事、知識や技術やノウハウ、スキル、そうしたものはチップに累積され、バージョンアップの際に有利なポイントとなります」
「人類バージョンいくつっていうのを上げるのに使えるの?」
「はい」
サクラは答えて、さらに、
「この制度は、銀河系圏内の憲法で定められており、チップの改造や、権利の売買または譲渡等は、厳しく禁じられています。また、一番悪用されやすいのが、チート行為です。金銭やアイテム等でスキルを売買しても、実際の経験で得たスキルではないため、実戦では逆に危険を招く場合があります。これを防止するため、銀河系刑法第1条で固く禁じられています」
法律まで、実世界とゲーム世界が混在してるみたいだ。
「ここが機関室です。核融合原子炉とイオン発生エンジンが搭載されています」
サクラが説明しながら、艦内を歩いていく。
「ここが兵器庫です。ミサイルや弾頭などの物理的兵器が格納されています」
「ここが、備品倉庫です。食糧も含めて、艦内で必要な物資が保管されています」
「ここが、搭乗員居住区画です。この[しらかぜ]の搭乗員数は、1,200名です」
「ここが、艦首魚雷発射管室です。同時に6本の魚雷が発射可能です。ちなみに、艦尾にも同時に4本の魚雷が発射できる発射管室があります」
「アツシ、もういいんじゃないか?まだ、疑うのか?」
俺は、アツシに言った。
「おう、もういいよ。疑ってるわけじゃねーんだよ。夢見てるみたいで、なんだかよく分かんねーんだよ」
「正直、俺もおんなじ気分だよ。ウチで目が覚めたら、全部夢だった!なんて、なるんじゃねーかな?」
「そろそろ、お部屋でお休みください」
ウメが言った。
「なんでしたら、ご自宅へお帰りになってもいいのですよ?」
今度はサクラが言った。
ウチとこっちの世界との往き来は、気を失うこともあるかもしれないけど、結構、簡単だ。
だから、こっちでの滞在時間が長くても、色々と楽しめるし、転移時間接続すれば、無駄な時間を無くすことができる。
「こっちで休もう」
俺は、アツシに提案した。
「今、連絡が入りましたが、シンヤ様とカズト様が、月面基地に到着されたそうです」
サクラが報告をくれた。
「なあ、ウメ。もっと簡単にこの世界のことを知る方法は無いんかい?」
アツシがウメに聞いた。いい質問だ。
「先ほども申しました通り、実際に経験した色々な知識や技術の集積がスキルポイントとなって、その累積点によってバージョンアップがなされます。機械的にデータを圧縮して脳へ直接記憶させるシステムはありますが、それでは、スキルポイントが加算されません」
ウメは、答えた。
「なんか、こう、操艦技術とか戦闘経験とかじゃなくて、なに?銀河系のこととか?星のこととか?スキルポイントの低い常識的なことというか…」
アツシは、恥ずかしいのだろうか?
あるいは、単なる面倒くさがりやなのか?
「分かりました。スキルポイントの低い、誰でも知っているような知識を選んで、圧縮記憶させましょう」
ウメは、提案した。
「うおっひょー!そりゃ、楽じゃん!」
アツシは、変に喜びはじめた。
ウメは、壁から、何だか分からない機械一式を引き出した。基地全体は、古臭いSF映画のセットさながらで、逆に見慣れた感じで落ち着くのだが、各部屋の中は、月面基地の部屋と同じく真っ白で、基本的に不必要な物は一切なく、必要な物は壁から取り出せるという最新式の設備が、俺には、まだ慣れなかった。
機械にはヘッドセットが付いていて、ウメはアツシの頭に装着した。ウメの右手の人差し指が機械のある部分に触れると、いくつかの点が光だし、軽い機械音がしはじめた。ウメは機械と指で繋がったまま、しばらくじっとしていた。
「では、開始します」
ウメは、アツシに言った。
「ちょっと待った。痛くないんだろーね?」
アツシの不安症が始まった。
「大丈夫です」
機械音が少し変わり、点の光がチロチロ変化している。
「終了しました」
ウメは言って、アツシからヘッドセットを外した。
「銀河系は、直径10万光年だって!」
アツシは言った。




