【126】PS72パルサー星系は、完全機械化帝国なのか
臨検隊のHDは、[たちばな]のHD8体から爆発物を取り外した。爆発物は、頭部と胸部にあり、電波による遠隔操作が可能であるとともに、HDの頭脳にも結線され、計算結果や思考回路の働きによって起爆することが分かった。
俺は、人間と全てのHDを連れて帰るつもりでいたが、副長が指揮を執るので、HDと共に[たちばな]に残してほしいと具申してきた。
考えてみれば、全ての人間とHDを退艦させてしまったら[たちばな]は漂流してしまうので、俺は副長の具申を認めた。
「[たちばな]は、副長に任せる。これより艦長代理だ」
俺はヒラセ副長に言った。
「はっ。かしこまりました」
副長は、俺に敬礼した。
「みんなで帰る、
と言うわけにはいかなかったが、HDも仲間だということが、理解してもらえただろうか」
俺は、臨検隊の隊員たちにも言った。
「あ、はい……」
「……分かりました」
隊員たちは、小声で答えた。
「貴様ら! しっかり返事をしろっ!!」
大尉が怒鳴った。
「はいっ! よく分かりましたっ!!」
隊員たちは棒のように直立して返事をした。
「では、[たちばな]を第1遊撃機動艦隊に加えて、今後、行動を共にすることとする」
俺は、そう宣言した。
「[ジョージア]までの距離50,000。さらに接近中」
[つきかぜ]のレーダー担当、ホロテ少尉が報告。
「[もがみ]は、何か言ってきたか?」
ドバシ艦長、カズが聞いた。
「いえ、何も返答はありません」
「[ジョージア]が攻撃してくる可能性はあると思うか?」
カズは、今度はスミレに聞いた。
「HDの意図が掴めませんので、可能性が無いとは言えないと思います」
スミレは答えた。
「迎撃態勢をとれ」
カズは全艦に命じた。
ウィーーー、ガシャ
グーーーン、ガチャッ
主砲が[ジョージア]の方向に向けられ、対空速射砲が発射準備され、発射管にミサイルが装填された。
「[ジョージア]が発砲!」
ホロテ少尉が言うとほぼ同時に、レーザー光が[つきかぜ]をかすめて行った。
迎撃態勢をとった途端に攻撃してくるか?
カズは心中でボヤいた。
「迎撃開始!」
カズは、戦術長に命じた。
「主砲、発射!」
シュ、シュ、シュイーーーン!
シュ、シュ、シュイーーーン!
「ミサイル、発射!」
バシュ、バシューーッ!!
バシュ、バシューーッ!!
「主砲レーザーの一部が命中!」
少尉が報告した。
ガガーーンッ!
[ジョージア]の右舷側に、[つきかぜ]の主砲が放ったレーザーの一本が命中した。
ブリッジではケサン少将を殺害したHDたちが、[ジョージア]を操艦し、[つきかぜ]と[あきかぜ]を攻撃していた。
しかし、ブリッジは静寂に包まれていた。レーザーが命中しても、誰も騒がない。
ドーーーンッ!!
艦尾エンジンノズル付近に、ミサイルが命中した。
しかし、HDたちは淡々と仕事をし、会話も叫び声も、何も無い。データが共有され、話す必要が無いからだ。
無残なのは、ケサン少将だった。
グラビティコントロール・シューズのおかげで、足だけは床に吸い付けられているが、ほぼ死後硬直状態の体は艦に衝撃が加わるたびに、艦長席で翻弄されることになった。心停止しているので体内の血流は止まっているが、胸部の傷口に遠心力が加わると、まだ凝固していない血液が放出され、赤い玉となってブリッジを浮遊し始めた。
[たちばな]にいたHDは、人間の葬送儀礼を理解していたのか、乗組員の遺体を水葬に付したようだが、[ジョージア]のHDたちは、今のケサン少将の姿を見ても何も思わないどころか、何かしなければならないとさえ考えないようだ。
両艦のHDたちの思考の違いは、何によるものなのだろうか。
[ジョージア]の戦術担当HDは、レーダーに捕捉した[つきかぜ]と[あきかぜ]に向けて、再度レーザー主砲を発射した。
「[ジョージア]が発砲!」
[つきかぜ]のホロテ少尉が言った。
[つきかぜ]と[あきかぜ]の間を通過するレーザー光のうちの2本が[あきかぜ]の艦尾に命中した。
ウィーーーッ!
