四十話 みんなでお芋を収穫して
お食事中の方は食べ終わってからお読みください。
あと少し。そんなパタパタの言葉を受けてから、早一ヶ月。うん万年生きるパタパタと人では流れる時間が同じわけがないと、気付かされた頃。
取り合えず仲間の事は忘れ、年中同じ気候の城なしで、夏も秋も合ったものじゃあない、収穫を楽しむことにした。
いつものように、朝食を終えるとみんな揃ってさつま芋の壺畑に向かう。
「ふふっ。お芋楽しみなのです」
「ああ、俺も楽しみだ。きっとたくさんとれるぞ」
「ラビよ。城なしから落ちぬように気を付けるのじゃ」
「ラビはそんなにおドジじゃ無いのです……」
シノが人差し指で宙にくるくる輪を描いて注意をすると、ラビは「むむむ……」と唇をアヒルの様に突きだして抗議した。
ラビがそんなにと言うからには、多少の自覚はあるらしい。新しい発見だ。
「陽の光が眩しいわ。眩しさに焼かれて灰になり、そして、風に飛ばされ私は空になる……」
「わあ。なんだか詩的で素敵だね。でも、数万年お日様の下で眠っても灰にならなかったよ?」
ツバーシャは、袋をずっと被ったままだ。それに俺の手を放して外に出るのは嫌がる。更に今は、歩くのが億劫とパタパタの上で抱き枕に抱きつくような格好をしている。
パタパタにこうやってへばり付いていると、自分が大きくなったように思えて落ち着くんだそうだ。
「ツバーシャ。パタパタから降りて。お芋掘るよ?」
「パタパタ。私の代わりに掘って……」
「うん。ボク頑張る!」
最初は怯えていたパタパタも、今はすっかり馴れたが、ツバーシャに良いようにされている。
パシリ見たいで宜しくないのだが。
「ツバーシャ。パタパタを顎で使っちゃダメだよ」
「そう。わかった。ちゃんと、心を込めてお願いするわ……」
そう言ってツバーシャはパタパタから降りると、姿勢を正して頭を下げる。
「お願いしますパタパタ様。どうか私の代わりにお芋を掘ってください……」
「いや、そこまでするなら自分で掘ろうよ!?」
「えー? 別にボクは構わないよ?」
こんな調子と来たもんだ。自尊心、羞恥心なんてものは平気でなぐり捨て、態度だけは下手に出るので始末が悪い。
パタパタも何か言い付けられると、喜んで面倒を見てしまう。
「ご主人さま。早くお芋を掘るのです……」
「うん。待たせてすまん。先にお芋がちゃんと出来ているか見てみよう」
焦れて、裾を引くラビを一つ適当な壺畑の前に座らせ、壺の中の土を軽く払わせる。
「あっ! お芋がいっぱい出来ているのです!」
「やや小ぶりじゃな」
「大きくなるまで待つ必要はないさ。さつま芋の壺畑は、今や城なしの外周にずらりと並んでいるからね」
毎日少しずつ壺を増やしたもんだから、いつの間にかここまでになってしまった。
だが、その甲斐あって壺畑は絶景になった。いつか、夢見て描いた光景の上を行っている。絶対に叶わぬ夢と言うのは叶うと気持ちの良いものだ。
「しかし、やり過ぎた! 生産止めても一年で食いきれる気がしない」
「そんな事は無いのです。これで苦しい思いをしなくて済むのです」
「主さま。余裕があるのは幸せな事なのじゃ……」
それもそうだ。戦乱を生きたシノの言葉は重い。食べ物がなければ魔物を食べれば良いじゃないと言うわけにはいかんよな。
文字どおり食うのに命がけになってしまう。
しかし、そうは言っても年間トン単位で収穫できてしまう。
「たくさん食べていいなら、私が食べるわ……」
「なんだ。ツバーシャは遠慮して食べていたのか?」
「生きていくのには十二分に食べているわ。でも体に蓄えておけばいざと言うとき便利なのよ……」
大丈夫だ。ニートにいざと言うときは来ない。己の人生を捧げて俺が証明した。
しかし、蓄えるってお腹に蓄えるのかな? 確かにみんなもっと丸くなった方が健康的な気はするな。ふむ……。何とかして太らせようか。
「良いのかのう? 芋をたくさん食べると」
「こら、シノっ!」
「なっ、何よ……?」
芋食えば出るモノが出る。それは、ツバーシャにとってトラウマを呼び起こすモノだろう。
相変わらずあまり仲はよろしくない。そこまで悪意があるようには思えないし、今だって俺が止めるのを見越していたはずだ。
ん? 何でそんな事を? からかう振りして俺に庇わせ、ツバーシャの俺に対する評価を上げているのか?
