第73話 焼き物の日。
翌朝、穂月国の別荘で目を覚ました。
昨日はリンドの町からこちらへ戻り、夕飯を食べてそのまま宿泊した。キーちゃんも一緒だったので、リビングには四人分のパジャマ姿が揃っている。
「由美様! この家、素晴らしいですね!」
朝から元気なキーちゃんによると、昨夜は何もかもが驚きの連続だったらしい。お湯が好きなだけ出るお風呂に、水で流れる厠、ふかふかの寝具。しかも支給したパジャマまで大絶賛だった。
「こんなによく眠れたのは初めてです!」
「それはよかった。じゃあ、朝ご飯にしようか」
今朝は炊きたての新米に鯖の塩焼き、卵焼き、お漬物とお味噌汁を用意した。
昨日買ったお米だけど、これがまた美味しい。やっぱり新米はいいねえ。
「……美味しいですね」
佐藤さんも満足そうに箸を進めながら、穂月国の町並みが懐かしく、落ち着くと話していた。
「気に入ったなら、ここ使ってもいいですよ?」
「ありがとうございます。ただ、まずは冒険者組合で仕事をしてみたいと思っています。自分に合うか確かめたいので」
「そっか。気が向いたら言ってね」
その横では、キーちゃんが二杯目のご飯を頬張りながら、まだ家の設備について熱心に語っていた。
◇
朝食を済ませ、今日はレイヴェル王国で手に入れた布で、お出かけ着を作ることにした。
私とセイラは、ワンピースに上衣を重ねて帯を締める、二部式の浴衣。南の島ならワンピースだけでも着られるので、一石二鳥だ。
ついでに一本挿しの簪も何本か作ってあげると、セイラはさっそく一本使って、赤毛をくるっとまとめていた。
「これ、便利ですよねー!」
男性陣は昨日と同じ形のパンツとブーツに、動きやすい羽織を合わせる。佐藤さんは落ち着いた藍色、キーちゃんは鮮やかな青緑に朱色を差してみた。
うん、二人とも似合ってる。
城下町へ出ると、昨日に引き続きあちこちから声をかけられたものの、今日は焼き物がお目当てなので、そのままキーちゃんに案内してもらった。
◇
焼き物屋には、茶碗や小鉢、皿などが所狭しと並んでいた。
うわー、楽しい!
華やかな絵皿もあるけれど、私が好きなのは釉薬の流れや焼きムラ、土の質感が残る器だ。
深緑の釉薬が縁に溜まった小鉢に、青と白が溶け合ったような皿。少しいびつな茶碗も、それぞれ違う表情があっていい。
「由美さん、これ綺麗ですね!」
セイラが手にしていたのは、淡い青磁色の器だった。釉薬の下には細かな貫入が広がっている。
「いいねー! あ、こっちも見て!」
黒い釉薬の奥に青い光が浮かぶ、小さな茶碗。
……曜変天目みたい。
角度を変えるたびに色が揺らいで見えて、すっかり気に入ってしまった。
ほかにも飴色の深皿や灰釉の長皿など、気に入ったものを次々と選んでいると、キーちゃんが不思議そうに尋ねてきた。
「由美様、同じ器を揃えなくてもよろしいのですか?」
「うん。全部違う方が好きなの。割れても困らないし」
「……割れることを考えてお買いになるのですか?」
「備えあれば憂いなし!」
何とも言えない顔をされた。
買い物をしているうちに、店主から荒神様ではないかと声をかけられた。
戦が終わってから商いが戻り、以前は売れなかった器にも注文が入るようになったそうだ。
「すべて荒神様のおかげでございます」
いやあ、お米が欲しかっただけなんだけどね。
その間もセイラは器を眺め、釉薬の配合や焼き方について熱心に質問していた。
「同じ色を出そうとしても、窯の火加減で変わってしまうのです」
「へえ……面白いですね!」
そんなやり取りを聞いていたキーちゃんが、すかさず声をかけた。
「それでしたら、近くに窯元がありますよ! よろしければご案内しましょうか?」
セイラが嬉しそうに頷いたので、行ってみることにした。
◇
窯元では職人たちがろくろを回し、成形した器を棚に並べていた。
土の塊が指先の動きに合わせて少しずつ形を変えていく様子に、私も思わず見入ってしまう。
セイラはすっかり夢中で、親方に土や釉薬のことを尋ねていたけれど、しばらくすると遠慮がちに口を開いた。
「あの……私も作ってみたいです。できれば、ちゃんと習ってみたくて」
親方はセイラの熱心な様子を見ていたらしく、快く引き受けてくれた。
しかも荒神様のお連れなら大歓迎だそうだ。
あらまあ。これは本格的にハマりそうね。
窯元を出てからも、セイラは楽しそうにろくろの話をしていたものの、やがて私を見て少し遠慮がちに尋ねてきた。
「由美さん。私、しばらく穂月国に滞在してもいいですか?」
「いいよー。別荘あるし」
「本当ですか!? でも、南の島の図鑑も……」
「行ったり来たりできるようにしようか」
せっかくやりたいことが見つかったんだから、楽しんでほしい。
別荘へ戻ると、セイラ専用の携帯と収納ポーチを用意した。
携帯には南の島と別荘を往復できる転移機能を、ポーチには家一軒分の収納を付与。どちらも本人以外は使えないようにしてある。
「お小遣いも入れといたから、必要なものは好きに買ってね」
「えっ、お金まで!? そんな、いただいてばかりで……!」
「画材とか道具も必要でしょ。足りなくなったら言ってねー」
何度もお礼を言うセイラに見送られ、キーちゃんとは城へ戻るところで別れた。佐藤さんを森の家へ送り届けてから、私も南の島へ帰る。
◇
東屋でセイラが陶芸を習うことになったと伝えると、真っ先に反応したのはロキだった。
「……図鑑は?」
レムと教授もこちらを向いた。
「生物図鑑の制作はどうなる?」
「まだ記録したいものがあるのだが……」
「大丈夫だよー。いつでも帰ってこられるようにしたし、図鑑も続けるって」
三人とも、それを聞いて安心したらしい。
佐藤さんは仕事を探し、セイラは陶芸を始める。
みんな、やりたいことが見つかってきたね。
さて、私は買ってきた器でも眺めようかな。
何を盛りつけようか考えるだけで、しばらく楽しめそうだ。




