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46歳、異世界では絶対に働きません。  作者: Tomsug


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第57話 ここに住む?

翌朝、ミラに船を確認したいと言われたので、一緒に雪国へ行くことになった。


 教授とレムは朝から東屋にいる。昨日からずっと水槽を見ている気がするけれど、本人たちが楽しそうなので放っておくことにした。


 雪国へ転移すると、白い平原の真ん中には昨日引き上げた宇宙船がそのまま横たわっていた。


 その前に、巨大な雪だるまがこちらを見つけて大きく手を振る。


 雪の中を歩いていた猫も寄ってきて足元へすりつき、少し離れたところでは狼がこちらへ駆けてきた。さらに巨大なドラゴンまで近づいてきて、大きな頭を私の前へ下げる。


「ただいまー」


 適当に声をかけながらドラゴンの頭を撫でていると、隣にいたミラが動きを止めていた。


「……あれは何だ」


「雪像」


「動いているが」


「うん。なんか動くようになった」


 ミラはしばらく雪だるまと猫と狼、それから頭を下げたままのドラゴンを見ていたものの、


「そうか」


 それだけ言って宇宙船へ向かった。


 そこは気にならないんだ。


 ミラは着くなり船の外周を確認し、そのまま中へ入っていく。私も最初だけついていったものの、何を見ているのかさっぱり分からないので、途中から邪魔にならない場所で待つことにした。


 それからしばらくして戻ってきたミラの手には、見たことのない部品がいくつか載っていた。


「それ壊れてるの?」


「ああ。交換が必要だ」


「直せるかも。貸して」


 ひとつ受け取って《万能解析》を使ってみる。


 構造は分かった。何でできているのかも分かる。


 でも。


「……あ、無理だ」


「何がだ」


「これ、材料がない」


 今まで《万能生産》で困ったことなんてほとんどなかったけれど、存在しない素材まではどうにもならない。


「この惑星にはない素材が使われている」


「そりゃ作れないわ」


 形だけ同じものを作ったところで、必要な性能がなければ意味がない。


 部品を返すと、ミラは特に驚いた様子もなく受け取り、そのまま船へ戻っていった。


 今度は何をするのか気になったのでついていくと、壊れている区画から使えそうな部品を外し、別の場所へ付け替え始める。


「直せるの?」


「直しているわけではない。生きている部品を移しているだけだ」


「なるほど」


「まず船全体の状態を確認できなければ、修理できるかどうかも判断できない」


 しばらくすると、それまで反応のなかった装置の一部に光が戻った。


 何をしているのかは分からないけれど、ミラが整備主任なのはよく分かった。


「これで調べられる?」


「一部はな。ただ、船体、航行系、動力系、制御系、それぞれ確認する必要がある。損傷箇所もまだ全体を把握できていない」


「どのくらいかかるの?」


「一日では無理だ。数日は必要になる」


 毎日ここへ連れてくるのは面倒だな。


「じゃあ、ここに住む?」


 ミラがこちらを見る。


「ここに?」


「船の近くに拠点作っとけば、好きなだけ調べられるでしょ」


 宇宙船と周囲の雪原を見比べたあと、ミラはすぐに頷いた。


「それがいい。ここに拠点が欲しい」


「じゃあ作るね」


 宇宙船から少し離れた場所に、一人で暮らすには十分な小さな家を作った。寝室と居間、トイレ、シャワー、小さなキッチンがあれば困らないだろう。


 時間停止のパントリーも付けて、食料や飲み物を入れておく。そのまま食べられるものや、温めるだけで済む料理も多めに用意した。


「足りなくなったら言って」


 中を確認していたミラがこちらを見る。


「ここまで必要なのか?」


「お腹空くでしょ」


「そうだが」


「じゃあ必要」


 食べるものがなくなるたびに南の島へ戻ってこられても困る。


 ついでに携帯も一つ作った。


「これも持ってて」


「通信端末か」


「連絡できるのと、南の島とここの温泉を行き来できるようにしてある」


 ミラの視線が携帯へ落ちる。


「転移装置なのか?」


「そんな感じ。行きたい方を選べばいいよ。使えるのはミラだけ」


「この小ささで?」


「うん」


 何か言いたそうだったけれど、詳しく聞かれても私も説明できないので、そのまま渡した。


 これで毎回送り迎えする必要もない。


「あ、あとこれ」


 水着も作って渡しておくと、ミラが広げて眺めた。


「これは?」


「水着。温泉入るならそれ着てね。服のまま入らないでよ」


「入浴用の衣類か」


「そうそう」


「理解した」


 あっさり受け入れたので、そのまま温泉の場所も案内しておくことにした。


 露天風呂まで来ると、今日もリアが腹を上にしてぷかーっと浮いている。


 ミラが足を止めた。


「……あれも雪像か」


「違う。リア」


「生物か」


「うん。私がテイムしてる」


「そうか」


 それで終わった。


 そっちはそれでいいんだ。


 温泉の場所も分かったようなので、ミラを残して南の島へ戻ることにした。振り返った時には、もう温泉ではなく宇宙船の方を見ている。


「じゃあ私、帰るね」


「ああ」


 本当に船しか見てないな。


◇


 南の島へ戻ると、教授とレムはやっぱり東屋にいた。


 昨日とほとんど同じ場所で水槽を覗き込んでいる。


「まだ見てたの?」


「この個体群は観察する価値がある」


「追加記録も必要だ」


 二人ともこちらを見ない。


 まあいい。


「はい、これ」


 携帯を二つ作り、それぞれに渡した。


 レムは受け取った途端、表面を確認する。


「通信端末か」


「連絡できるのと、南の島と雪国の温泉を行き来できる。本人以外は使えないようにしてあるから」


「転移機能まで統合しているのか」


「その方が楽だし」


「合理的だ」


 珍しく意見が合った。


 教授にも同じものを渡すと、一度だけ携帯へ視線を落としたものの、すぐ水槽へ戻る。


「行き先は二か所だけか?」


「南の島と雪国の温泉」


「分かった」


「使い方は、行きたい方を選ぶだけ」


「この個体の採取地点は?」


「携帯の説明聞いてた?」


「聞いていた」


 本当かな。


「あと、これも」


 二人分の水着も渡す。


「雪国の温泉に入るなら着てね」


 レムは素直に受け取ったものの、教授は水着より水槽を見ていた。


「……行かなさそうだけど」


「必要になれば使う」


「うん。まあ、それでいいや」


 レムが横から水槽の一角を指し示すと、教授の目がまた輝き始めた。


 もう好きにしてもらおう。


 これで三人とも、いちいち私を呼ばなくても南の島と雪国を行き来できる。


 よし。


 送迎係にならずに済んだ。


 そう思ったところで、持っていた携帯が鳴った。


 表示されているのはギルだった。


「もしもし?」


『由美。今、話せるか』


「話せるけど、なに?」


 一瞬、間があった。


『聖女が召喚された』


「へぇ。で?」


『……ニホンてところから来たみたいだ』


「え?」

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