忍者だし、主さまを影で主を立てるとか考えてそうだな。俺としては、シノとツバーシャが仲良くするところの方が見たい。
まあいい。さつま芋を収穫しようじゃあないか。ふふっ、収穫はやはり気分がいい。お芋を掘るのは君たちにやってもらおうかな。
「よしほら、一人一壺ずつ掘るぞー。葉っぱは地上に落とさないでね。何かに使えそうだから、とっておこう」
「ラビはこの壺にするのです!」
「わぁはこれにするのじゃ」
「私はこれね……」
「じゃあ、ボクはこれ」
芋を掘るのにツルは不要なので、各自の壺からナイフで切り取ってやる。
いいなあ。これだよこれ。子供たちに俺の作ったお芋掘って楽しんでもらう。これをやってみたかった。
かつて、前世でさつま芋を育てた時はそんな勇気が無かった。 と言うか勇気振り絞ったら逮捕されるだろう。
近所の子達に「そーら掘ってみそ」何て言える訳がない。
「ラビのは丸っこいのです!」
「わぁのは痩せとるが、数が多いのじゃ」
「大きいけど数が少ないわ……」
「ボクのはなんだか、クネクネしてる」
せーので芋を引き抜くと、その形を比べて盛り上った。
芋ってのは中々形が揃わんもんだ。それでも日本じゃ形を合わせなくちゃいけないから、小ぶりな内に収穫するんだっけかなあ。
このさつま芋も早めの収穫なんだが、形が揃わなかった。が、その方が楽しかろう。
「また、焼き芋するのです?」
「今回は蒸かしてみようかな。そっちのが楽だし」
「面倒なら火を吹くわよ……?」
「消し炭になるのじゃ」
「フン……」
うん。消し炭になるな。壺で蒸かそう。
と言っても蒸かし釜などない。だから、それも壺で代用する。
「壺のなかに壺を入れるのです?」
「うん。そんで中の壺に網を張って芋のせて、水をいれれば蒸かせる。と、思う。一応中に入れる壺には穴を開けよう」
「はー。何だかとても難しそうなのです」
蒸すってそんなに高度な技術だっけ? 大昔からやってそうなイメージだが……。いや、ラビが特別野性的な環境で育ったからそう思うのか。
「準備出来たのじゃ。しかし、壺に壺を入れて蒸すとは……」
「やや強引な気はするけど、目的が果たせりゃそれで良いじゃないか」
「後は火を吹けば良いのね……」
「やめて、水蒸気爆発してまう!」
引きこもってから内気になってしまったツバーシャだが、ワイルドさは消えていない。
むしろ「もう全部どうにでもなればいいのよ」と自棄になっている分増長されている気さえする。
ともあれ火をつけたら後は待つだけだ。しかし、何れだけ火にかけてりゃいいんだろう。 蓋とると熱が逃げてしまいそうだし難しい。時計もないから時間測れない。
鼻を頼りに臭いで加減するか? にしても、待っている間がヒマだな。でも、目を離したら焦げそうだし……。
この壺の重ね蒸しを応用すれば蒸留水が作れそうだなあ……。
中の壺に水を入れて外側の壺を空にすれば……。いや、そもそも蓋をずらして水滴集めればいいのか。蒸留水作ったところで使い道が思い付かんが、頭の片隅に入れておこう。
「良いにおいがしてきたのです」
「もう良いんじゃ無いかのう?」
「うーん。どうだろう。開けてみようか……。熱っつい!」
「私がやるわ。熱には強いもの……」
いや、俺も熱には強そうなんだが、熱いものは熱いんだよ。ツバーシャも実はそうなんじゃないの? いや、平然と握ってるわ。
「出来たのです?」
「箸が通ったからもう良さそうじゃな」
「こんなんでも、蒸せるもんだな。塩ふって食べよう」
うん。中は黄色で綺麗に出来てる。旨そうだ。
「はひひもほひひへのふ!」
「おう。飲み込んでからしゃべろうな! 何かが復活するぞそれ」
「まあまあね。悪くないわ……」
「そうじゃの、じゃがまあまあと言いつつもう半分も食っておるではないか」
「フン……」
うんうん。いっぱい食え。足りなきゃ壺から引っこ抜いてくればいい。やはり、食べ物育てるってのはこの瞬間こそ最高だ。
早く他のも育たないかな。トマトはもう採れそうだが、緑が少しでも残ってると青臭いから気を付けないと……。
ぷすーっ。
「……」
あっ、これはいかん。誰がこいたのか知らんが不味い。むっ……。ラビの耳がぴくぴくしている。誰だか特定したか? シノならともかく、ツバーシャだと本格的に不味い。
ぜったいに名前を出すなよ? その前になんとかせんと……。
ええい! 時間がない覚悟を決めろ! より強いインパクトで上書きするんだ!
ふんっ!
ばふうぅぅ!
俺は盛大に屁をこいた。
「すまん。しりが緩んだ」
「ご主人さまはおならも凄いのです!」
「主さま……」
「最低ね……」
ああ、うん。そうね。そうだよね? いいんだけどね!?