ウィーーーッ!
[あきかぜ]の艦内では警報が鳴り響き、救助活動と被害対応で混乱していた。
「こちら[あきかぜ]、艦尾に被弾!」
ヤマナカ艦長は、[つきかぜ]に連絡した。
「艦尾隔壁閉鎖!」
「救助活動を優勢せよ!」
ブリッジから後方確認できる窓の外には、被弾損傷した箇所から艦外へ放出される残骸と共に、HDや人間の姿も見えた。
「くそっ、ひどい状況だ」
ヤマナカ艦長は、拳を握った。
「報復攻撃だ!」
[あきかぜ]は回頭し、艦首主砲を[ジョージア]に向けた。
シュ、シュ、シュイーーーン!
シュ、シュ、シュイーーーン!
ドーーーンッ!
ドガガーーーンッ!!
[あきかぜ]の放ったレーザー砲は、[ジョージア]の艦首と第1砲塔、それにブリッジ基部に命中した。
艦全体に衝撃が伝わり、ブリッジではケサン少将の体が
再び翻弄された。
HDたちは、また[つきかぜ][あきかぜ]に攻撃を加えた。
この宙域は、戦艦1艦対駆逐艦2艦の海戦の場となった。
チューーーーーンッ
[ジョージア]の発射したレーザーは、駆逐艦には当たらなかった。
第1砲塔が損傷した[ジョージア]は、その影響で測距精度が落ちていたのだった。
「今だ!集中攻撃!」
[つきかぜ]のドバシ艦長は命じた。
シュ、シュ、シュイーーーン!
シュ、シュ、シュイーーーン!
主砲を発射しながら、[つきかぜ]と[あきかぜ]は、90度回頭し、[ジョージア]に主砲全門が撃てる態勢をとって、集中攻撃を加えた。
シュ、シュ、シュイーーーン!
バシュ、バシューーッ!!
ピカーーーッ!!
約4分後、[ジョージア]は大爆発を起こし、[つきかぜ]のレーダーから消えた。
「第20番惑星と21番惑星の中間地点で、Cチームにより[ジョージア]が撃沈しました」
「なんだと?」
[もがみ]のブリッジで俺は、レーダー担当のナラル中尉に言った。
「状況が、各種データから読み解けるか?」
「やってみます」
中尉は答えた。
一体、どうしたんだ?
なぜカズは、[ジョージア]を撃沈したんだ?
俺は考えた。
正当な理由があってのことだろうが、できればケサン少将を弔ってあげたかった。
俺は、あの[ジョージア]のブリッジでの記録映像が頭から離れなかった。
なぜHDは、少将を殺害したのか。
[つきかぜ]が[ジョージア]を撃沈したのも、おそらく両艦が遭遇し、[ジョージア]のHDたちが攻撃を仕掛けたのだろう。
今回のパルサー星系が関わる一連の事件は、HDが鍵を握っている気がする。
中性子星、パルサー。
人類が、活動の場とするには、環境が悪すぎるのではないだろうか。
何者かから身を守るのに好都合だとしても、自分の行動への制約が多くなりすぎるのではないのか。
一部のHDは、この劣悪な環境で身を守る術を持っている。この環境で行動が制約されないのは、人間ではなくHDだった。
だとしたら、ここはHDの楽園なんだろうか。それとも活動できない人間のために、使役として利用されているのか。
この星系では、ほとんど人間を見ていない。奥深くでHDをコントロールしているのか、または、人間は一人もいない星系なのか。
もし人間がいないでHDだけならば、完全機械化帝国である可能性が高い。




