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PS72パルサー星系防衛軍  作者: 星野 光一
131/132

【131】スナイパー

PS72パルサー星系、第20番惑星と21番惑星の中間地点。戦艦[ジョージア]が宇宙の星屑と散った所に、[つきかぜ]と[あきかぜ]が到着した。

すぐさま両艦は舟艇を発進させ、[ジョージア]の調査を開始した。

舟艇には、警備部をはじめ技術班の隊員らが乗船し、宇宙軍上層部からの質問に答えられることができる証拠品集めに奔走していた。

空間に漂う残骸や破片はほぼ金属や樹脂の類であり、艦体やいくつかのHDのものであり、人間の痕跡はケサン艦長の制帽ただ一つだけであった。そしてその制帽にはケサン艦長自身の血液が多数付着していることが分かった。

もっとも注目されるであろうHDの残骸については、ようやく十数体分が回収された。

もちろんこれらは、現行型のシルバーの個体たちであった。

痕跡から推測するに、自爆したHDも認められた。


「[つきかぜ]から[もがみ]へ」

「[つきかぜ]どうぞ」

「[ジョージア]の撃沈地点に到着。直ちに調査を開始したが、艦とHDの残骸のみで、人間の痕跡はほぼ無いと考えられる。本艦は今後、重要と思われる証拠品を回収し、[もがみ]に引き渡すため20番惑星領域に向かう。以上」

「[もがみ]了解」

[つきかぜ]の格納庫で機体や機材の納まっていない部分に置かれた物は、ほとんどが[ジョージア]の破片と乗艦していたHDの残骸だったが、ケサン艦長の制帽だけは[つきかぜ]のドバシ艦長が自室で保管し、[もがみ]に到着したらすぐに俺に手渡すことにしていた。

[つきかぜ]のHD維持管理部の興味は、当然[ジョージア]で反乱を起こしたHDにあった。

管理部の係員や技師たちは絶好の機会と考え、回収されたHDの残骸の調査に取りかかっていた。

「とりあえず部品をかき集めて、1体を復元してみました」

彼らにとってHDの設計図は頭に入っているも同然で、部品さえ揃っていれば、それらのピースを組み上げることなど朝飯前なのであろう。

「ご覧のとおり、まったくオリジナルのHDが組み上がりました」

「要するに、何の手も加えられていないということか」

技師たちは議論を重ねた。

「本体に異常が無いとすれば、何らかの指令に基づいて行動したわけだな」

「はい。今、記録を洗っています」

「当然、通常回線ではないだろうな」

「HD専用のコミュニケーション回線でしょう」

帝国のHDたちには、彼ら専用の通信回線がある。

本来であれば、そんな物が存在してはならないのだが、存在することは事実である。

したがって、反乱軍であろうが未知の生命であろうが、帝国のHDがそちら側の手に落ちれば、こちらの情報が筒抜けになるのは当然であった。

[つきかぜ]が間もなく20番惑星領域に入る直前、管理部の技師は、明らかなHDの自爆の証拠となる痕跡を発見した。

それはHDの内部にあった爆発物が爆発したものであった。当然のことながら、通常のHDの内部にはそんなものは無い。何者かによる、後付け工作である。

ただ、その爆発物は後付けであったとしても、通信回路に直接的に繋がってはいなかった。つまり、起爆自体は外からの操作ではなく、HD自身がおこなったと考えられる。

そこでHD維持管理部の技師や係員らに、疑問が沸き上がる。

HDには、自爆という概念があるのだろうか?


