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46歳、異世界では絶対に働きません。  作者: Tomsug


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第67話 恐竜ツアー

 朝、ヴィラで朝食を食べていると、玄関の呼び鈴が鳴った。


 ロキかな?


 昨日はあれだけ楽しみにしてたし、早く来てもおかしくない。そう思って扉を開けると、そこに立っていたのはレムと教授だった。


「由美、出発はまだか?」


「おお、由美! いよいよだな!」


 ……早っ。


「おはよう。二人とも早いねぇ」


「準備は完了している。いつでも出発可能だ」


 レムは例の虫籠を持ち、教授も端末や調査機材を抱えている。


「まだ朝ご飯食べてるんだけど。とりあえず中で待ってて」


 二人をリビングに通してお茶を出すと、さっそく採集計画について話し始めた。捕獲方法や観察項目について真剣に相談しているけど、まだ一匹も見てないからね?


 しばらくして、今度こそロキと爺がやってきた。


「由美! 準備はできてるか?」


「おはよー。できてるよ」


 元気いっぱいで入ってきたロキだったけど、ソファに座っている二人を見つけて足を止めた。


「……俺より先に来たのか」


「うん。ロキより早かったよ」


「……そうか」


 あら、ちょっと悔しそう。まさかロキより恐竜を楽しみにしている人がいるとは思わなかったわ。


 ゲストハウスで準備を終えていた星空ちゃんを迎えに行けば、これで全員集合。


「じゃあ、恐竜大陸に行きますか!」


「やっとか!」


 ロキの嬉しそうな声とともに、私たちは恐竜大陸へ転移した。


◇


 目の前に広がっていたのは、見渡す限りの深い森だった。


 巨大な木々が空へ向かって伸び、太い蔓が絡み合っている。遠くには山脈が連なり、どこからともなく聞こえる低い鳴き声が、湿った空気を震わせていた。


「うわぁ……」


 星空ちゃんが思わず声を漏らす。


 確かに、これはすごい。地球のジャングルだってここまでじゃないと思う。


 ロキは今にも森へ飛び込んでいきそうだけど、とりあえず待ってもらおう。


「先に車作るからねー」


「分かった。早く頼むぞ」


 はいはい。


 空飛ぶキャンピングカーを思い浮かべると、《万能生産》が反応した。


 必要な素材と構造が頭に浮かんできたので、屋上に展望デッキ、車内にはキッチン、トイレ、ソファを指定する。


 決定すると周囲の木々が必要な分だけ切り分けられ、近くの岩も材料として取り込まれていく。加工された素材が次々と組み上がり、あっという間に大型のキャンピングカーが完成した。


 あとは《万能魔法》で飛行できるようにして、結界を付与すれば完成。


「あ、木を切ったところには肥料ペレット撒いとこ」


 多少ジャングルになったって、ここなら問題ないでしょ。


 屋上の展望デッキにはテーブルと椅子を置き、周囲を透明な結界で囲ってある。星空ちゃんとロキはさっそく上がっていき、爺も後を追った。


 レムと教授は研究機材を積み込み、何やら端末の設定を始めている。


 ……完全に移動研究所だな、これ。


「じゃあ、出発するよー」


 キャンピングカーがふわりと浮き上がり、木々の上へ出ると、どこまでも続く緑の海が広がった。


 遠くには巨大な翼を持つ生き物が飛んでいる。


 翼竜かな?


