三十九話 仲間との再会は遠くない
あれから三日が過ぎた。
城なしにもらった翼は、翌日には無くなっていた。もとからある翼を石でコーティングしたようなものだったので、無理をするなという城なしなりの配慮だろう。
なので、地上には降りられず、ラビやシノ、そしてパタパタに世話をしてもらい、日々ごろごろと縁側で過ごしていた。
このままだらけていき、ニートに逆戻りしないか不安ではあるが、まだ出来ることは自分でやろうと言う意思はある。
きっと、大丈夫。
ニートと言えば、穴に籠ったツバーシャだ。相変わらず穴からは出てきてはくれない。しかし、「もうやだ」と繰り返し呟く事は無くなった。
そろそろ袋を被せても大丈夫何じゃないだろうか。
と言うわけで被せてみた。
「どうだいツバーシャ?」
「悪くないわ……」
「おお、意思疏通が可能になったか」
「フン……」
ツバーシャは、ボンヤリしてされるがまま。嫌がる事も嫌そうにもせず、無気力で覇気がない。以前は近づくと拒絶反応を見せたが、今はもう「どうにでも」してといった感じだ。
まあ、まだ声に張りはないし、体はぷるぷるしているけれど、前よりましになったかな。かなりイカした感じのファッションだけど、頼むからシノは余計なことを言わないでおくれよ。
「お風呂に入りたい……」
「うん……? ああ、いっぱい入っていいぞ。ラビ、シノ。お風呂の準備をしてあげて」
「分かったのです! いっぱい沸かすのです!」
ああいや、お湯の量は普通でいいんだが。伝える前にシノ引っ張って行ってしまった。
「別に元の姿に戻って火を吹いて沸かすから良いわ」
「それはダメだ」
「ひっ……!」
俺の言葉にツバーシャは小さな悲鳴をもらし、後ずさるとガクガクと震え出した。
いかんいかん。ちょっと強めにいってしまった。やさーしく、やさーしくしないと。
「ああ、いや、すまん。あの水が無くなると城なしが落ちてしまうんだ。風呂を沸かすから人の姿で入っておくれ」
「わ、分かったわ……」
「ああ、うん」
触れれば壊れてしまいそうだ。客観的に見ると、以前の俺もこんな感じだったんだろうか。しかし、困った。話題がない。
取り合えず、働けとか言うのは地雷になると言うのは分かる。
いや、地雷にならんわ! 飛竜は定職に就かんだろう! 別に無職でも許されるじゃないか! くそう。仲間だと思っていたのに。
まあ、ともかく、風呂に入るにはこの穴の底から出ないとな。
「さあ、行こう。登れるか? 手を貸そうか?」
「バカにしないで……」
「そうか」
世話焼きすぎたかな。傷つけない為の微妙なバランスが難しい。でも、何だか危なっかしいなあ。
ずるっ、ドシャッ。
ツバーシャは、手を滑らせ、俺の足元に転がった。
「……」
「……」
くっ。登れなかったか。多分ここはあれだ。先に昇って、黙って手を伸ばせばいいはずだ。
頼む! 掴んでくれ。
「ありがとう……」
「えっ?」
「何でもないわ……」
声がちっちゃくて聞こえなかった。何か大切な言葉を聞き逃した気がする。でも、手は握ってくれたわ。お風呂までエスコートしてしんぜよう。
俺とツバーシャは、並んでぎこちなく歩き、風呂へと向かった。
程よく温まった壺からは、ねっとりとした湿気が舞い、俺の額からは汗が滴り落ちる。
ツバーシャは風呂の前に立つと、俺の方へと向き直り、右足を一歩前に踏み込む。思わずたじろぎ、俺は右足を一歩下げる。
すると、ツバーシャは器用にも、体をくねらせる事で上着を右半分だけ脱ぎ、握る手を左手から右手に替えて、もう一度体をくねらせ上着を脱いだ。
そして、握った手を上に掲げると、クルリと一回転しながら、ブラウスを首まで持ち上げ、また右半分だけそれをぬぐと、手を代えて全て脱ぎ落とす。
いったい、これは……。まるで、踊っているみたいだ。きっと、これがワルツとか言うやつなんだろう。
いやいやいや。
「なんで脱いでるの!?」
「脱がなきゃ、お風呂に入れないじゃない……」
「前に服を洗おうかって聞いたら怒ったじゃないか」
なんとか、説得しようと、言葉を紡ぎ出すもツバーシャは脱ぐ手を止めず、ついにはショートパンツに手を伸ばす。
たが、袋は被ったままだ。
「もうそんなモノどうでもいいのよ。見たければ見ればいいじゃない……」
「み、見ないぞ……」
俺は、明後日を見つめ、それでも、足りない気がして堅く目をつむった。
ツバーシャの羞恥心はいずこへ消えてしまったんだ。微塵も恥ずかしがらずに脱いでいきよる。ん? 恥ずかしがらずに?
まさか、顔を隠しているから恥ずかしくないのか!?
しまった。袋の効果が強すぎたんだ!
せめて、手を放してほしいのだが、そこは飛竜少女だ。握る力が半端ない。
バシャ……。バシャ……。
掛け湯する音が聞こえる。当然俺にもお湯が掛かってる。
「ふぅ……。お風呂は良いわね……」
「そりゃあ良かった。でも、何でそんなに風呂が好きなんだ? 城なし沸かしたのも好きだからだろう?」
「寒いと、体が言うこと聞かなくなるのよ……」
何だそりゃ。って、ああ。飛竜、竜、ハ虫類っぽい、変温動物。そういう事?
