【101】パルサー星系 後方支援作戦開始
「問題は、この頭部のアンテナです」
サクラが言った。
HD究明班に集まったのは、HD維持管理部、情報部、科学部、工務部のメンバーだった。
「これは、325年前のオリジナルモデルにはありませんでした」
究明班のメンバーが、恐る恐る、アンテナに触ったりしている。
「これは、避雷針のように、この下のある程度の範囲にいることで、電磁波の影響を避けることができます」
「なるほど、電波の避雷針か」
サクラが説明すると、メンバーたちは納得した。
「ただ、本物の雷を避ける避雷針は、その形状自体と導電線によって効果を得ますが、このアンテナは、電波をもって電波を制すシステムとなっています」
サクラは説明する。
「と、言うと?」
HD維持管理部のメンバーが聞いた。
「この突端部で電波を受信し、波長解析をおこない、同期相殺する波長の電波をその下の円盤状のアンテナかららQの体を包み込むように放射し、システムを保護するのです」
サクラの説明が、一旦終わった。
「そいつは、すげーや」
工務部のメンバーだ。
「その技術は、宇宙軍で開発されたのか?」
今度は、情報部のメンバーが聞いた。
「記録では、研究はされていましたが、実用化には至らなかったことになっています」
サクラが答えた。
「じゃあ、これを実用化したのは誰なんだ?」
情報部が疑問を持つのは当然だ。
「それは、これから調査しないと分かりません」
サクラが答えた。
「その他に変わった所は?」
維持管理部だ。
「もちろん、この武器についてです」
サクラは、Qの腕を持ち上げて言った。
「レーザー銃か」
工務部のメンバーだ。
「これも、オリジナルモデルにはありません」
サクラが説明した。
「これも、アンテナを付けたやつが、開発したのか?」
情報部はこの類の話しに食い付く。
「それも、今後の調査次第です」
サクラは、受け流すしかないようだ。
「今までに武器を装備したHDはあるのか?」
また情報部だ。
「私たちに武器が装備されたことはありません」
サクラが、キッパリと答えた。
「でも、扱えるよな?」
情報部が食い下がる。
「武器の扱い方は、プログラムされています」
サクラとしても、嘘は言えない。
「ちょっと、待て、待て。
サクラの取り調べをするつもりか?」
俺は、話に割って入って、情報部のメンバーに問いただした。
「いえ、艦長。失礼しました」
情報の奴らは謝罪した。
「サクラ、一つ大事な事を確認していいか?」
俺は、言った。
「はい、どうぞ」
「HDは、HDを修理したり改造したりできるのか?」
「制御プログラムが組み込まれていて、不可能です」
「ありがとう」
俺は、サクラの回答に感謝した。
「じゃ、みんなで煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
俺は、そう言って、ラボを出た。
* * *
「こちら[ドク・ツー]、[ドク・ワン]どうぞ」
「こちら[ワン]、[ツー]どうぞ」
「現在、貴船まで5,000万キロの地点。それで、前回の通信の検討要請についてだが、第2番衛星に着陸して、拠点としたい」
「あー、要請は理解した、内容については今初めて聞いた事だが、衛星については未調査で安全が確認されていない」
[ドク・ツー]の要請に[ドク・ワン]の船長は答えた。
「安全が確認されている必要は無い。我々のいる所が安全な所だからだ」
[ツー]の船長は、そう主張した。
「あー、問題無ければ、いいのでしょう」
[ワン]の船長には認可の権限は無い。
「一応、承知しておいてくれ」
「こちら[ドク・ワン]、了解」
通信を終えて、[ワン]の船長は、不要な通信だったと思った。
そんな事よりも、船長にとっては積載品が盗難にあったことにどう対処すべきかに苦慮していた。
普通に考えれば、理由は何にせよ、[もがみ]の舟艇で来た部隊が魚雷艇と攻撃機を無断持ち出ししたのだから、普通に抗議でも告発でもすればよいと思うのだが、どういうわけか軍内でも、正規軍に対して輸送局などは発言力が無い。
恐らくこれまでの両者の悪しき慣習によるものと思うが、船長としては何事も無く持ち出された艦船が戻って来てくれればいいと祈るばかりだった。
* * *
11:45
「[さわかぜ]より、[もがみ]どうぞ」
「こちら[もがみ]、[さわかぜ]どうぞ」
「1200時の合流に向けての準備完了」
[さわかぜ]のタグチ艦長からの報告だ。たった1日だが、ゆっくり休めただろうか。
「[もがみ]了解。1200時をもって作戦開始となるので、別命あるまで待機せよ」
「[さわかぜ]、了解」
[さわかぜ]は準備ができた。
ウチは、どうだ?
「ブリッジより機関へ、エンジンアイドルスタート」
「エンジン、スタート、アイ」
マテラ機関長が機関室へ指示した。
ヒュィィィーーーーーン
わずかなエンジン音と微かな振動が伝わってきた。
「全艦へ、各部署、点呼報告せよ」
ヒラセ副長が、全艦へ通達した。
「CIC、完了」
「格納庫、完了」
各部署から次々と報告が入る。
11:55
「艦長、点呼完了です」
副長が報告した。
「よろしい。ブリッジはいいか?」
俺は、ブリッジを見回して言った。
「航海、ゴー」
「測距、ゴー」
「機関、ゴー」
「通信、ゴー」
「戦術、ゴー」
「艦長、オール、ゴーです!」
12:00
「よし。艦隊、全艦、両舷微速前進」
第1遊撃機動艦隊は、第20番惑星の陰の部分で全艦のエンジンに火が入った。
「司令より全艦に達する。本艦隊はこれより星系内警備行動を開始する。2艦ごとの組み合わせは前回の協議の通りとする。Aチーム[はまかぜ][さわかぜ]、Bチーム[いそかぜ][きぬかぜ]、Cチーム[つきかぜ][あきかぜ]とし、[しらかぜ]は[もがみ]と行動を共にする。作戦航行方向及び範囲は、Aチームが20番惑星より内系、Bチームが20番惑星より外系、Cチームは20番惑星の全衛星群を調査すること。以上」
俺は、今後の作戦行動について、全艦に通達した。
「司令、20番惑星そのものについては、海兵隊の管轄ですよね?」
通信担当のタレク少尉が言った。
「そうだが、どうした?」
俺は、少尉に聞いた。
「先遣海兵隊の特務護衛艦[たちばな]が、20番惑星の海上を漂流中です。ようやく夜の面に入ってきたので状況が見えてきたのですが、何らかの電波の送受信をおこなっているようです」
少尉は説明した。
「生存者の可能性は?」
「これだけ長時間曝されては、かなり低いかと」
「HDは、どうだ?」
「我々が保有している新型HDでは無理でしょう」
「では、いずれにせよ、海兵隊に連絡か」
「了解です。海兵隊の増援があれば、連絡します」
俺と少尉のやり取りは終わった。
第20番惑星も自転し、夜の面の様子も変わってきた。
北半球には大陸があるのだろうか、明かりの点在する部分が多くなっている。また南半球は海が大部分を占めていて、ようやく夜の面に入ってきたその海上に特務護衛艦[たちばな]がいるのだろう。
まあ、[たちばな]がいる海上も、ドローンの群れに守られた島も、大陸にある基地も、今後は全て海兵隊の管轄になるわけなので、とりあえず、お手並み拝見とする以外にない。
それまで、我々第1遊撃機動艦隊は、後方支援に徹し、海兵隊に犠牲が出ないよう協力しよう。