クフム警備部長が率いる、[いそかぜ]の索敵調査隊は第19番惑星で発見した施設の調査を継続していた。

調査隊は人間20名プラスHD5体で構成されている。

施設の中には大量のHDが保管されており、工場とも倉庫とも考えられた。

全体を見渡せるほどの光源が無いため全体の様子は分からないが、静寂と雰囲気からして敵の存在は予想できなかったため、調査隊の面々はHDに触れたり施設を見上げてみたりしながら、奥へとゆっくり進んでいた。

チカッ

クフム警備部長がたまたま顔を上げた時、進行方向の2時の角度で何かが光った気がした。

「あっ……」

ドサッ

右後方で音がしたので、部長は振り返りながら言った。

「転ばないよう、足元に気を付けろよ」

「…………」

誰かが倒れていることが分かった。

だが、部長の注意に反応が無い。

倒れている隊員の所へ他の隊員が来て、膝を付いてゆすっている。

「ウグっ」

ドサッ

後から来た隊員も、そこへ倒れた。

クフム警備部長は、体の血が凍り付いた感覚に堕ちた。

「伏せろ!! 狙撃兵だ!!」

警備部長は叫んだ。

「伏せろ!!」

「隠れろ!!」

隊員たちは口々に叫びながら、床に身を伏せた。

ヘルメットライトで照らされた倒れた2隊員の周りには真っ赤な血が広がっていく。

「シルバー、サーチしろ」

シルバーとは隊のHDのことで、部長は彼らに索敵の前触れを命じた。

2体のHDが立ち上がり、柱や並んでいる敵のHDの陰に隠れながら、少しずつ2時の方向へ進んで行った。

カシャッ、カシャッ

HDは足音が大きい。

1体が柱から柱へ移ろうとした時、

シュッ

小さな青い光が空間を飛んだ瞬間、ガシャン!という大きな音とともにHDは倒れた。

「いい腕だ……」

警備部長は呟いた。

「相手はなんでしょう?」

隊員が聞いた。

「分からん。我々をサーチできるHDか、目のいい人間か。いずれにしても、いい腕だ」

部長が答えた。

「感心している場合じゃないですよ」

隊員は、怯えながら言った。

「シルバーB、サーチできるか?」

部長は、柱の陰に立っているもう1体のHDに言った。

「2時の方向32メートル先の部屋から撃っています」

HDはサーチの結果を報告した。

「何人だ?」

「1体のHDです」

部長の問いに、HDは答えた。

「スナイパーは、HDか」

クフム警備部長は、まさかと思った。

32メートルのスナイパーと調査隊の間には、柱や多くのHDが立っている。

それらの間のわずかな間隙を、しかも我々の動きを予測し狙撃するなど、訓練された人間でも難しいだろうに、よもやHDには不可能なことである。

ある程度蓄積されたデータに基づく予測はできるが、人間の行動のように突発的なわずかな未来の行動を予測することがHDは苦手なのである。

「シルバーB、C、狙撃に注意しながら、部屋へ向かえ」

「了解しました」

「シルバーD、Eは、スナイパーが発砲した所を狙え」

「了解しました」

部長の命令通り、BとCは柱やHDに隠れながら、スナイパーがいるであろう方角に進みはじめた。

DとEは、柱やHDの隙間から部屋に向けてレーザー小銃を向け、スナイパーの姿が見えたら撃つ体勢をとった。

カシャカシャ、カシャッ

カチャッ、ジャリッ

シルバーB、Cが同時に柱の陰から別の柱の陰に移った。

シュシュッ

2つの青い光が空中を飛んだ。

ガシャッ!

ドカッ!

シルバーBとCは、ほぼ同時に倒れた。

2体の倒れた位置は10メートルは離れている。

「ありえない」

クフム警備部長は、また呟いた。

「HDにこんなことができるわけがない」

部長は軽く混乱した。

「どうするんですか?」

ヘルメットを押さえて、隊員が駆け寄ってきた。

「かなりの凄腕スナイパーだ。違う方向に動いた2つの標的を、ほぼ同時に撃ちやがった」

部長は非現実的なことを説明した。

「高性能の暗視装置と多少の行動予測で可能でしょう!

そんなに深刻に考えるこたないですよ!

だからこの際、相手は1体なんですから、全員で突っ込めば、やれるんじゃないですか?」

部長に、班長格の隊員が進言した。

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