【130】HD工場を発見
オリオン座リゲル星系での、[スーパー・フレート・ライナー1149号]の遭難の報は、HDの最大生産地であるタイタンをはじめ、銀河系内の経済界及び軍事関係機関に衝撃を与えた。
これまでは敵に関わるHDは旧型ばかりであったが、今回強奪されたのは現行型HDであり、通信の断片を傍受した内容から聞き取れる巡洋艦[なとり]は、18年前にワープ航行中に行方不明となった宇宙軍の艦艇であり、これまでの状況から判断すれば敵の手に落ちた船であると推測するのが自然である。
つまり今回、初めて敵が現行型HDを手に入れた、ということになる。
これは、軍事的に大変な脅威である。
軍備や技術については、常に敵よりも先行していなければならない。同じ物を持って軍事力が均衡を保ってしまっては、優位に立つことができないからである。
しかしタイタンは逆の衝撃である。積載貨物が強奪されたことによる莫大な保険金が支払われ、尚且つ再生産の受注が見込まれ、今後も経済の活況は約束されたようなものだった。
キイイーーーン!
「かなり音が目立つが、大丈夫か?」
偵察用舟艇の中で、クフム警備部長がパイロットに言った。
「撃つ気があるなら、もう撃たれてますよ」
パイロットは答えた。
「ははは、そうか」
警備部長は、それもそうだと言わんばかりに笑った。
「10キロ先の大きな町のはずれに着陸します」
「よし、分かった。大気の成分は大丈夫か?」
「窒素、酸素、二酸化炭素から成ります。人間の生存に適した星より酸素がやや多めですが、逆に元気になるかもしれませんよ」
「ははは、じゃ、居心地が良くて帰還したくなくなるかもな」
パイロットと警備部長は、楽しげに話している。
ずっと駆逐艦の中にいるより、たまにはこのように艦を降りることも刺激になって良いわけだ。
「間もなく着陸します」
パイロットが言った。
「よし、偵察隊も下船用意!」
警備部長が、隊員たちに号令を掛けた。
キュウウゥゥーーーン
パシュッ
パシューッ
舟艇はスラスター調整しながら降下する。
ガコッ、ドゴッ
比較的硬そうな地面に降りたようだった。
キュゥーン……
プッシュゥゥーーーッ
「着陸完了!」
「全員、下船!」
船体に4ヵ所ある乗降口から、偵察隊員が飛び出した。
「武器を忘れるな!周囲を警戒せよ!」
クフム警備部長が、注意喚起した。
「赤外線暗視装置で調べろ」
部隊の伍長が指示を出した。
「前方、えー、約750メートルに建造物があります」
隊員の一人が、暗視装置を見ながら報告した。
「よし、750メートル先の建物を調査する」
警備部長が命じた。
バージョン2.5以上の隊員は、目の集光能力を高めて、暗闇で視力を上げることができる。
この調査隊では、人間の半数がバージョン2.5以上であり、残りの半数はヘルメットの照明を点灯させなければならなかった。
戦闘意欲満々の敵がいたとしたなら、ヘルメットの照明が格好の標的となる可能性が高くなる。
「地面は、岩や土などの普通の地表だな」
「重力が少し強いようだ」
隊員たちは色々な事を報告し合い、情報を共有していく。
「あの建物は、3階建てくらいだな」
「工場のようにも見える」
隊の先頭が建物に到着し、出入口と思われる場所の脇に身を寄せた。
「監視装置でもあれば、コソコソしてもとっくにバレてるだろうな」
隊員が建物の壁や上の方を見上げたりしながら言った。
「いや、とっくに撃たれてるだろうよ」
「そりゃ、言えてる」
「お喋りは終わりだ。そこは開きそうか?」
クフム警備部長は、隊員たちを制して言った。
「吹っ飛ばすしかなさそうですよ」
隊員が出入口を見回したが、取っ手や開閉装置のようなものは見当たらなかった。
「そうか。では榴弾エネルギー砲で吹っ飛ばせ」
部長は後ろの重装備の隊員に言った。
カシャッ
ガチャ
隊員は口径の大きな火器を地面に固定し、発射準備を整えた。
「準備完了です」
「建物から離れろ」
出入口付近にいた隊員たちが、バラバラと散り、地面に伏せた。
「よし、撃て」
クフム警備部長が命じた。
ビュィーーンッ!
ドガーーーーン!
青白い火の玉のような榴弾レーザーが発射され、出入口に命中し壁面に大穴を開けた。
「突入!」
部長の声とともに、地面に伏せていた隊員たちは一斉に立ち上がり、大穴へ突進して行った。
「突入しました」
「敵影なし」
「奥に明かりが見えます」
「よし、奥へ進め」
突入した隊員たちの報告に基づき、部長は明かりの方へ進むよう命じた。
しかしそこは、想像以上に広かった。
隊員たちは明かりの方に向かって進むが、結構な距離があるようだ。しかも、その明かり以外の場所は暗くて、ほとんど何も見えなかった。
「可能な者は、集光度を上げろ」
クフム警備部長が言った。
「ん?」
「なんだ?」
「ひ、人か?」
隊員たちが口々に騒ぎだした。
わずかな明かりに向かって進んでいた隊員が振り返ると、その光に照らされた人影のような物が視界に入ったのだった。
「誰か、ヘルメット照明を点けろ」
敵を警戒しヘルメットの照明を消していた隊員が、敵の攻撃も無さそうなので再び照明を点けた。
「うわっ!」
カシャッ
ガシャッ!
「落ち着け!撃つな!」
警備部長が、今にもレーザー銃の引き金を引きそうな隊員たちを制して叫んだ。
ヘルメット照明に照らされたのは、大量に整列したHDだった。
隊員たちが広い通路を進んでいたのは偶然だったのだろう、その両側の奥まった所にはHDが等間隔に整然と並んでいた。そしてそのHDは型こそ旧型であったが、色は今まで隊員たちが見たことのない白い色をしていた。
「HDはみんな銀色に光ってると思ってたが」
誰かが言った。
「ああ、白いHDなんて初めて見た」
「しかし、すごい数だな」
「ここは、倉庫か工場か?」
誰かが感想を言ったが、誰が見てもそう思う光景だった。
「誰か、この型のHDについて知ってる者はいるか?」
部長が全員に聞いた。
「はい、自分が」
一人の隊員が答えた。
「これを知ってるのか?」
「艦隊へ配属前、自分はHD維持管理省の出先機関におりましたので、多少この型の知識があります」
「そうか。
では、これは、我々の物か?」
「厳密には、我々の物ではありません。
銀河帝国で製造されたオリジナルではない、ということですが」
「では、模造品か?」
「簡単に言うと、そういうことになります。何らかの方法で確保した帝国のHDを改造したか、製造方法や技術を獲得して独自に製造したものです」
「なぜ分かる?」
「オリジナルに変更や改善がなされる場合は、関係者に周知されます。ここにあるHDは、オリジナルから変更されている箇所がありますが、自分にはその周知内容の記憶がありません」
「どう、処理すべきか?」
部長は、改めて対応を尋ねた。
「権利を主張すれば、これらの物は我々の物となりますが、特許権や著作権など知的財産権の有効範囲は銀河系内だけです。このパルサー星系は銀河系外ですので、我々がこのHDに危害を加えれば、もしこの星系を所管する捜査機関などがあるとすれば、我々はそれに対応しなければならなくなります」
「得体の知れないお巡りさんと対峙しなければならないのか」
「もしかしたら、こいつらがお巡りさんかもしれませんよ?」
他の隊員が笑いながら言った。




