【12】アツシとの再会
「おい、アツシ!」
生きてるのか?死んでないよな?
「おい。アツシ。おい。おい」
俺は、アツシを呼びながら、体を揺さぶった。
「ん?」
アツシが目を覚ました。
「大丈夫か?」
「おー!クロぉーーー!」
アツシは、抱きついてきた。
「大丈夫か?」
俺は、何度も聞いた。
アツシは、頭や顔や腕や腹をなでまわして、
「たぶん、大丈夫だと思う」と言った。
すると、白い壁に例の黒い出入口ができて、
HDが入って来た。
「サク…」
サクラと呼ぼうとしたが、胸にシールが無い。
「君は、アツシ用のHDかい?」
「はい」
やっぱそうだ。
「じゃー、ちょっと待ってね」
俺は、シートの横の台の上にあったシール帳をパラパラとめくって、適当に1枚の花のシールをはがした。
「これ、梅の花だよ。君は、ウメね」
俺は、梅の花の絵のシールを、HDの左胸に貼った。
桜はピンクだけど、梅は赤くて中に黄色いシベがある。
「ウメか。なんか、ばあさんみたい」
俺は、思わず笑ってしまった。
「何やってんだよ」
ずーっと、ただ見ていたアツシが口を開いた。
「まあ待て」
俺は、アツシを待たせて、HDに指示した。
「サクラのことを知ってるかい?」
「はい」
「経緯を理解してるんだね?」
「はい」
「じゃー、君は、[ウメ]と認識してほしい」
「はい。リンク完了しました」
俺は、今度はアツシに向いて、
「このHDの名前を[ウメ]にした」
「ウメ?」
「そう。ここにはHDがたくさんいて、どれがどれだか見分けがつかないんだよ。だから、このシールを貼ったやつがお前のウメ。俺のは桜のシールが貼ってあるサクラだ。分かった?」
「おー、なるほど。分かった」
アツシは、ウメをしげしげと見回した。
「ウメ。喉が渇いたんだけど」
アツシに言われると、ウメは壁から水を取り出した。
「こりゃ、便利だ」
「慣れると、なかなか面白いぞ」
「そう言えば、お前の船は[はまかぜ]だよな?」
俺は、アツシに確かめた。
「そうだよ。駆逐艦」
「レベルは?」
「副長だよ」
「お前、もう副長なのか」
「艦長を上手に持ち上げてな」
アツシは、世渡り上手ということか。
「実はな、ここでシミュレーションがある。
で、それにパスすると、昇級できるんだ。
で、俺はそーゆーことで、[しらかぜ]の艦長になる」
「ほー、すげーじゃん」
アツシは、なんか冷めてる。
「艦長だぜ?」
俺は、身を乗り出した。
「それで?ゲームのだろ?」
あ、そういうことか。
「本物の駆逐艦が宇宙にあって、それの艦長になれるんだよ」
俺は、アツシに説明した。
「んなこと、ありっこねーべ」
アツシは、とりあわない。
「ここだって、どこだか分かんねーし」
まー、確かに、そうだけど。
俺も、なんで途中から信じたんだ?
サクラたちHDも、中に人が入ってるのかもしれないし、緑色のデカい目をした人の話と、映画のセットみたいな月面基地と、すごく金のかかったゲームセンターみたいなシミュレーター。
それくらいしか見ていない。
これは、壮大な詐欺なのか?
俺らを騙して、なんの意味があるんだ?
「お話の途中ですが、司令官からお呼び出しです」
ウメが言った。
「俺?」
アツシは自分で自分を指差した。
「お2人です。その前に、アツシさんは服を着替えてください」
ウメは、壁から制服を引き出した。
アツシは制服に着替えた。俺のと、ほぼ同じものだ。
アツシが着替え終わると、ウメが先導して廊下に出た。
今回は、結構長い距離を歩かされた。
10分くらい歩かされて着いた所の黒くなった壁の中へ入ると、観光バスの車内のような部屋だった。
「お好きな席にお掛けいただき、シートベルトを締めて、お待ちください」
ウメはそう言うと、後ろの方の座席に座った。
観光バスのようだと思ったけど、バスくらいの細長い部屋にバスの座席のようなシートが並んでいるだけ、
ということだ。シートは20人分くらいだろうか。
俺とアツシと、並んで座っていると、
サクラと大尉が入ってきた。
それから続いて、ちゃんと上着制服を着た人が5人くらい、俺らみたいな制服の人が3人くらい。あとHDが3体くらい入ってきて、シートに座った。
そして最後に大佐が顔を出した。
「諸君、準備はいいかね?」
俺とアツシは、顔を見合わせた。
「なんだよ?なんの準備だよ?」
アツシお得意の不安顔だ。
「特に、そこの新入り君。これから色々と経験するだろうが、全て現実として受け止めて、この銀河系の平和のために全力を尽くしてほしい」
大佐はそう言うと、顔を引っ込めた。
黒かった壁は、白くなった。
「おい、俺は降りるぞ」
アツシがつぶやいた。
「俺は降りるぞ!」
アツシがわめきだした。
「おい!降ろしてくれ!」
アツシは、ガチャガチャとシートベルトを外そうとしている。
そして、記憶が無くなった。




