【124】突撃部隊、決死の300メートル走
[たちばな]のブリッジでは、[もがみ]所属のHD2体で、[たちばな]にいて電源を切られたHD1体を運ぶという方法で、合計3体の敵のHDを[もがみ]に持ち帰ることにした。また魚雷艇による運搬方法についても、第1便で人間の隊員は先に帰艦し、第2便でHDのみを帰艦させるべきという意見が具申され、ヒラセ副長は俺に報告した上で、この意見を了承した。
HD搬送前の検査で、頭と体が吹っ飛んだ[たちばな]艦長代理と同様に、敵のHDには爆薬がセットされていたことが判明したが、[もがみ]所属のHDには爆薬は無い、と我々のHDが検査について自己報告しても、隊員たちの信用度が回復しなかったためである。
キュイイィィーーーーーン………………
[もがみ]の発着場に空気が充填され、着艦した魚雷艇はエンジンを停止し、隔壁が開かれると格納庫へと移動した。
「おい、待て。
なぜエンジンを停止する?
なぜ格納庫へ移動させるんだ?」
ヒラセ副長が言った。
「貴様らだけ降りればいいことだろう?!」
副長は、語気強く言った。
「もう、魚雷艇は発艦する必要が無いからですよ」
臨検隊のリーダー格である警備部の軍曹が言った。
「何を言ってる」
「危険なHDを[もがみ]に戻すわけにはいきません」
副長と軍曹が険悪な雰囲気になってきた。
いや、副長と、軍曹以下臨検隊全員が対立している。
「司令、お忙しいところ、恐れ入りますが、格納庫までおいでください」
副長は、俺に連絡した。
一応、忙しいんだけどな。と、俺は思いながら、サクラと一緒に格納庫へ向かった。
シュイー
ドアが開き、一瞥しただけで異様さが分かった。
副長と、その他全員が対峙していたからだ。
臨検隊のメンバーには、小銃こそ下に向けているが、腰の拳銃に手を掛けている者すらいた。
「臨検、ご苦労だった」
俺は、すかさず言った。
サクラには、こういう雰囲気は分かるのだろうか。
全員、一応は俺に敬礼した。
「[たちばな]に人間はいたのか?」
「いいえ、いませんでした」
俺の問いに、副長が答えた。
「自動操縦だったのか?」
「いいえ、HDが操艦していました」
副長は答えた。
「で、HDは持ち帰ったのか?」
「いいえ!危険なので置き去りにしました!」
今度は、軍曹が答えた。
「危険?」
その理由についての報告は受けていない。
「HDが爆発したのです。[たちばな]のHDには爆薬が仕掛けてあったのです」
軍曹が説明した。
「本艦所属のHDに、相手の電源を切らせ、本艦へ運搬しようとしたのですが…………」
副長が口ごもった。
「HDは信用できません!奴らは声を出さなくても専用コミュニケーションで意志疎通させています。奴らが実施した爆発物検査の結果など信用できません!電源でさえ、本当に落としたかどうか」
軍曹は唾を飛ばして力説した。
「それで、ウチのHDも置き去りにしてきたのか」
俺は言った。
「危険は、未然に排除すべきです!」
軍曹は興奮している。
「行きは、信用して一緒に乗って行ったんだろ?」
「え? あ、はい、まー、その時は」
「自分の目で、ウチのHDに爆発物が無いことを確認できれば、納得するのか?」
「あ、はい。そうです」
軍曹は答えた。
「よし、じゃ、みんなで行こう」
俺は言った。
俺はHD維持管理部の少尉と技師、警備部の大尉、そして副長とサクラを伴い、魚雷艇に乗り込んだ。魚雷艇には、先ほどの臨検隊の人間20人が乗っていた。彼らは警備部所属だったので、上官の大尉が同行すると知って、今は大人しく座っている。
ガコーーッ
魚雷艇は格納庫から発着場へ移され、隔壁が閉じられた。
ウィーーッ!ウィーーッ!ウィーーッ!
