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46歳、異世界では絶対に働きません。  作者: Tomsug


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第73話 焼き物の日。

 翌朝、穂月国の別荘で目を覚ました。


 昨日はリンドの町からこちらへ戻り、夕飯を食べてそのまま宿泊した。キーちゃんも一緒だったので、リビングには四人分のパジャマ姿が揃っている。


「由美様! この家、素晴らしいですね!」


 朝から元気なキーちゃんによると、昨夜は何もかもが驚きの連続だったらしい。お湯が好きなだけ出るお風呂に、水で流れる厠、ふかふかの寝具。しかも支給したパジャマまで大絶賛だった。


「こんなによく眠れたのは初めてです!」


「それはよかった。じゃあ、朝ご飯にしようか」


 今朝は炊きたての新米に鯖の塩焼き、卵焼き、お漬物とお味噌汁を用意した。


 昨日買ったお米だけど、これがまた美味しい。やっぱり新米はいいねえ。


「……美味しいですね」


 佐藤さんも満足そうに箸を進めながら、穂月国の町並みが懐かしく、落ち着くと話していた。


「気に入ったなら、ここ使ってもいいですよ?」


「ありがとうございます。ただ、まずは冒険者組合で仕事をしてみたいと思っています。自分に合うか確かめたいので」


「そっか。気が向いたら言ってね」


 その横では、キーちゃんが二杯目のご飯を頬張りながら、まだ家の設備について熱心に語っていた。


◇


 朝食を済ませ、今日はレイヴェル王国で手に入れた布で、お出かけ着を作ることにした。


 私とセイラは、ワンピースに上衣を重ねて帯を締める、二部式の浴衣。南の島ならワンピースだけでも着られるので、一石二鳥だ。


 ついでに一本挿しの簪も何本か作ってあげると、セイラはさっそく一本使って、赤毛をくるっとまとめていた。


「これ、便利ですよねー!」


 男性陣は昨日と同じ形のパンツとブーツに、動きやすい羽織を合わせる。佐藤さんは落ち着いた藍色、キーちゃんは鮮やかな青緑に朱色を差してみた。


 うん、二人とも似合ってる。


 城下町へ出ると、昨日に引き続きあちこちから声をかけられたものの、今日は焼き物がお目当てなので、そのままキーちゃんに案内してもらった。


◇


 焼き物屋には、茶碗や小鉢、皿などが所狭しと並んでいた。


 うわー、楽しい!


 華やかな絵皿もあるけれど、私が好きなのは釉薬の流れや焼きムラ、土の質感が残る器だ。


 深緑の釉薬が縁に溜まった小鉢に、青と白が溶け合ったような皿。少しいびつな茶碗も、それぞれ違う表情があっていい。


「由美さん、これ綺麗ですね!」


 セイラが手にしていたのは、淡い青磁色の器だった。釉薬の下には細かな貫入が広がっている。


「いいねー! あ、こっちも見て!」


 黒い釉薬の奥に青い光が浮かぶ、小さな茶碗。


 ……曜変天目みたい。


 角度を変えるたびに色が揺らいで見えて、すっかり気に入ってしまった。


 ほかにも飴色の深皿や灰釉の長皿など、気に入ったものを次々と選んでいると、キーちゃんが不思議そうに尋ねてきた。


「由美様、同じ器を揃えなくてもよろしいのですか?」


「うん。全部違う方が好きなの。割れても困らないし」


「……割れることを考えてお買いになるのですか?」


「備えあれば憂いなし!」


 何とも言えない顔をされた。


 買い物をしているうちに、店主から荒神様ではないかと声をかけられた。


 戦が終わってから商いが戻り、以前は売れなかった器にも注文が入るようになったそうだ。


「すべて荒神様のおかげでございます」


 いやあ、お米が欲しかっただけなんだけどね。


 その間もセイラは器を眺め、釉薬の配合や焼き方について熱心に質問していた。


「同じ色を出そうとしても、窯の火加減で変わってしまうのです」


「へえ……面白いですね!」


 そんなやり取りを聞いていたキーちゃんが、すかさず声をかけた。


「それでしたら、近くに窯元がありますよ! よろしければご案内しましょうか?」


 セイラが嬉しそうに頷いたので、行ってみることにした。


◇


 窯元では職人たちがろくろを回し、成形した器を棚に並べていた。


 土の塊が指先の動きに合わせて少しずつ形を変えていく様子に、私も思わず見入ってしまう。


 セイラはすっかり夢中で、親方に土や釉薬のことを尋ねていたけれど、しばらくすると遠慮がちに口を開いた。


「あの……私も作ってみたいです。できれば、ちゃんと習ってみたくて」


 親方はセイラの熱心な様子を見ていたらしく、快く引き受けてくれた。


 しかも荒神様のお連れなら大歓迎だそうだ。


 あらまあ。これは本格的にハマりそうね。


 窯元を出てからも、セイラは楽しそうにろくろの話をしていたものの、やがて私を見て少し遠慮がちに尋ねてきた。


「由美さん。私、しばらく穂月国に滞在してもいいですか?」


「いいよー。別荘あるし」


「本当ですか!? でも、南の島の図鑑も……」


「行ったり来たりできるようにしようか」


 せっかくやりたいことが見つかったんだから、楽しんでほしい。


 別荘へ戻ると、セイラ専用の携帯と収納ポーチを用意した。


 携帯には南の島と別荘を往復できる転移機能を、ポーチには家一軒分の収納を付与。どちらも本人以外は使えないようにしてある。


「お小遣いも入れといたから、必要なものは好きに買ってね」


「えっ、お金まで!? そんな、いただいてばかりで……!」


「画材とか道具も必要でしょ。足りなくなったら言ってねー」


 何度もお礼を言うセイラに見送られ、キーちゃんとは城へ戻るところで別れた。佐藤さんを森の家へ送り届けてから、私も南の島へ帰る。


◇


 東屋でセイラが陶芸を習うことになったと伝えると、真っ先に反応したのはロキだった。


「……図鑑は?」


 レムと教授もこちらを向いた。


「生物図鑑の制作はどうなる?」


「まだ記録したいものがあるのだが……」


「大丈夫だよー。いつでも帰ってこられるようにしたし、図鑑も続けるって」


 三人とも、それを聞いて安心したらしい。


 佐藤さんは仕事を探し、セイラは陶芸を始める。


 みんな、やりたいことが見つかってきたね。


 さて、私は買ってきた器でも眺めようかな。


 何を盛りつけようか考えるだけで、しばらく楽しめそうだ。

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