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PS72パルサー星系防衛軍  作者: 星野 光一
108/132

【108】このHDを作ったのは誰?

「見てくれ、ちょうど3つ並んでる」

[もがみ]のHD維持管理部のトルヤ大尉が、[ウルフ]の上甲板に置かれたHDの残骸を指差して言った。


[もがみ]の舟艇を降りた管理部の軍曹、技師、情報部の軍曹、工務部の軍曹が、3つ並んだHDの頭部の周りに集まった。


「ようこそ、海兵隊HD維持管理部のトロノ大尉です」

甲板にいた士官が近付いて来ながら話し掛けてきた。


「あ、先ほどはありがとうございました。[もがみ]のHD維持管理部のトルヤ大尉です」

[ウルフ]に来るにあたって事前に話していた大尉同士は、お互いに握手した。


「これが回収したHDですか」

トルヤ大尉が聞いた。


「そうです。墜落機から回収したので、損傷の少ない物もあります」

海兵隊のトロノ大尉が答えた。


「そこが大変ありがたいところです。ウチのHDは壊れまくっているので」

[もがみ]の管理部の技師が言った。


「頭部のこのアンテナを見てください」

Qでも説明したように、頭のてっぺんに長さ15センチほどの鉛筆のような棒が立っていて、その中間あたりに直径20センチほどの円盤状のものが水平に取り付けられている。


Qでは損傷が激しくてほとんど分からなかったが、良く見ると針金を巻いた渦巻き状の円盤で、針金と針金の間には1センチ程度の間隔があった。


これが今、3つ並んであるのだが、造作や作り加減のようなものが同じ印象を受けるのである。


つまり、製造工場で大量生産された全て同じ形状に仕上がっているわけでもなく、1個1個が違う形状となっているわけでもない。

要するに、人間世界でいうところの職人のような人が個性的な物を作った印象を受けるのである。

これは、今ここでHDを眺めている全員が感じたものであった。


「整備された工場ではなく、手作りってことか?」

工務部の軍曹が、感想を言った。


「手作り?誰がです?」

海兵隊の大尉が聞いた。


「問題は、そこです。

大尉、敵の人間て、痕跡が無いですよね?」

技師が、海兵隊のトロノ大尉に尋ねた。


「ああ、敵の人間は、まだ見たことが無い」

大尉は答えた。


「工場で機械で製造したのではなく、人間の可能性も低い。と、なると、」

技師は溜めた。


「まさか、HDが?」

大尉が驚いたように言った。


「ええ、私は、そう考えています」

技師は、とうとう言った。


「あと、これなんですけど、」

技師は、HDの切断した手を2個持ってきた。


「これはHDの手です。片手に3つの銃口が開いていて、この穴からレーザー銃が発射されます。

で、この穴なんですが、大量生産品質ではなく、やはり個別作業的なんですね。並べてみるとよく分かります」

技師は同じ右手を2つ重ねて見せると、手の甲にある箱型の発射装置に開けられた3つの銃口が微妙にズレているのが分かった。


「アンテナにしても、レーザー銃にしても、切断面や削除面は非常に精度が高いのですが、切断したり削除したりする場所そのものが雑なのです。

この精度の高い作業は人間ではできません。HDが個別にこの作業に適した道具を使って作った物という考えに至りました」

技師は、自分の考えを締めくくった。


「信じられん」

情報部の軍曹はつぶやいた。


ドドドドドドドドドッ

ビリビリビリビリビリッ


[ウルフ]に、フォックス編隊とパンサー編隊が帰って来たのだ。解放されたAエリアに入っていく戦闘機と攻撃機。

エアが無いので音は聞こえないが、エンジンの振動が上甲板に激しく伝わって来て、置いてあるHDや機体の残骸がビリビリと震えている。


機体の出入りの無いBエリアの外壁はすでに閉じられ、Aエリアも区画ごとに区切って閉鎖を開始したようだ。


ビリビリビリビリッ、ビリビリッ、ビリビリッ……


