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46歳、異世界では絶対に働きません。  作者: Tomsug


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第66話 明日こそ。

「由美、恐竜はいつ見に行くんだ?」


 昼食を終えてソファでくつろいでいると、ロキが勢いよくやってきた。


 恐竜。そういえば見に行こうって話をしてたっけ。


「そうだねぇ。特に予定もないし、今日行っちゃう?」


「……本当だな?」


「うん。せっかくだし、星空ちゃんも誘ってみようか」


 ロキはもう出発する気満々で、爺に荷物の準備を頼んでいる。


「爺も行くよね?」


「もちろんでございます。坊ちゃまのお供をいたします」


 そんなに急がなくても恐竜は逃げないと思うけど、まあ、楽しみなのはいいことだ。


 私たちはヴィラを出て、星空ちゃんの暮らすゲストハウスへ向かった。


 テーブルにはスケッチブックが広げられており、先日モデルになってもらったグランヴェルムの姿が描かれている。さすが美大生、鱗の質感まで見事に表現されていた。


「星空ちゃん、今日これから恐竜大陸に行こうと思うんだけど、一緒に行かない?」


「恐竜大陸、私も行っていいんですか?」


「もちろん。恐竜も描きたいでしょ?」


「描きたいです!」


 即答だった。


 よし、決まり。あとはレムたちにも声をかけよう。あの二人なら絶対についてくるだろうし。


 そう思いながらゲストハウスを出たところで、ちょうど戻ってきたレムと鉢合わせた。


「由美、話がある」


「お、ちょうどよかった。今日、恐竜大陸に行こうと思うんだけど、レムも行く?」


「行く。その前に、水槽を作ってくれ」


「……水槽?」


 なんで?


 東屋には立派な水槽がある。あれだけ大きければ、しばらくは十分だと思うんだけど。


「今回は陸地を三分の二、水域を三分の一にしてほしい」


「……それ、水槽?」


「そうだ。陸上生物の飼育に適した構造が必要になる」


 なるほど。私は恐竜を見に行くつもりだったんだけど、この人はもう持ち帰ることまで考えているらしい。


「でもさ、レムの小さくする装置って時間制限があるよね? 恐竜なんて大きいの、どうやって持って帰るの?」


「問題ない。捕獲機を作った」


「……捕獲機?」


 レムが取り出したのは、細かな格子の隙間を光が走る、金属製の小さな箱だった。


 ……虫籠じゃん。


 妙に高性能な虫籠である。


「内部に収容した生物は縮小状態を維持できる。時間制限はない」


「へぇ、すごいじゃん。いつ作ったの?」


「先日だ。教授と検証も済ませている」


 仕事が早いなぁ。というか、恐竜大陸に行く前から準備してたんじゃないの?


「ちなみに、何匹くらい捕まえるつもり?」


「現地の生息状況による。可能であれば雌雄で確保したい」


「……番で?」


「繁殖行動を観察するには必要だ」


 なるほどねぇ。まあ、いつものことか。


 新しい水槽の場所も決めなきゃいけないので、みんなで東屋へ向かうことにした。


◇


 東屋では教授が既存の水槽を眺め、何やら記録を取っていた。最近はレムと二人でここにいることが多い。私には普通の魚に見えるものでも、研究対象になるらしい。


 レムが恐竜大陸への出発と飼育施設の話をすると、教授は途端に嬉しそうな顔になった。


「おお、ついに行くのか! レム、やはり雌雄一対での確保を基本とするべきだろう」


「同意する。ただし群れで生活する種は、複数個体が必要になる」


「幼体も観察したいところだな。成長過程も貴重な記録になる」


 教授は手元の端末に書き込みながら、レムと飼育区画について相談し始めた。


 まだ一匹も見てないのに。


「……ねえ、水槽一個で足りる?」


「現時点では不明だ」


「必要な環境も種によって違うだろう。いずれ増設することになるかもしれんな」


 あ、やっぱり増えるんだ。まあ、いいか。どうせすぐ作れるし。


 今ある水槽は東屋の片側にあるので、新しいものはその向かいに作ろう。間の東屋も広げれば、どちらも座ったまま眺められる。


「真ん中にテーブルとソファを置いて、作業できる場所も作ろうか」


「えっ、いいんですか?」


 星空ちゃんが嬉しそうに顔を上げた。


「星空ちゃんもここで絵を描けるでしょ」


「ありがとうございます! あ、それなら画材を置ける棚があると嬉しいです」


「いいね。作っちゃおう」


 レムと教授からは作業台の注文も入った。広い方がくつろげるし、まとめて作ってしまおう。


 まず、既存の水槽と向かい合う位置に土台を作り、高さを揃えて少し横幅を広めに取る。透明な壁で囲った内部は、三分の二を陸地、残りを水域にして、丘や岩場を配置した。


 森もあった方がいいのかな。ただ、レムの装置は生き物を縮小できても植物には使えないので、小さな植物を植える必要がある。


「レム、植物は現地で見てから決めた方がいいよね?」


「そうだな。生息環境が判明してから調整する方が合理的だ」


 植える場所だけ確保し、水域にはとりあえず海水を張って、塩分濃度や水温をあとから調整できるようにした。透明な天井と空調も設ければ、ひとまず器は完成だ。


「縮小状態を維持する機構はこちらで設置する。環境制御も教授と調整しよう」


「よろしくー」


 細かいところは専門家に任せるに限る。


 続いて東屋を広げ、二つの水槽の間に大きなテーブルとソファ、椅子を配置した。水槽のそばには観察用の席を設け、端には作業台と収納棚。星空ちゃんの画材用の棚も忘れずに。


