【110】[ウルフ] 壊滅
「航空隊長、いいお土産を持ってきてくれたね」
[もがみ]の作戦指令室で、戦術長のサバラ大尉が、第2番衛星の偵察に出たトクセ航空隊長に言った。
「何かありましたか?」
隊長は言った。
「先ほど第2衛星から送ってもらった地表の画像ですよ」
「あー、帰投前に上空を通過した時に、ちょっと違和感を感じたんで、撮っておいたんですよ」
隊長は、大尉と改めて画像を見てみた。
「これでしょ、違和感の原因は」
「そうそう、これです」
「建造物ですね」
画像には、色は地表と変わらないが、立方体が組み合わされた、建物のように見える岩山が写っていた。
「艦長に報告して、再調査に行ってもらいたい」
「分かりました」
シュィーー
サバラ大尉と航空隊長のトクセ大尉がブリッジに入ってきた。
「艦長、報告です」
両大尉が並んで、俺に言った。
「あ、その前に、サバラ大尉、昇級おめでとう」
おれは、サバラ前中尉に言った。
「ウチの優秀な戦術長だからな!大尉」
「そんなに買いかぶらないでください」
俺の言葉に、サバラ大尉は照れていた。
「よし、それはそれとして、報告とは?」
俺は、改めた。
「はい。先ほどトクセ大尉が偵察に行った際に撮影した第2衛星の地表の画像です」
サバラ大尉は、俺に画像を見せた。
「建物か」
俺は言った。
「そう思われます」
サバラ大尉が言った。
「再偵察してもらえるか?」
俺は、トクセ大尉に言った。
「もちろんです。確認できれば、制圧します」
トクセ大尉は言った。
「よろしく頼む」
* * *
「やっぱり、要所要所に小型バッテリーが組み込まれています」
[もがみ]の格納庫にある機器検査室で、HD維持管理部の技師がトルヤ大尉に説明した。
「頭でも、腕でも、足でも、関節などで分離して、パーツになる部分には、このようにバッテリーが付いてます」
透過装置で撮影した画像には、各パーツの配線の一部に小さくて薄いバッテリーボックスが写っていた。
「しかし、何のために?」
大尉が聞いた。
「よく分かりません」
「破壊されても、レーザー銃が撃てるようにか?足だけ勝手にバタバタしても、意味が無いような気もするんだが」
「その部分については、私も同感です」
大尉の感想に、技師も同意した。
「ですが、同感ではあるのですが、各パーツには、バッテリーと共に送受信機能もありました。
そこで、かなり飛躍した想像をすると、程度こそあれ、戦闘や事故で損傷を受けても、自己修復して目的に対して再稼働が可能になるかもしれません」
技師は、少し不安顔でそう言った。
「手がもげたら、自分で直して、また戦闘に復帰するのか?」
大尉は驚いて言った。
「やりようによっては、可能かもしれません」
「それは、結構な脅威だぞ」
技師の考えに、大尉は大変な危惧を抱いた。
* * *
パパパパパッ
キュィーーーン!
パパパパパッ
キュォーーーン!
パパパパパッ
「くっそ、キリがねーな」
パシュ!パシュ!パシュ!
フィィーーーン!
「フォックス1-3、後ろだ!任せろ」
「振り切れない、頼む!」
パシュ!パシュ!
ビカッ!!
「フォックス1-4、いっちょあがり!」
「サンキュー1-4、帰ったらビール奢るぜ」
「フォックス・リーダーより全機へ。現在、昼夜の境界付近に標高の高い山脈を確認、この山脈を越える際は極夜の南極方面で、可能な限り短時間で越えるように注意せよ」
「オール・フォックス、了解」
「[ウルフ]より全機へ、距離5,000に大型飛行物体を探知、レーダーデータをリンクさせ、迎撃に当たれ!」
「フォックス・リーダー、了解!
全機、聞こえたか?[ウルフ]の周囲5,000で索敵せよ!」
「こちら[ウルフ]!レーザー攻撃を受けた!敵は距離4,500からレーザー攻撃してきた!本船も迎撃準備中だが間に合わない!全機、援護に戻れ!
