【102】海兵隊の拠点を第4番衛星とする
「こちら[ドク・ツー]、第1遊撃機動艦隊、旗艦[もがみ]応答せよ」
「こちら[もがみ]、[ドク・ツー]どうぞ」
「我が[ドク・ツー]は、諸般の事情により空間待機が難しいため、20番惑星の衛星のうち、活動に適した衛星に着陸し拠点として活用する計画であるが、推薦できる衛星は存在するか?」
俺は、自分の耳を疑った。
トップシーズンの観光地に大人数の団体で気まぐれに出かけて、当日に現地で泊まるホテルを探すようなものだ。
海兵隊の本隊のくせして、事前調査は何もしていないのか?
「第1遊撃機動艦隊司令、クロダ少佐です。貴隊の拠点選定にあたっての事前調査依頼は承知しておりませんでしたので、未実施となっております。必要であれば火星司令部の指示を仰ぎ、追ってご連絡いたしますが」
俺はまず、挨拶を兼ねての報告をした。
「宇宙軍海兵局銀河北方方面軍第2師団、師団長カナル中将だ。貴艦隊による調査には及ばない。あくまで参考として聞いただけだ。我が海兵隊は、己の事は己で始末する。貴艦隊は与えられた軍務を全うすればよい。以上」
カナル中将か、また厄介そうなオヤジが来た。
まあ、いい。自分達の事は自分でやると言うのだから。
衛星に拠点を置くという考えも悪くはない。
目標が第20番惑星であれば、その目標に近い所に拠点を置けば、色々と効率が良い。
通常、星と星との間には引力が働いている。惑星の周りを公転している衛星とその主惑星とは「自転同期」または「潮汐固定」という現象が起きる。
地球と月が良い例だが、月は地球の周りを公転しているが、それと月の自転が同期しているため、月は地球に対して常に同じ面を見せている。
地球と月との「潮汐固定」などは基本的に海水の満ち引きくらいで何の利も害も無いが、この星系で「潮汐固定」によるメリットが求められるとすれば、強烈な電磁波の影響をもたらすPS72パルサーに常に同じ面を向けている星があれば、その星の常に陰の側を恒久的に利用することができるということである。
この星系は発見されてから年数が浅いため、観測時間も短く全ては解明されていない。
わずかな観測の期間を予測延長して、全体像を把握するしかない。
その結果によると、この星系の主星であるPS72パルサーに近い第5番惑星までは「自転同期」が成立し、昼と夜の面が固定されている。
第6番惑星から外側になると、主星との「潮汐固定」の効果が薄れる。当然、主星と惑星の距離が近い方が、引力効果が大きいからである。
第6番惑星から外側の惑星では、それぞれのほぼ全ての衛星と「自転同期」の効果は得られるが、そこでは単に地球と月の関係と同じだけで、最も求めたいパルサーの影響を常に避けるという効果は全く無い。
が、今後、調査が進むか、予測延長計算が進めば、主星と惑星とその衛星の距離や重力のバランスが絶妙にマッチし、惑星の公転と衛星の公転が同期し、惑星の陰に常に衛星がある、という同期効果が発現する可能性も、無くはない。
そのような難しいバランスの上に運行しているこの星系で、人類にとって都合の良い場所があると期待する方が無謀であろう。
であるならば、パルサーから一生懸命身を隠しやすい場所を探した方が、時間と労力が少なくて済むだろう。
* * *
「こちらAチーム[はまかぜ]、これより19番惑星方面への軌道に入る」
「[もがみ]了解。パルサーに近い分、電磁波が強くなる。十分注意せよ」
[はまかぜ]と[さわかぜ]は仲良く19番惑星方面へ向かった。
ここで採るべき行動が、まさに「自転同期」である。
常に19番惑星の陰に入り、惑星と一緒にパルサーの周りを公転するわけだ。
それで電磁波を避けながら19番惑星に近付ける。
* * *
「こちら[ドク・ツー]、[もがみ]どうぞ」
また、カナルのオヤジか。
「[ドク・ツー]どうぞ」
「調査の結果、拠点として第4番衛星が最も適していることが判明した。よってこれより本船は4番衛星へ向かう。以上」
「[もがみ]了解」
「サクラ、第4衛星は、何か特徴があるのか?」
俺は、[ドク]との通信を終えてから、
サクラに尋ねた。
「組成は、岩石衛星です。水はありますが、海はありません。過去の地殻活動により、地表面は起伏が激しい形状です」
サクラは答えた。
「拠点として評価できる点は、起伏が激しい地表、ってことくらいか?」
俺は、サクラに聞いた。
「何故、この衛星を選んだかという観点から考えれば、そのような理由でしょう」
サクラは答えた。
「なんだか、つまんねー理由だな」
俺は、思った事を言った。
「全衛星を対象とすると数が多いので、あくまで簡易的な調査ですが、私も選ぶとしたら、第20番惑星第4衛星にします」
サクラは言った。
「そんなにいい星なのか?」
単にデコボコした、普通の星なんだろ?
「重要なのは、地軸の傾きです。
第4衛星は地軸が7度傾いていて、20番惑星の周りを回っているのと同時に、20番惑星とともに、パルサーの周りを回っています。この時、北極点を見てみると、地軸が傾いているので1公転の半分はずっと昼、もう半分はずっと夜になります。これは23.4度地軸が傾いていた地球で、極地に近い所で白夜や極夜が続く現象と同じです」
サクラは説明した。
「じゃ、公転の半分の期間は、パルサーが見えなくて、電磁波が当たらないのか!」
俺は、ようやく理解した。
「さらに、起伏が激しいという点がポイントです。地軸の傾きがわずか7度ですから、ずっとパルサーが沈まない期間でも水平線上7度以上には昇らないので、起伏の陰にいれば全期間を通して、電磁波を避けられるでしょう」
師団長のカナル中将は、本当にそこまで考えたのか?
だとしたら、すげーオヤジだ。
* * *
「Aチーム[はまかぜ]より、[もがみ]へ」
「[はまかぜ]どうぞ」
「我がチームは現在、第19番惑星まで2億3,000万キロ地点で、パルサーまでの直線軌道に入りました」
「[もがみ]了解」
「間もなく、20番惑星第2番衛星軌道に達しますが、2番衛星より不審な電波の発信を確認。貴艦に確認を依頼いたします」
[はまかぜ]が何かを探知したようだ。
「[もがみ]了解。その件は本艦で確認する」
「よろしくお願いします。以上」
よし、[はまかぜ]からお願いされたんだから、行かねばならない。しかも衛星の調査は我が艦隊の管轄だし。
「艦長より達する。本艦はこれより第2番衛星の調査に向かう。電磁波に曝される可能性もあるが、全事象に適切に対応し、軍務を全うするように。以上」
俺は、全艦に通達した。
「航海長、第2番衛星へ向かえ」
俺は、航海長に命じた。
「ブリッジより機関へ、両舷全速前進!」
「両舷全速、アイ!」
グォォォーーーーーン!
[もがみ]が急加速を始めた。
ペアの[しらかぜ]も追随する。
「間もなく20番惑星から200,000キロ。第1衛星軌道」
ノラン航海長が報告した。
「第2衛星軌道まで、20番惑星の陰を維持せよ」
俺は、航海長に命じた。
しかし、パルサーに照らされないように航行するのは、本当に面倒で厄介だ。
ウィーーーウィーーーウィーーー!
突然、艦内に警報が鳴り響いた。
「発報場所はどこだ?!」
副長が大声で確認を求めた。
「格納庫です!」
機関長が警報表示を確認して答えた。




