【118】戦艦[ジョージア]の悲劇
「[たちばな]が出航するようです」
[もがみ]のレーダー担当ナラル中尉が言った。
「分かるのか?」
俺は聞いた。
「はい。艦の底部が完全に見えていますので、海上から離れています」
中尉は答えた。
「どうしたものか。
パルサーに曝されずに、20番惑星に戻れるか?」
俺は、ノラン航海長に尋ねた。
「お待ちください。
今は少し厳しいですが、3時間後には、いいタイミングになると思われます」
航海長は答えた。
「よし。そのタイミングで第20番惑星へ戻ろう」
俺は決断した。
特務護衛艦[たちばな]を、奪還できるのなら取り返し、できなければ破壊する。新鋭艦の技術を、敵に保持されてはならないし、戦力増強に繋がってもいけない。
「副長、この件に関して、一任する」
俺は、[たちばな]の扱いをヒラセ副長に任せた。
副長は早速、戦術長と協議し、[たちばな]を臨検した上で乗組員について調査することを第一課題として、臨検班とその警護班の編成に着手した。
もちろん、[たちばな]がこれに従わない場合は破壊もやむ無しという条件付きの作戦である。
「ヤバかったですよ」
[つきかぜ]のブリッジでビルザ航海長が言った。
「地表まで30メートルほどでしょうか」
全周囲モニターが復旧したので、ブリッジからは目視できない艦の真下の状況を確認すると、墜落直前で落下が止まったことになる。
ただモニターを見た限りでは、300メートルほど離れた場所にいる[あきかぜ]は、エンジンノズル基部に取り付けられた垂直安定板が小さな山に接触しているようだった。
「こちら[あきかぜ]、艦底部が、地表面に接触したようです。現在、被害状況調査中です」
「[つきかぜ]、了解」
ピィーン!
「艦長、敵艦が接近してきます」
レーダーのホロテ少尉が、カズに報告した。
「ナステ戦術長、戦闘準備」
「こちらナステ、CICで対応します」
カズの命令で、ナステ少尉が動いた。
「あ、まただ」
ブリッジの誰かが言って、みんなメインモニターを見上げた。
「ココカラ、タチサレ」
この文字だけが表示されていた。
「こいつに応答はできないのか?」
カズは通信担当の席にいるスミレに聞いた。
「こちら駆逐艦[つきかぜ]、貴艦の目的は何か」
スミレは、相手に呼び掛けた。
「アナタタチヲ、タチサラセルコトダ」
と、表示された。
「こちらの言葉が理解できるのか」
カズは呟いた。
「あなた方は、何者ですか?」
スミレが聞いた。
「シハイシャ」
「支配者だと?!」
カズは声を荒げた。
ドオオォォーーーーーッ!
[はまかぜ]は周囲を警戒しつつ、広大な空間を下降し、艦底部の突起物を全て格納して着陸態勢に入った。
キュイイィィーーーーーン!
パスッ!
パシューッ!
パスッ
パスッ
敵機の残骸を吹き飛ばし、チリやホコリをもうもうと巻き上げながら、[はまかぜ]は着陸した。
ダラララッ!
ドカーン!
まだ粉塵で視界が悪い中、敵機が攻撃してくる。
その度に、ちょいと対空速射砲で撃ち落とす。
「突撃部隊は、発着口へ」
カズは通達した。隊長はHD維持管理部のカサナ中尉が志願した。
「外の大気成分は、二酸化炭素と窒素が多く、酸素が少ないため、ヘルメットが必要です」
ウメがカサナ中尉に伝えた。
「発着口、隔離」
ズーーッ
隔壁が閉まり、発着口が格納庫から隔離された。
「気圧調整後、発着口開け」
シューーーッ
ガチャリ。ガコン。
ウィィーーン
発着口が開いた。
突撃部隊30名は、周囲を警戒しながら、艦を降りた。
隊長は、手をクルクルと回してから前方を指差した。
周囲に注意して前進せよ。という合図である。
広大な駐機場と言っていい空間に、建物はわずかだった。レーザー小銃を構え、物陰に隠れながら、隊員たちは建物の方へ進んだ。
キューーーン
ピキーン!パキーン!バキーン!