繰り返す!全機、援護に戻れ!」
「こちらフォックス・リーダー、全機、[ウルフ]へ戻れ!全機、[ウルフ]へ戻れ!」
「応援はまだか!!」
[ウルフ]の操縦室で、師団長のカナル中将は叫んだ。
「帰還するよう、連絡しました!」
通信担当士官が言った。
ドーーーンッ!!
大きな振動がして、船が大きく揺れた。
「敵、距離3,000!」
レーダー担当士官が報告。
「上甲板、対空レーザー機銃、掃射!」
ピピピピピッ!
ピピピピピッ!
甲板上にせり上がった機銃から、速射レーザーが発射された。
ドドーーーンッ!!
また[ウルフ]にレーザーが命中して、大きく揺れた。
「迎撃機は出せないのか!」
師団長は大声で言った。
「B、Cエリアのベイ・ドアが開きません」
船務長が言った。
「師団長!ここは危険です!!下へ降りてください!」
副師団長のソエナ大佐が進言した。
「部下が飛んでいるんだ!戦況を見極めなければならん!」
師団長は仁王立ちになって言った。
ドーーーンッ!!
ドドーーーンッ!!
船首と甲板にレーザーが命中した。
「師団長、あれを!」
航海士が窓の外を指差して言った。
師団長がそちらを見ると、[ウルフ]に近づいてくる駆逐艦が見えた。
「あれは……」
駆逐艦の主砲から発射されたレーザーが、[ウルフ]の操縦室に命中した。
* * *
「船長、[ドク・ツー]が壊滅です」
「なんだと?」
第20番惑星の陰の領域にいた[ドク・ワン]に、第4番衛星を拠点としてして作戦を遂行しつつあった[ドク・ツー]改め、[ウルフ]が敵の奇襲を受けて壊滅状態になった連絡が、[フォックス・リーダー]から入った。
「我々残存40機、帰還すべき拠点を失ってしまいました。つきましては、暫時、[ドク・ワン]に翼を休める場所を提供していだだきたい」
「しばし、待て。自分の一存では判断が不可能である。火星本部と承認を得てから連絡する。以上」
輸送局職員である[ドク・ワン]船長は答えた。
「燃料切れになるまで飛んで待てと言うのか……」
フォックス・リーダーは、チームの士気が下がることは避けられないと感じた。
「やむを得ない、連絡用潜宙艦を出そう」
船長は火星本部にお伺いを求めるために、連絡用潜宙艦を出すことを決めた。
「重力の歪み点まで、約8億キロです」
レーダー担当士官が報告した。
「よし、HDにプログラムして、連絡用データも登録せよ」
船長が命令した。
「了解しました……」
HD維持管理担当係員は命令を受けたが、[ウルフ]の飛行隊を見殺しにするにも等しい判断に、憮然としていた。
[ドク・ワン]の格納庫では、潜宙艦の準備が始まり、パイロットのHDに連絡任務がインプットされた。
このような特化任務用HDには、拡張性や柔軟性が無い。与えられた2、3の任務だけを遂行するように作られた、安価なブレインを持つHDで、外見上はサクラのような多機能型と変わらないが、ウエスト部分に1本ぐるっと、白く細い帯が入っていた。
潜宙艦のある一角だけ隔壁が下りてきて、閉鎖密閉された。
ウィーーッ!ウィーーッ!ウィーーッ!
警報が鳴り、イエローの回転警告灯が回った。
「警告!排気まであと5分。装備未着用者は退避せよ」
キュィィイイーーーーーンッ!
潜宙艦のエンジンが始動し、回転数が上がっていく。
ウィーーッ!ウィーーッ!ウィーーッ!
「警告!排気まであと2分。風防、乗降口閉鎖密閉」
キィーーーーーン!
ドック作業員は、全て退避した。
「警告!排気開始。警告!排気開始」
回転警告灯が、レッドに変わった。
シューーーーーッ
ドックからエアが抜かれ、外壁が開き始める。
ウィーーッ!ウィー……
キィーーン……
ドックは無音になった。
潜宙艦は開いたベイ・ドアからゆっくりと船外へ出ると、プラズマEMエンジンに点火し、青白い光跡を曳いて宇宙へ消えた。