警報が鳴る。
「警告!排気まであと2分。風防、乗降口、閉鎖密閉」
プシュー、ガシャ
シュー、ガチッ
魚雷艇は、操縦席の窓や、乗降口ドアを密閉し、パイロットがロックを確認し、グッドサインを出した。
ウィーーッ!ウィーーッ!ウィーーッ!
キュィィィイイイーーーーーン!
「警告!排気開始。警告!排気開始」
イエローの回転警告灯が、レッドに変わった。
ブッシューーーーーーーーー
発着場のエアが抜かれ始め、
ウィーーッ!ウィ…………
キュィイーーー…………
……………
発着口が開くと、無音になり、魚雷艇は再び[もがみ]の外に出た。
[はまかぜ]までは、300メートルくらいだろうか。
艦の周囲に敵の姿は無いが、だだっ広い空間を300メートル駆け抜けるのは、どこかで何者かが狙っていたとしたら、格好の標的になってしまう。
身を隠せる場所は、この出入口の前にある、[はまかぜ]が破壊した敵艦の残骸だけである。
カサナ中尉は、どうしたらよいものか悩んでいた。
「ピピ [はまかぜ]どうぞ」
「こちら[はまかぜ]」
「ピピ 現在、10時の方向300メートルの、敵艦裏の出入口内にいる。援護射撃は可能か?」
「死角でなければ、可能だが」
「ピピ 了解。一かばちか、やってみる」
カサナ中尉はそう言うと、全員にジグザグに走って[はまかぜ]にたどり着くよう命令した。
それを聞いた隊員たちは、ゴクリと生唾を飲んだ。
遮る物が何も無いスタジアムで、観客席のどこかから照準器の中に捉えられていると思うと、恐怖を通り越した奇妙な感覚に襲われた。
「ピピ [はまかぜ]、3分後にダッシュする」
カサナ中尉は、[はまかぜ]に連絡した。
「了解。警戒する。絶対に着けよ」
[はまかぜ]のイシダ艦長だ。
「敵が撃ってきても、走り続けるんだぞ!」
中尉は、全員に檄を飛ばした。
クィーン
クゥィィーーン
[はまかぜ]の連装機銃が周囲を警戒して、あちこちに向けられている。
「5、4、3、2、1、ゴー!」
中尉の号令で、30人が一斉に飛び出した。
全員、全速力でジグザグに走った。
がむしゃらなので、お互いにぶつかって転倒する者もいた。
ピュン!
ピュン!
どこからか、レーザーを撃ってきた。
ピュン!ピュン!
「うあっ!」
誰か撃たれて、倒れた。
「くそっ!」
カサナ中尉は、倒れた隊員の方へ走る向きを変えた。
「ピピ おい!大丈夫か!」
「ピッ 足がっ」
ピュン!ピュン!
レーザーの銃撃が迫ってきた。
ダラララララララッ!
ダラララララララッ!
ドガガーーーン!!
ガガーーン!
[はまかぜ]が壁の上の方へ向けて機銃を発射した。
ガラガラと壁の破片が降ってくる。
中尉はその間に、隊員に肩を貸し、なんとか走りだした。
「ピピ もう少しだ、がんばれ!」
ピュン!ピュン!
二人をかすめて、レーザーが飛んでくる。
ダラララララララッ!
ガガガーーン!
[はまかぜ]の援護射撃が効いている。
ピシュッ!
ピシュッ!
先に[はまかぜ]に着いた隊員たちが、小銃で援護射撃をはじめた。
ピュン!ピュン!
カン!ガンッ!!
ピシュッ!
ピシュッ!
「ピピ よーし!よくやった!」
中尉と、足を撃たれた隊員がようやくゴールした。
中尉が振り返ると、撃たれた隊員数名が、まだ倒れたまま取り残されていた。
「ピッ ダメです!中尉!」
「ピピ 放せ!」
「ピッ もう、死んでます!」
「ピピ まだ間に合う!」
「ピッ 無理です!諦めてください!」
「ピピ くそっ!!」
カサナ中尉は、隊員たちに抱えられるようにして[はまかぜ]の艦内に入った。




