【123】いつの間にか、中佐かよ
「こちら[もがみ]。[ジョージア]応答せよ」
「………………」
タレク少尉がいくら呼び掛けても、反応は無い。
「サクラ、[ジョージア]の管理権限にアクセスできるか?」
俺はサクラに聞いた。
「操艦はできませんが、ブリッジの記録は分かります」
「何が起きたのか知りたい」
「分かりました」
サクラは、メインモニターに[ジョージア]のブリッジでの記録を映し出した。
艦長席で飲料ボトルを持ったケサン少将がいた。
ブリッジの出入口ドアが開き、十数体のHDが入って来て少将を取り囲んだ。
しばらく会話を交わしている様子が映り、少将がHDと握手をしたり、敬礼を交わしたりしている。
少将を取り囲むHDの輪が狭まり、ブリッジの席にいたHDたちもそこに加わった。
輪はさらに狭まり、少将の姿が見えなくなった。
1体、2体と次々とHDが輪から離れていくと、制帽と飲料ボトルを床に落として、艦長席で上向きに仰け反っているケサン少将が残された。
そして、その胸は、赤く染まっていた。
[もがみ]のブリッジは、沈黙した。
「少将は、HDに殺されたのか」
俺は、呟いた。
「で、[ジョージア]は乗っ取られた」
サクラが言った。
「けど、サクラと同じ、現行型のHDだよ? 俺らが資料として持っている旧型とは違うじゃないか」
俺は言った。
「私のような現行型にも、敵の影響が及び始めているようです」
「そりゃ、困るじゃん」
「はい。防御策を考えないといけません」
サクラは言った。
「なぜ少将は、HDに向かって敬礼なんてやってるんだ?」
航海長が疑問を投げた。
「現行型が敵の手に渡って、既に研究が進められていると思うか?」
俺は聞いた。
「もちろんです。現行型HDが乗艦した艦艇が行方不明となる事故も発生していますから、敵とその事故に関連があれば、敵の手に渡っていても不思議ではないでしょう。敵の手に渡りシステムが改変され、何らかの機能が伝染病のように拡散することを、現行型HDでは防ぐことができません。今後の新型は、その点が改良されるとは思いますが」
サクラは言った。
現行型HDが、敵味方共通のツールとなってしまったら、取り返しの着かないことになる。銀河系内では、人類よりHDの方が数が多いだろう。なにしろ人類が行けない所でHDは活動できるのだから。我々に今できることは、サクラのような現時点で信頼できるHDの協力を得て、対HD戦略の構築を急ぐしかない。
もしHDに、自分たちが理解している以上の機能があるとしたら、主従関係で上にいるはずの少将にさえ敬礼させてしまうことができるのかもしれない。
ヒラセ副長の隊は、[たちばな]のブリッジに繋がる通路にいた。
出入口の自動ドアの電源がオフになっていたので、副長が合図を出して、隊員がスイッチを入れた。
シュイー
ドアが開くと、隊員たちが身を翻らせながら中に入り、片膝を付いたり、柱を支えにしたりして、確実な射撃姿勢をとった。
出入口は、ブリッジの後方にあり、進行方向の窓に向けてある座席に着いている者は、後頭部しか確認できない。
副長が身を隠しながらブリッジに入ると、艦長席、航海長席などに7体のHDの後頭部が確認できた。
このブリッジには、人間はいないようだ。
副長と何名かの隊員が、小銃を構えながら回り込み、前からHDたちに向かって銃口を向けた。
「会話のできる者はいるか?」
副長は全周波数モードで、HDに問い掛けた。
「私が、艦長代理です」
艦長席のHDが立ち上がって言った。
カシャッ!カシャ!ガシャッ!
とっさに隊員たちが銃を構えた。
HDは全部、両手を上げた。
「なんだよ」
「ビックリさせやがって」
隊員たちは、ホッとした。
「この艦には、我が軍の海兵隊員が乗っていたはずだが?」
副長は、艦長代理というHDに尋ねた。
「乗っていた人間は、全て死亡したので、我々で処分しました」
HDは答えた。
「どうやって?」
「人間の儀礼を尊重し、水葬しました」
「本当か?」
副長はHDの答えを、にわかには信じられなかった。
「本当です。本艦と魚雷艇などを含め、500名以上を水葬に附しました」
「そ、それは、感謝する」
「いいえ。人間のお役に立てて、光栄です」
副長の感謝に、HDは答えた。
「それで、本題だが、
君たちの所属は、どこの誰なんだ?」
「私たちは…………」
ババーーーンッ!!
突然、HDの頭部と胸部が爆発した。
いきなりの爆発で、隊員たちは身を守るヒマも無かったが、それほどの被害を受けることも無かった。
つまり、秘密を喋りかけたHDを処分しただけのことだったのである。
艦長席には、HDの下半身だけが残った。
「ひでーな」
「HDも、喋ったら殺されるのか」
隊員たちは、口々に言った。
「副長、このHDたちも、連れて帰ったら爆発するんじゃないですか?」
隊員の一人が言った。
「俺もそう思うが、我々の連れてきたHDに、爆発物検査をさせればいいだろう」
「いい考えだとは思いますが、それは今までの話なのではないでしょうか」
ヒラセ副長は、戸惑った。
隊員たちに、すでに我々のHDに対しての不信感が起き始めている。
「では、とりあえず、我々のHDに、ここのHDの電源をオフにしてもらう。それでいいか?」
「分かりました」
隊員たちは、敵味方両方のHDに銃を向け、[たちばな]にいたHDの電源を切らせた。
この不信感がエスカレートしたらマズいな。
と、副長は思った。
「こちら、連絡用潜宙艦RV-2。[ドク・ワン]レーダーに反応しないが、現在位置を知らせよ」
火星の宇宙軍司令部との連絡艦が、ワープ空間を使ってこのパルサー星系にやってきたが、一応の到着点と決めていた[ドク・ワン]がいないので、途方に暮れているようだった。
「こちら[もがみ]。[ドク・ワン]は、撃沈された。よってRV-2は、本艦へ来られたし」
「え?あ、RV-2、了解」
しばらくすると、少し前に[ジョージア]が去って行った方向から、黒い塗装の潜宙艦が近付いて来た。
「RV-2より、[もがみ]。接舷許可を願う」
「こちら[もがみ]。RV-2の接舷を許可する」
RV-2は、[もがみ]の左舷接舷口でドッキングした。
本来は専任HDだけを連絡用に乗艦させる予定だったが、今回は人間のホスム軍曹が同乗してきた。
「今回、連絡任務を受けましたホスム軍曹です」
軍曹は俺に敬礼し、挨拶した。
「第1遊撃機動艦隊司令官、クロダ少佐だ」
「え?クロダ中佐と伺っておりますが……」
軍曹は言った。
俺は、腕のスキルアップ・メーターを見た。
レベルが38に上がっていて、階級が中佐になっていた。
こいつはアラームやバイブで教えてくれるのだが、気が付かないことの方が多くて困る。
そもそも、こういう昇級については、キチンとした任命とか辞令とかがあった方が良いと思う。
昇級していたのに気が付かなかったなんて、規律やらを重んじる軍隊の中にあって、物笑いの種になるだけだ。
「軍曹、すまないが、この件は君だけに止めておいてくれ」
俺は、恥をしのんで軍曹に頼んだ。
「はっ。かしこまりました」
軍曹は敬礼して、分かってくれた。
「それで、君が来た目的は?」
俺は、軍曹に聞いた。
「銀河系内で、不明艦の出没が多発している件です」