帰還した機体のエンジンが止まったようだ。

[ウルフ]の上甲板に静寂が戻った。


「大尉、申し訳ありませんが、このHD1体分、お貸しいただけないでしょうか?」

[もがみ]側の維持管理部の大尉が申し出た。


「もちろん。真相究明のためでしたら、お互いに協力いたしましょう」

[ウルフ]のトロノ大尉は快諾してくれた。


あまり長居をしても迷惑なので、トルヤ大尉以下[もがみ]側のメンバーは、1体分のHDを借り受けて、舟艇に乗り込んだ。

「こちら[もがみ]舟艇、これより帰還いたします」

パイロットは、[もがみ]に帰投連絡を入れた。


フワァーーーーーッ

舟艇は、音も無く浮上して[もがみ]へ向かった。


「ん?」

舟艇の最後尾の席に着いていた工務部の軍曹は、艇の中央部の貨物置場に固定してあるHDの頭部が気になった。


チカッ

ん?何か光った?

軍曹はそう感じて、目の視力を上げた。


チッ

チカッ

音はしないが、HDの目がわずかに光る時がある。

軍曹はベルトを外して、貨物置場の所へ遊泳して行った。


「どうしました?」

工務部の軍曹に気が付いた情報部の軍曹が聞いた。


「ちょっと、気になって」

工務の軍曹は、どこかの光の反射かもしれないと思い、HDの目の部分に手をかざして暗くしてみた。


チカチカッ

間違いなく、目の中で何かが光っている。


「HDの目が光ってます」

軍曹が言うと、みんなHDの方を見た。


「そんなわけないだろう」

トルヤ大尉が言った。


チカッ

「あ!ほら、ほら!」

軍曹が騒ぐので、大尉もベルトを外して遊泳してきた。


軍曹はまた手をかざして、光るのを待った。

「…………………何にもないじゃないか」

大尉が言った。


「そんなはずないです!」

軍曹は訴えた。


「体にあるバッテリーと切り離されているので、頭のどこかが光ることは無いと思いますよ」

維持管理部の技師が言った。


「えーーー、そんなはずはないんだがなー」

軍曹は、腑に落ちない様子だ。


「[もがみ]まで750,000キロです。ゆっくりしていってください」

パイロットは、みんなを落ち着かせた。


「750,000キロか、たっぷり寝れるな」

大尉はそう言って、寝る体勢に入った。


「うわああーーーー!!」

また工務部の軍曹が叫んだ。


「なんだ?!なんだ?!」

「どうした?」

また、みんな騒ぎだした。


しかし、今度は、誰も何も言わなかった。

貨物置場のHDの足の1本が、膝の所で折れたり伸びたりを繰り返していたからだ。


「なんてこった」

情報の軍曹が言った。


「バッテリーから切り離されているはずなのに!」

維持管理の技師が、HDの足を抑えつけた。

が、力が強く、止めることができない。


「まあ、今のところは仕方がない。[もがみ]へ帰ったら、精密検査してみよう」

「レーザー銃は、大丈夫か?」

情報部の軍曹が誰にともなく言った。


「バッテリーから切り離されているので、大丈夫なはずですが」

技師が答えた。


「頭も足も、バッテリーから切り離されてるんだろ?」

軍曹が主張した。


「ここで、手だけ分解します」

技師が言った。


「よろしく頼みますよ」

軍曹が少し皮肉っぽく言った。


技師は必死で分解した。こんな所でこんなやつの誤作動に巻き込まれて死ぬなんて、まっぴらご免だ。


チカッ

HDの目が光ったような気がした。

軍曹の言ったとおりなのか?


「くそっ!」

宇宙服のグローブをしてては、工具が持ちにくい。

ドライバーを回すことさえ、難しい。


技師は、なんとかレーザー銃ユニットを外した。

1個外せれば、もう1個は簡単に外せた。


「なんだこりゃ?」

技師は、レーザー銃ユニットの中に、小型バッテリーが入っているのを見つけた。


これなら、体と切り離されていても、レーザー銃を撃つことが可能かもしれない。

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