【120】25番衛星に、戦車工場を発見
「2番衛星軌道から、20番惑星の陰へ移行しました」
[もがみ]のノラン航海長が報告した。
「よし、惑星までの距離は、13万キロだ。[たちばな]臨検のための魚雷艇は準備できたか?」
俺は、副長に聞いた。
「準備オッケーです」
「よし、[もがみ]を惑星まで100,000の距離へ持って行く。そこから魚雷艇で発進せよ」
俺は、副長に命じた。
「護衛艦を操縦できる者を連れて行けよ」
俺は言った。
「はい。可能な限り、お土産に持ってきます」
副長は答えた。
[もがみ]の格納庫で、20名の人間の隊員と10体のHDが警備要員として準備していた。
「間もなく惑星から10万キロの地点になる。そこから我々は発進する。現在惑星にある[たちばな]を臨検し、可能であれば、奪還するのが任務である。場合によっては激しい戦闘も予想されるので、各員十分な準備をしておくように」
副長は、全員に告げた。
「[たちばな]は、航行しているのですか?」
隊員から質問が出た。
「レーダーによると、航行していると思われる」
副長が答える。
「あれだけ昼の面で曝されていたとなると、ほぼ人間は死んでいますよね?」
「その可能性が高いだろう」
「じゃー、HDが相手ですか」
「そうなるだろう。
質問はそのくらいにして、どんな状況でも対応できるよう、準備を進めろ」
「アイアイ・サー」
格納庫で、魚雷艇の出撃準備が始まった。
「戦術長、どうする?挑発してみるか?」
俺はサバラ戦術長に聞いた。
「五分五分ですね。挑発に乗って夜の方へ来てくれれば、我々は無駄な待ち時間を省くことができます」
「よし、2、3発やってみよう」
「了解しました」
俺と戦術長の意見は一致した。
「目標、距離105,000。誘導ミサイル発射準備」
サバラ戦術長は、CICから報告した。
「目標、第20番惑星の昼夜境界にあり。
4、3、2、1、発射!」
シュバーーーンッ!!
シュバーーーンッ!!
2発のミサイルが、閃光と煙を曳いて、惑星へ向かった。
「目標まで、50,000」
戦術長が報告する。
「目標、昼の面へ入る直前に転針します」
「どうした?」
俺はレーダー担当に聞いた。
「挑発が成功したのかもしれません。夜の面に戻って来るようです」
「よし!魚雷艇、発進だ!」
俺は、副長に連絡した。
「こちらヒラセ、了解!」
「[たちばな]の進路は?」
俺は改めてレーダー担当に聞いた。
「真っ直ぐ、本艦に向かって来ます」
「よし、ミサイルを自爆させろ」
戦術長がCICから自爆ボタンを押した。
ウィーーーッ!ウィーーーッ!ウィーーーッ!
格納庫では、警報が鳴り始めた。
「魚雷艇、発着場へ移動」
「魚雷艇、移動完了」
「格納庫隔壁、閉鎖」
ズズズーーッ
格納庫と発着場が隔てられた。
イエローの回転警告灯が回りだす。
「警告!排気まであと5分。装備未着用者は退避せよ」
キュイイィィーーーーーン!
魚雷艇のエンジンが始動した。
「警告!排気まであと2分。風防、乗降口閉鎖」
キイイイイイーーーーーン!!