いやいや。
「火を吹けるじゃないか」
「熱すぎるじゃない。それにお湯の方が体に染み渡るじゃない……」
「なるほど」
じゃあ、何で寒いところにおったのだ。とも思うが、こっちは聞けないな。色々あったように思わせ振りな事を言っていたし。
それにしても、いつまで手を繋いでいれば良いのだろう。
さりげなく、手を離せないもんだろうか。温まって緊張も溶けただろう。すっと、空を撫でる感じで抜けんものだろうか。
すっ。
ミシッ……!
OH! 左手の骨が!
「待って! 左手握りつぶされたら、尻も拭けなくなっちゃう!」
「お願い、離さないで。初めてなのよ……」
「お、おう」
何が? お手て繋ぐのが? そんなまさか。いやでも、飛竜にはお手てないわ。しっかし、トイレに行きたくなったらどうすんだこれ。
あっ、考えたら行きたくなってきた。
「でも、俺、トイレいきたい」
「ここですれば良いじゃない。私は気にしないわ……」
「俺が気にするわ!」
まあ何てワイルディッシュな事を言ってくれるのかしら。そりゃ、あーたは野生の飛竜何でしょうが。やれやれ、どの辺までが飛竜で、どの辺までが人間なのか分からんなあ。
「ふぅ……。冗談よ。穴に戻るまででいいから……」
「冗談なのかよ……。いや、待って、突然立ち上がらないで!」
見えちゃいけないモノが見えてしまう。
本当にどこまが冗談か分かりにくい。ともあれ、穴に戻ると解放してくれた。
「それじゃあ、飯どきになったら、また来るからな」
「そう……」
「あ、もう少しここにいようか?」
「一人がいいわ……」
「そうか」
どっか失敗したかな? いや、考えすぎも、構いすぎも良くないか。ほどほどにしておこう。
「ご主人さま! お手てを出して欲しいのです!」
穴から戻るなりラビがやって来てそう催促された。
何だろう? 何かくれるんだろうか?
ぎゅっ。
「ラビもお手て繋いでみたかったのです」
「ああ、そういう事か」
「ふふふ。もう離さないのです!」
大変かわいらしい。そう、大変かわいらしいのだが、今は差し迫った状況にあるのだ。
トイレに行きたい。
「すまんラビ。思う存分お手てを繋いでいてあげたいんだが、トイレに行きたいんだ。ちょっとヤバイ」
「漏らしてもラビは気にしないのです」
「いや、待って。確かに似たような、やりとりをツバーシャとしたけどそこまで真似しなくていいよ!? 何か漏らすとか、よりとんでも無い言葉になってるし!」
「さあ、ブリッジして城なしのお外に飛ばすのです!」
「トイレ使うわ! もしかして、根に持ってる?」
「ふふふ。冗談なのです」
何だ冗談か。そこまでまねっこなのね。ラビの口から冗談何て初めて聞いた。ツバーシャの影響は強い。
それにしても、ツバーシャが来てから大変だったな。今も、ちとやっかいな事にはなっているけども。
ツバーシャの襲来で色々振り回されたけど、これからはしばらくは平和な日々が続きそうだ。怪我が治るまでは地上に降りられないし、そうそう空の上にやってくる奴がいるとも思えん。
ラビ、シノ、ツバーシャ。
個性的な彼女たちと、これからも何気ない日常のなかで、やりたいこと思い付いた事を端からやって見たりして、俺は幸せを見付けて行くのだろう。
そう。
ずっと、ずっと……。
いや、仲間と再会しないとダメじゃないか。あやうく、忘れるところだった、
そう言えば、城なしとの仲はどんな感じになったんだろう。石の翼なんて物を作ってくれたぐらいだし、かなり進展したんじゃなかろうか?
そう思い立ち、トイレを済ませるとパタパタのところにやって来た。
「城なしとの仲かあ……。うーん」
「かなり、良くなったと思うんだがどうだ?」
「うん。ツバサが困っているのを悟って、翼まで用意してくれたんだよ。これはもう、意思の疎通が取れているよね」
おお、中々の好感触。これならもう、仲間のところまで行ってくれるんじゃないだろうか?
「でも、ボクの言葉は届かない。だから、後少しだけ頑張って」
「ん……。そうか」
まだ、掛かるのか。
仲間は今頃何をしているんだろうな。案外楽しく冒険していて、魔王なんかとやり合っていたりしてね。
なーんて、そんなわけは無いか。
三章城なしまとめ
施設
・かまど
・トイレ
・忍者ハウス
・壺風呂
・コンポストnew!
家畜
・すずめ
海産物
・サケnew!
・タコ
・ナマコ
・カニ
・ワカメ、昆布
・その他未確認のモノが多少
川の生き物
・ヤマメnew!
畑
・さつま芋の壺畑
・トマトの壺畑
・大豆の壺畑
・米の壺田んぼ
・縁の下のシイタケ
果樹
・バナナ
・サルナシ
その他
・水源
・川:トイレ直行
・川:池通過
・川:サケ専用new!
・海
・池
女の子
・ラビ
・シノ
・ツバーシャnew!
パタパタによる城なしとの最終仲良し評価
「うん。ツバサが困っているのを悟って、翼まで用意してくれたんだよ。これはもう、意思の疎通が取れているよね」