 そんなことを考えていると、ロキが突然声を上げた。


「由美! あれ見ろ!」


 指さされた先で、森の一部がゆっくりと動いていた。いや、森じゃない。木々の間から長い首が何本も伸びている。


「うわー! でっか!」


 巨大な草食恐竜の群れだった。


 太い脚で地面を踏みしめながら、高い木の葉を食べている。象なんて比べものにならないほど大きく、尻尾まで入れたら何メートルあるんだろう。


 少し近づくと、一頭がこちらを見上げた。


 大きな頭に、意外とつぶらな目。


 ……かわいい。


「すごいですね! 本当にいるんですね!」


 星空ちゃんはさっそくスケッチブックを開き、ロキも手すりに身を乗り出す勢いで群れを眺めている。


「爺、あれ見ろ! あんなにでかいのに、木の葉を食べてるぞ!」


「左様でございますな。実に見事な生き物でございます」


 私もソファに腰を下ろして眺めていると、群れの端に少し小さな個体が混ざっているのが見えた。


 親子かなぁ。


「教授、群れの中央に小型個体がいる。保護行動の可能性が高い」


「うむ。成体の配置にも規則性がありそうだな。実に興味深い」


 レムと教授は端末で記録を取りながら、すっかり研究者の顔になっている。


 捕まえるのは後にしてね。今は観光中だから。


 その後も森の奥へ進むと、今度は頭に大きな角を持つ恐竜が、近づいてきた別の個体を威嚇していた。


 ロキが歓声を上げていると、遠くから大きな咆哮が響いた。


 見下ろせば、巨大な肉食恐竜が木々の間から姿を現している。大きな頭に鋭い歯、太い後脚。あんなのに追いかけられたら、絶対泣く自信がある。


「……すごいな、あれ。由美、もっと近づけないか?」


「えー、あれに?」


 結界があるから平気だけど、あの大きな口はちょっと怖いんですけど。


 そう思っていると、恐竜が何かを見つけて突然走り出した。その先には小さな影があり、よく見れば人間らしき人物が全力疾走している。


「……あれ、人じゃない?」


「あー……たぶんあの人かな」


「何か知ってるんですか?」


「うん。神様の弟子がここに追放されたって聞いたんだよね。たぶんあの人じゃないかな」


「えっ、神様の弟子が?」


 地上では、その人物が倒木を飛び越え、必死に逃げ続けている。


 ……逃げ足速いなぁ。


 やがて大きな岩の隙間へ滑り込むと、恐竜は諦めたように森へ戻っていった。


 おお、逃げ切った。


 そのまま観光を続けていると、今度はロキと爺が揃って地上を見つめた。


「由美、あそこに魔族がいる」


「坊ちゃま、あれは……」


「……あいつらだな」


 二人の視線を追うと、森の開けた場所に集落らしきものが見えた。


 近くへ降りると、こちらに気づいた魔族たちが一斉に振り返る。


「ロキ様!?」


 嬉しそうに駆け寄ろうとする者もいれば、露骨に顔をしかめる者もいる。相変わらず仲が悪そうだ。


 ロキはそんな魔族達を眺め、ぽつりと呟いた。


「……お前たち、今度は恐竜だったか」


 爺もなんとも言えない顔をしている。


 そして、私を見つけた魔族たちの表情が一変した。


「お前!! 分かったと言っていたではないか!?」


「うん。だから戦争してないところに送ったでしょ?」


「この地には巨大な魔物がうようよしておるのだぞ!」


「でも食べ物あるでしょ?」


「あるにはあるが! 我らまで食べられそうになっておるのだ!!」


 あらら。確かに恐竜だらけの土地で暮らすのは大変かもしれない。


「ごめんごめん。じゃあ、次は恐竜がいないところにするね」


「いや、待て! 今度こそ、ちゃんと――」


 食べ物に困らなくて、戦争してなくて、恐竜がいないところ。


 そんな場所を思い浮かべ、《万能魔法》で魔族たちを強制転移させた。


 集落にいた魔族たちの姿が、一斉に消える。


「……今度はどこに飛ばしたんだ?」


 ロキが尋ねてきたので条件を説明すると、しばらく黙り込んでしまった。


 爺まで静かに目を伏せている。


 ……そんな顔しなくても。


 今度こそ大丈夫でしょ。たぶん。


◇


 午後になると、森を抜けて広い草原へ出た。背中に大きな板のような突起を持つ恐竜や、群れで走る小型の恐竜がいて、空には翼竜まで飛び交っている。


 ロキは次々に現れる恐竜に夢中で、星空ちゃんも時折スケッチブックを広げていた。


 爺がお茶を淹れてくれたので、私もソファで一息つく。


 恐竜を眺めながらのお茶。なかなか贅沢じゃない?


