【121】宇宙軍に、陸軍は必要なのか?
「宇宙軍第1遊撃機動艦隊[もがみ]より、特務護衛艦[たちばな]に告ぐ。貴艦は宇宙軍所属艦艇にもかかわらず、不審な航行行動をおこなっている。
本艦は宇宙軍艦隊指揮権を有する司令艦である。その権限に基づき、これより貴艦に対し臨時検査を実施する。貴艦は本艦の射程距離内にあることを理解した上で、この臨時検査を受け入れるよう、要請する」
[もがみ]の通信担当のタレク少尉は、特務護衛艦[たちばな]に警告した。
目下[もがみ]の魚雷艇が、臨検のために[たちばな]に向かっているが、相手が人間であることを仮定しての警告しかできないし、いつでも攻撃可能であることを理解させなければ、魚雷艇の安全が確保できない。
相手がHDである可能性が高いので、どのような行動に出るか予想することは至難の技なのだが。
[もがみ]は射程距離に捉えていることを分からせるために、常に測距レーダー波を発し続けた。
「繰り返す。
貴艦は、本艦の射程内にある。これからの臨検を受け入れるように」
タレク少尉は、繰り返し警告した。
ヒラセ副長をリーダーとした臨検隊が乗った魚雷艇は、[たちばな]まで50,000の距離にいた。相手のレーダーに捕捉された場合や、相手が何らかの攻撃行動に出た場合は、即座に対応できる体制を敷いて、慎重に航行していた。
いくら小回りの利く魚雷艇でも、相手が新鋭の護衛艦であれば、距離が近付くにつれ危険が増すことは当然のリスクだった。
「[たちばな]停止しました。距離72,000」
レーダー担当のナラル中尉が言った。
「こちらCIC、[たちばな]をロックオン中」
サバラ戦術長が伝えてきた。
「こちら臨検隊、[たちばな]まで30,000。
レーザー・キャノン砲、及び魚雷、発射準備完了」
ヒラセ副長の報告だ。
魚雷艇が装備しているレーザー・キャノン砲は、レーザー波の照射時間が0.2秒で、エネルギーを短時間に一点に集中することができる、高エネルギーの大砲の弾のようなものだ。
駆逐艦以上の大型艦艇の主砲などには通常のレーザー砲が装備され、レーザー波の照射時間は1~1.5秒で、発射した自艦か目標かいずれかが動いていればレーザーの命中箇所が照射時間分ずれていき、引き裂き、あるいは切断の効果がある。
「こちら臨検隊、[たちばな]まで20,000。測距電波は探知できません。我々を捕捉していないようです」
ヒラセ副長はそう伝えてきた。
相手は賢いのかバカなのか。
人間が相手なら多少の予測はできるが、HDは人間の裏をかくような思考ができるのだろうか。
「サクラ、HDは人間の考えの裏をかくことができるのか?」
俺は、試しにサクラに聞いてみた。
「司令のおっしゃるような、裏をかくことはできません。HDは常に合理的に考え行動します。HDが裏をかいたように見えた時は、そもそも人間の方の予測が間違っていたのです」
なるほど。俺は、妙に納得した。
「あれは、宇宙軍のマークですね」
戦車の砲塔に描かれたマークに気付いた隊員が言った。
第25番衛星の地下基地にある戦車工場には、100台単位の戦車が置かれていた。しかし、それらは製造中なのか改良中なのか分からないが、即戦力となるものではなかった。
「宇宙軍に、戦車なんかあったんですか?」
隊員の一人が言った。
「戦車くらい、あるさ」
カサナ中尉は言った。
「戦車なんて、初めて見た」
他の隊員たちも、口々に言った。
「宇宙軍には4軍あることくらい知ってるだろ!」
中尉は小声で隊員たちを叱った。
「そりゃ、陸軍は知ってますけど、戦車の実物なんて」
隊員たちは、恥ずかしそうに言い訳した。
「まあ、今は戦車なんて活躍の場が無いからな」
中尉は、陸軍の現状を思って言った。
