【129】フレート・ライナー 遭難
空間鉄道管理局からタイタン知事へ連絡がおこなわれる3時間前、オリオン座リゲル・ベータ星系第5番惑星付近で、全長5キロの宇宙貨物列車が緊急停車していた。
「不明艦まで、距離55,000。さらに接近中」
レーダー担当機関士が言った。
「主任、通信が入っています」
「繋げ」
「こちらは宇宙軍所属巡洋艦「なとり」である。あなた方の列車は空間法に違反している。よって、これより聴取をおこなうため、あなた方を拘束する。
列車を軌道から分離しなさい」
「我々は、ターミナルの運行管理局から何も聞いていない。このため、貴艦の指示に従うことはできない」
「こちらは巡洋艦「なとり」。我々の言っている事は、要望ではなく命令である。命令に従わなければ、貴列車の安全は保証できない」
「…………分かった」
主任運転士は、答えた。
「機関士! 軌道の制御圏から離脱せよ」
「あ、は、はい。軌道から離脱します」
貨物列車は、宇宙空間の見えないレールから離れ、どこからも管理されない、ただの空間に浮くことになった。
「先頭の機関車と最後尾の補助機は、貨物宇宙船を切り離し、軌道に戻りなさい」
[なとり]が命じてきた。
「そんなこと、できるか!
空間鉄道屋として、命に代えても積み荷を奪われるわけにはいかんぞ!」
主任運転士は、[なとり]に抵抗して言った。
「では、いたしかたない」
これが最後の通信になった。
ビュィーーーーーンッ!
ビュィーーーーーンッ!
ドーーーン!!
ドドーーン!!
[なとり]の主砲から2筋のレーザー砲が発射され、貨物列車の先頭の機関車と最後尾の補助機を撃ち抜いた。
同時にその近くに連結されていた貨物宇宙船も何両か破壊され、積載貨物が飛び散った。
積み荷は、星ぼしが輝く宇宙空間をキラキラと煌めきながら拡散していく、大量のHDだった。
空間鉄道管理局の武装列車が到着した時、飛び散ったHDと破壊された機関車の残骸は既に拡散してしまい、あるべきはずの長大な貨物列車の貨車部分は、影も形も無くなっていた。
武装列車とその後に到着した連邦警察が状況を確認し、空間鉄道管理局は事故の5時間後に、[スーパー・フレート・ライナー1149号]が不明艦に襲われ、乗務員8名が殉職し、HD19,000体が強奪された、と発表した。
「こちらBチーム[いそかぜ]。現在、第19番惑星まで10,000キロ。これより夜の面へ降下を開始する」
[いそかぜ]のシンヤが[もがみ]へ連絡してきた。
第19番惑星にも、何者かの活動痕跡が認められる。
我々はこれまでにこの星系で人間と遭遇したことは無いが、今後も人間と出会わないとすれば、この星系は完全にHDの支配下にあることになる。
しかし、そもそもHDは、何かからの指示を受けて行動するのが基本である。
そこに人間が関わらないとすると、HDに指示を出しているのは何者なのだろうか。
一般のHDよりも優位に立つHDが存在するのだろうか?
この問題が、銀河系政府HD維持管理省が、現在のところ最も感心を寄せている部分であった。
「このまま降下すると、海面に着水します」
[いそかぜ]の航海長のハンタ軍曹が報告した。
「海の成分が不明だ。陸地に降りよう」
シンヤは航海長に言った。
「了解です。海岸線沿いの山脈の陰が良いと思います」
「よし、そうしよう」
シンヤは航海長の進言に賛成した。
「現在、高度10万メートル。目標地点は、今は昼です」
「着陸時には、夜になるのか?」
シンヤは聞いた。
「はい。バッチリ夜になります」
「高度、7万メートル」
[いそかぜ]と[きぬかぜ]は、第19番惑星の陰の中を順調に降下し続けた。
「高度1万メートル。現在、海岸線上空です。昼夜の境界もすぐそこです」
海岸線と言われた部分には、その形状が分かるくらい光点が存在し、人工的な何かがあることが想像できた。
銀河系内の星でも、夜の面を見れば光点の有無やその動きなどから、人間やHDが活動していることが分かるのと同じだ。
太古の地球でも夜の面を見ると、先進国と呼ばれる国々の光点の量と、発展途上国と呼ばれる国々の光点の量の違いが、国の形が分かるほどだったという。
つまり、先進国では電気が豊富に使用され、途上国では何らかの理由で電気の使用が制限されていたのである。
「高度1,200メートルです。海岸線沿いの山脈の陰に着陸します」
[いそかぜ]の航海長が報告した。
「よし、慎重にな。周囲に怪しい様子は無いか?」
艦長のシンヤが、航海長に確認した。
「今のところ、大丈夫です。念のため、戦術長が警戒態勢を敷いています」
「よし。それでいい」
パシュ、パシュー!
「降下速度、50パーセント」
パシュ、パシュー!
[いそかぜ]は、下部スラスターを微噴射しながら、着陸態勢に入った。
陸地の所々に光が見える。
しかし、この惑星に人間だろうがHDだろうが何かがいたとして、空からこんな船が2隻も降りて来たら、何かしらの反応を示さないものなのだろうか。
電気はあるようだが、空を見張るシステムは無いのだろうか。
太古の地球では、電気などが使われるはるか以前から、空や宇宙に対して人々は非常な関心を寄せていた。
しかし、関心は寄せていたが、何かいつもと違う事があっても、どうしようもなかったことは確かだ。
この惑星の住人たちも、空から駆逐艦が降りて来ても、どうしようもないのかもしれない。
ドオオオーーーッ!!
「アンカー固定」
[いそかぜ]はアンカーを地表に打ち込み、艦体を固定させ、山脈の陰に着陸した。
「周囲警戒態勢継続。エンジン停止」
キューーーン
キュン、キュン
キュン…………
「警備部長は、調査隊を編成せよ」
艦長は、警備部に惑星調査を命じた。
「警備部員20名HD5体を調査隊として編成します」
「よし。舟艇で行け」
「了解しました」
艦が着陸している時は、鑑底部の発着口は開けないので、格納庫に通じている舷側の搬出入口から舟艇を発着させる。
ウィーン!ウィーン!ウィーン!
警報が鳴る。
「舟艇、格納庫から移動後、舷側搬出口を閉鎖」
ガシューーーンッ
「搬出口、閉鎖」
ウィーン!ウィーン!ウィーン!
「警告!排気まであと2分。警告!排気まであと2分」
イエローの回転警告が回りだした。
キュィィーーイイイーーーン!
「警告!排気まであと1分。風防、乗降口閉鎖。
警告!排気まであと1分。風防、乗降口閉鎖」
キイイイイイーーーーーンッ!!
舟艇のエンジンが安定してきた。
「警告!排気開始!
警告!排気開始!」
シューーー………………。
キイイイイ………………。
舷側搬出口は空気が排出され、無音になった。
回転警告灯が赤に変わっている。
音もなく舷側扉がひらき、暗い中ではあったが、山脈脇の多少平らになっている土地の様子が分かった。
「調査隊舟艇、発艦」
クフム警備部長は、[いそかぜ]に連絡した。
舟艇はゆっくりと、[いそかぜ]の艦外に出た。この星は結構な重力があるようで、下部スラスターを微噴射し続けなければ墜落の可能性がある。
「飛行翼展開」
舟艇は揚力を増すために、飛行機のような翼を両舷に展開して、直進飛行を開始した。
「前方に町のような部分があります」
舟艇のパイロットが報告した。




