【104】海兵隊、これより臨戦態勢に入る
「船長より偵察各部隊の隊長は作戦室へ集合すること」
[ドク・ツー]の船長は、偵察部隊長の召集を通達した。
「失礼ですが、今後は『船長』はおやめになった方がよろしいかと。海兵隊師団長カナル中将であるべきかと」
船務長役だった副師団長ソエナ大佐が進言した。
「たまには、有益な事も言えるのだな」
カナル中将はパイプに火を着けながら、大佐に皮肉っぽく言った。
「退がっていい。『船長』をやめる件は採用することとする」
中将は言って、まだパイプに火を着けている。
「ありがとうございます」
大佐は中将を見ることもなく操縦室を出た。
ドック船は70%がドックや格納庫として設計されていて、15%が機関と燃料などの航行関係。残り15%が乗組員用の居住スペースや生活空間となっている。その中に今回の偵察部隊長会議をおこなう作戦室もある。
ガチャリ
5名の偵察部隊長が作戦室で待っていると、カナル師団長が入ってきた。
隊長たちは立ち上がり、敬礼をしたまま直立した。
作戦会議の中心となるべき人物の席に師団長が来て、答礼して着席した。
隊長たちもそれを見て、敬礼の手を下ろし席に着いた。
「我々はこの星に着いたわけだが、詳細については未だ調査がなされていない。ついては、まず第4第5偵察隊に、この星の調査を命ずる。
知っての通り、このパルサー星系は電磁波の影響が強い。本船は完全にパルサーの陰になるよう拠点を定めたが、艦艇については本船離発着に電磁波に曝される可能性がある。この事について最大限留意し、今後行動するように。なおこの偵察作戦の指揮は、第4偵察隊長が執ること。何か質問は」
「敵の有無の調査でしょうか?」
第4偵察隊長が質問した。
「全てについてだ」
師団長は答えた。
その答えが全てだったので、他に質問は出なかった。
師団長が立ち上がると、5名の隊長も立って敬礼する。
師団長が答礼し、作戦室を出て行くと、
隊長たちも敬礼を解き、思い思いに席に座った。
中にはテーブルに足を投げ出したりして。
「電磁波に当たると死んじまうらしいぞ」
「敵がいるかいないかも分かってないんだろ?」
「いつまでここに留まるんだ?」
「だいたい、どこのどんな敵を叩くんだ?」
隊長たちから疑問が噴出した。
「全てについてだ」
隊長の一人が、師団長の真似をして、みんなの爆笑をかった。
* * *
[もがみ]の格納庫にHD維持管理部と工務部のメンバーがやってきて、Qの体の全てを作業台に乗せた。
「何故、一人で勝手に撃ち始めたか知りたいところなんだが、肝心の頭部が破壊されてしまっているんじゃなぁ」
管理部の技師が頭部を持ち上げて眺めてみた。
「ブレインも回路も、ダメでしょう」
頭部の状況を見ていた工務部員も言った。
「まあー、誤作動としか言いようが無いですよね」
分解調査もしようが無いので、致し方ない結論か。
「ダメ元で、メモリーだけでも見てみるか」
技師は頭部の分解を始めてみたが、熱で焼け溶けていたりエネルギー弾のパワーでいろんな箇所が変形してしまっていたり、かなり手こずっているようだったが、なんとか求めるメモリーを外すことができた。
解析端末にメモリーを読ませると、一応これまでのログが表示された。
「んー。単純に誤作動と片付けてしまうわけにもいかないか?」
技師は言った。
「何か分かりましたか?」
他の係員も端末を覗き込んで聞いた。
「ここの部分だが、暗号化された命令だ」
「あ、なるほど」
技師の説明に、係員が答えた。
「ま、発信源も不明だし、一応、記録だけしておこう」
技師はメモリーの記録を、データベースにアップロードした。
「この腕はどうしますか?」
「それは、何者かによって改造されたものだ。これから調査するので、とっておいてくれ」
技師は答えた。
「でも、どうなんだろうねー。
宇宙は無限に広くて、生命体も数えきれないほどいて、文明も銀河系以上に進んでいる所もあったとして、それらの技術や生活やそのごく一部でも、同じ結果を持つ文明同士の接触する確率というのは、どれくらいだろうか?」
技師は係員に聞いた。
「私は、ほとんどゼロに近いと思いますね。
生命自体や、その技術や文明の進化には、環境と時間が必要です。その環境と時間が全く同一でなければ、同じ結果は得られないでしょう」
係員も科学者であった。
「では、銀河系外の未知の何者かが、銀河系内の我々と同じ武器を作る確率は?」
「0、あるいは、100です」
技師の質問に、係員は答えた。
「では、答えは出たも同然だな」
「同意します」
ここに、技師と係員は、意見の一致を見た。
* * *
キュィィィーーーーーンッ!
[ドク・ツー]のAレベル、つまり1段目格納庫で、第4、第5偵察部隊の偵察機10機が出発準備をおこなっていた。
「A-2格納庫、排気1分前。装備未着用者は退避せよ」
偵察機が発進する部分だけ隔壁で遮断されて空気が抜かれ、船外の環境と同じになる。しかし、発着が多くなる有事の際はそんな暇も無くなるので、格納庫は全て解放され無酸素状態にして運用する。
ズズーーーーーッ
A-2格納庫の外壁が開いた。
第4偵察部隊5機、第5偵察部隊5機が、[ドク・ツー]から発進した。
「4-1より各機へ、地表の起伏に注意し、極低空飛行で偵察せよ」
各偵察機は、自動制御システムとしても、パルサーに曝されない高度で飛行するようプログラムされてはいる。
「偵察は、パルサーの陰側の経線に沿って東回りにおこなう。航行システムに音声プログラムせよ」
つまり、衛星の北極と南極を経由する夜側の円周を飛び続けて偵察する。飛行している間に衛星は自転するので、常に新しいコースをトレースしていくことになる。
ピピッ
「5-1より、レーダーに感!方位007、距離2,000」
「4-1了解。編隊を維持せよ」
第4と第5はそれぞれのレーダー圏外にコースをずらして偵察飛行している。
「こちら5-1、目標3、距離1,000」
「こちら4-1、目標はなにか?」
第5偵察部隊の前方に光点が見えた。
「こちら5-1、発光飛行物体のようです」
パ!パ!パ!パ!
「攻撃を受けた!攻撃を受けた!」
グゥイィーーン
第5偵察部隊各機は前方からの攻撃をかわし、飛行物体本体との衝突も避けた。
「5-1より、目標は小型飛行物」
「こちら5-3、後ろに付かれた!」
ピカッ!!
崩れた編隊の中で1機が爆発、墜落していく。
「5-4より、5-3がやられた!」
パ!パ!パ!パ!
パシュッ!パシュッ!パシュッ!
地上数百メートルの所で空中戦が始まった。
グイィィーーーーーン!
パパパパシュ!
ビカーッ!!
「5-1より、1機撃墜!」
ピカッ!!
「こちら5-2、1機撃墜!」
パ!パ!パ!
「5-1、後ろだ!」
「なんとかなるか?」
「任せろ」
パパパパシュ!
ピカッ!!
「こちら5-5、片付けたぜ!」
「5-5、サンキュー」
第5偵察部隊は1機を失い、3機を撃墜した。
「こちら5-1、この星に敵がいることを確認した」
「こちら[ドク・ツー]、了解。
これより偵察行動から索敵行動に切り替え、掃討作戦へ移行する。敵機及び敵施設等を発見した場合は、攻撃対象とせよ」
第4衛星に敵がいると確認した海兵隊は、臨戦態勢に入った。