本来は、銀河帝国軍なのである。
銀河帝国という名称からすると、20世紀の映画「スター・ウォーズ」の悪の権化である帝国軍を連想し、すこぶるイメージは悪いが、現実として銀河系全体をある程度きちんと統括する制度としては、民主的思想に沿った、人類の過半数以上の賛同を得ることができる政府が存在するのであり、その防衛や治安維持に際し必要な組織として、銀河帝国軍がある。
体系的には、「宇宙軍」、「陸軍」、「空軍」、「海兵隊」から成っている。
この仕訳からすれば、陸軍は地上で戦い、空軍は空で戦う軍隊ということになる。そして、この広大な何も無い空間で戦うのが宇宙軍である。しかし、このとてつもなく広い宇宙空間には、陸と空は、あまりにも少ないのである。したがって必然的に、規模や人員、及び予算についても、宇宙軍は帝国軍の8割以上を占めるようになり、陸軍や空軍は肩身の狭い思いをせざるを得なくなる。
しかしながら、占領地や治安維持など戦場となる陸や空は、惑星や衛星にはあるわけで、陸軍や空軍を廃止するわけにはいかない。
そしてさらに、そこにしゃしゃり出てくるのが、海兵隊である。太古の軍隊でいう海兵隊とは、だいたい海軍陸戦隊が元になっている。つまり海軍の一組織で、船で海を渡り敵地に上陸して戦う部隊である。陸地で戦うなら陸軍だと思われるが、何よりも先に敵地に乗り込むのが海兵隊魂だという自負が彼らにはある。陸軍は、海兵隊が制圧した敵地に後からのんびり来ればよい、と思っている。なので、銀河帝国軍内を宇宙軍が8割を占める残りの2割近くを、海兵隊が押さえているのであった。
「だいたいこんなことは、海兵隊がやればいいんじゃないのか?」
地下基地を捜索しながら、隊員はまだ文句を言った。
「黙って捜索しろ。敵がいるかもしれないぞ」
中尉が言った。が、そもそも全員が軍艦乗りなわけで、陸戦に慣れていないこともあって、中尉も隊員の気持ちが分からないでもなかった。
ピュイーン!
ピュイーン!
ビシーッ!
バシーッ!
「ピピ 敵だ!」
中尉が無線で知らせた。
「ピッ 水平射撃です。戦車の陰でしょうか」
隊員が言った。
「ピピ 体を低くして散開しろ」
中尉が指示する。
「ピッ 見つけたら、撃っていいですか?」
誰かが聞いた。
「ピピ 許可する」
パシュー
パシュパシュー
バーンッ!
ガガーンッ!
通信途中で、銃撃戦が始まった。
「ピピ 敵が見えるか?」
パシュー
ドガッ!
「ピッ 5台くらい向こうの戦車の陰にHDが」
ピュイーン!
ヒュンッ!
パシュー
パシュパシュー
バーンッ!
チュイーン
ガシャ!
「ピッ 1体、倒れました」
「ピピ 状態が良ければ土産にしたいが、ここから持って帰るのは無理だろう」
中尉は、残念そうに言った。
「ピッ 中尉!やつら[はまかぜ]の広場の方からこっちへ戻って来ます」
「ピピ 分かった!
全員、奥へ進め!HDは適当に片付けて、コントロール・ルームを探せ」
中尉は、捜索優先を命令した。
ヒュゥゥゥーーー
通路内を風が流れてきた。
ヒュオオオーーー!
風が段々と強くなる。
「ピピ 何かに体を固定しろ!」
「ピッ 中尉!なんなんですか!」
「ピピ おそらく[はまかぜ]だろう」
「ピッ え?[はまかぜ]?」
「ピピ 砲撃は避けて、スラスターで吹き飛ばしているのかもしれない」
「ピッ スラスターで?」
「ピピ 戦車やHDをふっ飛ばしてるんだよ!」
大空間では正に[はまかぜ]が下部スラスターを噴射して、地上の戦車やHDを吹き飛ばしていた。
天井崩壊を警戒して双方睨み合っているように見えたが、[はまかぜ]としては、艦を包囲している戦車団は、死角にあって、射撃することは不可能だったのである。