「警告! 排気開始! 警告! 排気開始!」
イエローの回転警告灯がレッドになった。
シューーーーッ
エアが抜かれると同時に発着口が開き始めた。
ウィーーーッ!ウィー…………
キイイイイイーー…………
発着場は、無音になった。
発着口が全開になると、魚雷艇は、[もがみ]の艦底からゆっくり発進した。
[はまかぜ]は数十台もの強力な戦車に包囲されてしまった。
カサナ中尉ら30名も建物の陰に潜んで、とりあえずは相手の出方を見るしかないようだった。
戦車の間には歩兵のHDもいるので、戦車の死角を利用して[はまかぜ]に戻る方法も無理だからである。
カサナ中尉は、周囲を見回した。
巨大なドーム状の空間で、壁から天井まで完全に人工的な建造物だ。
ホコリや煙が落ち着くと、この空間の細部が見えてきた。
今回、戦車を初めて確認したが、これまでの状況を考えると、この戦車を人間が操縦しているとは考えにくい。これまで重要な場面であっても敵の人間を確認していないのに、戦車兵が初めて遭遇した敵の人間だった、というのは非常に違和感を覚えるからだ。
なので、この戦車はHDが操縦しているか、遠隔操作されているかだろう。
敵の戦闘機は、HDが操縦しているものもあれば、無人のものもあった。だから、戦車も同様だろう。
ふと、カサナ中尉の視界の上の方で、キラリと光ったような気がした。
中尉は、高い天井を見上げ、目の視力を上げて光った何かを探した。
静音ドローンだ。
何台かのカメラを搭載している。そのレンズが光を反射したのだ。おそらく、あれでモニターして戦車をコントロールしているのだろう。と、中尉は思った。
ドローンは、1機ではなかった。3、4機は飛んでいる。
そして1機を目で追っていた時に見つけたのが、壁にある横長のスリットだった。地上からの高さ30メートルはあるだろう。おそらく窓だ。あの向こう側がコントロールルームなのではないか。
中尉の推測が、どんどん固まってきた。
では、あそこに行くにはどうすべきか。
当然、戦車やHDが出てきた所から行くべきだろう。
そこは、[はまかぜ]が破壊した敵の艦艇の陰にあった。
中尉は、手をくるくる回し、進むべき方角を指差した。
それを確認した隊員たちは、物陰に身を潜めながら、
敵の艦艇の残骸の方へ向かった。
[はまかぜ]を包囲した戦車団をさらに遠巻きにするように、残骸などの物陰から物陰へ、音をたてず、ホコリを上げず、隊員たちは破壊された敵の艦艇の裏側へ回り込んだ。
壁には大きなガレージのような、車両の出入口があった。地面はコンクリートでできているが、キャタピラで何度も擦られたようで、そこだけだいぶ傷んでいた。戦闘とコンクリートの細粉には、HDの足跡も数多く残っていた。間違いなく、戦車とHDはここから出てきたのだ。
中尉は、全員に急いで静かに中に入るよう指示した。
[はまかぜ]と戦車団が睨み合っている空間にいても、ロクなことにはならないだろう。ならば、戦車の格納庫なり、HDの本拠にでも行った方が、何らかの戦果をあげれど、駆逐艦と戦車との激戦に巻き込まれ、命を落とす危険はかなり軽減されるだろう。
中尉が想像するに、今、睨み合いで均衡が保たれているのは、交戦によってドームが崩れ、双方とも全滅する可能性があるからなのだろう。
中尉は、奥へ進むよう、手で合図した。
タッタッタッタッ
コッコッコッコッ
カシャカシャカシャカシャ
30人もいれば、靴音や装備の音が出る。成分の詳細は不明だが、ここには大気がある。大気が無ければ、音でバレることは無いのだろうが。
50メートルほどだろうか、所々に照明が点いている通路を進むと、右側に大きな空間が接している場所に出た。通路もその空間も天井の高さは同じで、地下鉄の車両基地のようだ。ただ、そこに地下鉄は無く、あるのは数多くの戦車だった。
しかし、その戦車たちは砲塔が付いていなかったり、キャタピラが巻かれていなかったり、製造されているのか改造されているのか分からないが、戦場には赴けない戦車たちだった。
ただ中尉が疑問に思った点がただ1つ。
戦車に付いていたり、地面に置いてある砲塔の側面に、目立たないように宇宙軍のマークが描かれていたのである。