 その後、海岸沿いまで足を延ばすと、海面から細長い首を伸ばす巨大な生き物を見つけた。


 長い首の先には小さな頭があり、水中では四枚の大きな鰭を動かしている。


「あ、あれもすごい!」


 思わず声を上げると、レムと教授が揃って窓際へやってきた。


「教授、あの個体を見ろ。陸上種とは明らかに異なる形態だ」


「おお! 実に興味深い! あの鰭の動きは記録せねばならんな!」


 二人はしばらく観察していたものの、やがてレムが虫籠を取り出したところで動きを止めた。


「……教授」


「どうした?」


「水棲生物用の容器を作っていない」


「…………」


 教授も手元の機材を確認し、しばらく黙り込んだ。


「……忘れておったな」


 えっ。


「ちょっと待って。水槽の三分の一、海水にしろって言ったの誰!?」


 二人は顔を見合わせたまま、何やら真剣に相談を始めてしまった。


 虫籠は陸上生物用だから、水棲生物を安全に持ち帰るには専用の容器が必要らしい。


 昨日あれだけ準備してたのに。


「まあ、現地で調査してから製作する方が合理的だ」


「うむ。まずは生態を詳しく確認せねばならんな」


 ……切り替え早いなぁ。


 結局、二人はこのまま大陸に残って調査を続けたいと言い出した。


 まあ、そうなるよね。


「いいけど、危ないことしないでよ?」


「問題ない。環境装甲もある」


「そうは言っても、あんな大きいのに踏み潰されたり、食べられたりしたら困るでしょ」


 仕方がないので、二人それぞれに移動しても効果が続く結界を張っておいた。


 これなら魔物に襲われても、そう簡単には怪我をしないはずだ。


「二人とも携帯持ってるよね? 何かあったら連絡してね。帰るときも迎えに来るから」


「携帯で転移できるだろう」


「そうなんだけど、二人が何を連れて帰ってくるかわからないじゃん」


 あんな巨大な生き物をそのまま南の島へ連れてこられても困る。結界で弾かれるだろうけど、念のため迎えに来た方が安心だ。


「だから、帰るときは先に電話してね」


「理解した」


「うむ。では、調査を続けるとしよう」


 レムは虫籠を確認し、教授はさっそく端末を操作している。


 ……大丈夫かな、この二人。


 まあ、宇宙人だし。結界もあるし。なんとかなるでしょ。


 海岸近くの開けた場所に二人を降ろすと、さっそく何やら相談しながら歩き出していった。


 元気だなぁ。


 私たちはもう少しだけ海岸沿いを飛び、海から飛び出す巨大な魚や、砂浜を歩き回る小型の恐竜を眺めて過ごした。


 ロキは最後まで目を輝かせていたし、星空ちゃんのスケッチブックもすっかり絵でいっぱいになっている。


 陽が傾き始めたところで、そろそろ帰ることにした。


 キャンピングカーを地面へ降ろし、みんなが外へ出たのを確認してから《万能収納》へしまう。


「どうだった? 楽しかった?」


「ああ! また来たい!」


「私もです! こんなにたくさん描けるなんて思いませんでした!」


 二人とも大満足らしい。爺も穏やかに微笑んでいるし、連れてきてよかったなぁ。


「じゃあ、帰ろっか」


 みんなを連れて南の島へ転移する。


 見慣れたヴィラが目に入ると、なんだかほっとした。恐竜大陸は面白かったけど、やっぱり家が一番だね。


 さて、今日は何を食べようかな。


 ……そういえば、レムと教授は夕飯どうするんだろう。


 まあ、携帯あるし、お腹が空いたら連絡してくるでしょ。


 うん。なんとかなるなる。

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