敵機が時折り攻撃してくる。
ピシュッ、ピシュッ
ピシュピシュッ!
バンッ!
隊員たちが撃った小銃でも、敵機は落とせる。
ザザ、ザザ、ザザザザッ
隊員たちは、建物の入口らしき所で壁に身を寄せた。
隊長が突入の合図をすると、
2人の隊員がドアに発砲し、2人がドアを蹴破り、入口が確保されると、隊員たちがなだれ込んだ。
ピシュッ!ピシュッ!
ピシュピシュッ!
キュン!キーン!
ピシュッ!
バンッ!
中で、銃撃戦となった。
ピシュッ!
ガーンッ!
ひとしきり交戦すると、静かになった。
「ピッ 負傷者はいるか?」
「ピピ 大丈夫そうです」
ホコリが落ち着いてくると、管制室のような部屋になっていて、5、6体のHDが床に転がって煙を上げていた。
ガシャン!
隊員の1人が、HDを蹴飛ばした。
「ココカラ、タチサレ」
突然、HDが喋った。
「うぉお!」
ピシュッ!ピシュッ!
バババッビビッ
隊員は驚いて、HDの頭部を撃ってしまった。
隊長が破壊されたHDを見て、
「こいつはダメだな。キレイなやつを1体持ち帰るんだからな」
そう言って、奥の方へ進んで行った。
現在、PS72パルサー星系は、第1遊撃機動艦隊と宇宙軍直属として派遣されてくる海兵隊の指揮下で、未知の敵に対し交戦が起きる可能性のある宙域である。
その中でこの数日、任務として行動していない艦があった。
戦艦[ジョージア]である。
艦長のケサン少将は、ブリッジと主要部署に必要な数体のHDを残して、約2,000体のHDを第1遊撃機動艦隊に提供した後、自動制御で第20番惑星の陰の部分に留まったままだった。
付近に友軍の艦艇は無く、[ジョージア]の動向は誰にも把握されていなかった。
なので、艦底の発着口が開いていることに気付いた者は誰もいなかった。
[ジョージア]のブリッジで、艦長のケサン少将はスコッチを片手に、これまでの戦闘の記録を見ながら、今は亡き戦友に思いを馳せていた。
シュイーー
ブリッジの入口が開き、1体のHDが入ってきた。
「なんだ?」
艦長は、HDに言った。
「艦長、お久しぶりです。サキオ大佐です」
HDはそう言って、少将に敬礼した。
「……な、何を言ってるのだ?」
少将には、事態が認識できなかった。
シュイーー
ドアが開き、次々とHDが入って来た。
「艦長、お久しぶりです」
「艦長、お元気そうで何よりです」
HDたちはそう言いながら、少将に敬礼を向ける。
「……一体、なんなんだ」
少将が見回すと、15体ほどのHDが艦長席を取り囲み敬礼したまま微動だにしない。
「サキオ大佐です」
「タリス大佐です」
「ニスロ少佐です」
「○○○中佐です」
「✕✕✕大尉です」
全てのHDが官姓名を名乗った。
全て、少将の部下だった者たちだった。
名乗りはしたものの、顔形は全て同じHDだ。
だが、少将には、それが部下たちの顔に見えてきた。
「サキオ…………」
少将は、1体を見つめ、名を呼んでしまった。
また、違うHDを見つめ、「タリス…………」と言い、
立ち上がって、1体1体に名前を言って、握手をしはじめた。
薄暗いブリッジで、老兵をHDが取り囲み、その輪が徐々に狭まっていく。
「少将……」
「大佐……」
HDと少将との会話が続いた。
しばらくすると、ブリッジに静寂が戻り。
しだいに輪から離れていくHDの足下には、
少将の制帽が踏みつけられていた。