 ソファは少し大きめにしておこう。ここでお昼寝するのも気持ちよさそうだし。


 完成した東屋に立つと、片側には色とりどりの魚が泳ぎ、向かいには小さな丘や岩場が広がっていた。その真ん中でお茶を飲みながら、両方を眺められる。


 うん。これはいい。


「なんだか、水族館みたいですね」


「そのうち動物園にもなるんじゃない?」


「恐竜も入るんですよね?」


「レムたちの頑張り次第かなぁ」


 左右にもまだ場所がある。そのうち水槽が増えて四方を囲む形になったら、ここから動かずにいろんな生き物を眺められそう。


 最高じゃない?


 隣ではレムと教授が新しい水槽を前に、真剣な顔で話し合っている。この二人、研究のことになると本当に楽しそうだ。


◇


「由美、そろそろ恐竜を見に行かないか?」


 ひととおり作業が終わったところで、ロキが待ちきれない様子で声をかけてきた。


「あ、そうだった。旅行に行くんだったね」


「……忘れていたな?」


「いやいや、忘れてないよ。ちょっと水槽作ってただけ」


 ロキはなんとも言えない顔をしながらも、気を取り直して出発を促してくる。


 そうだね。じゃあ行こうか。


 ……と思ったところで、ふと気づいた。


「あれ? 向こうに着いてから、どうやって移動する?」


 恐竜大陸の地形はよくわからない。道があるとも思えないし、徒歩じゃ面倒だ。星空ちゃんも安全に見て回れる乗り物が欲しいところだけど……。


「空飛ぶキャンピングカーにしよう!」


「キャンピングカー、ですか?」


「そう。ご飯も食べられるし、寝られるし、トイレもある車。空を飛べたら便利でしょ?」


 星空ちゃんはすぐに納得したものの、ロキは首を傾げている。家みたいな車だと説明すると、途端に目を輝かせた。


「……家が空を飛ぶのか?」


「そんな感じ。屋根の上を展望台にすれば、恐竜もよく見えるしね」


「それはいいな」


 星空ちゃんも、上から景色を描けると喜んでいる。展望台は結界で守ればいいし、飛行も《万能魔法》に任せればいい。


 あとは材料か。万能収納にも色々入っているけど、それだけ大きなものならかなり必要になる。


「材料は……向こうで調達すればいいか」


 森があれば木材を使えるし、岩や鉱物も見つかるだろう。足りないものは収納から出して、《万能生産》で形にすればいい。


「じゃあ、車は現地に着いてから作るね」


「由美、採集した個体を収容する場所も確保してほしい」


「虫籠があるじゃん」


「捕獲機だ。輸送中の安定性を考慮する必要がある」


「はいはい。荷物置き場も作るよ」


 教授まで車内の設備を考え始めたので、その辺は現地で相談することにした。とりあえず、私が快適に過ごせることが最優先だからね。


 さて、今度こそ出発だ。


 そう思って空を見上げると、太陽がずいぶん傾いていた。


「……もう夕方じゃん」


 さっきまで今日中に出かけるつもりだったのに、すっかり時間が経っていたらしい。今から行けないこともないけど、せっかくなら朝からゆっくり楽しみたい。


「……明日にしよっか」


「由美!!」


 ロキが叫んだ。ごめんごめん。でも今日はちゃんと準備もできたし、明日なら朝から楽しめるじゃない。


「明日は絶対行くから。ね?」


「……本当だな?」


「本当本当。朝ご飯食べたらすぐ行こう」


 ようやく納得したロキは爺と一緒に明日の荷物を確認し、星空ちゃんも画材を揃えにゲストハウスへ戻っていった。レムと教授は虫籠の最終点検をするそうだ。


 私はいつものように食べ物と飲み物を収納しておけば十分だし、あとは明日の朝を待つだけ。


 新しいソファに腰を下ろすと、向こうから二人の声が聞こえてきた。


「教授、大型種を複数確保した場合、現在の飼育施設では不足する可能性がある」


「うむ。その場合は増設するしかあるまい。幸い、周囲にはまだ空きがある」


「そうだな。由美がいる」


 ……聞こえてるよ?


 まだ一匹も捕まえてないのに、もう増築の相談してるんだけど。


 まあ、いいか。


 明日こそ、のんびり恐竜観光を楽しもう。


 ……できるよね?

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