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46歳、異世界では絶対に働きません。  作者: Tomsug


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第53話 いらない。

 王宮から南の島へ戻ると、結界の向こうに見覚えのある人影が浮いていた。


「……また?」


 箒にまたがったまま、いい魔女が結界に引っかかっている。


 しかも一人ではなかった。


 結界の内側にはレムが立っていて、何やら真剣な顔で魔女を見上げている。


「……何してるの」


「あら、おかえりなさい。待っていたのよ」


 魔女はにこやかに手を振った。


 レムはこちらを見ると、いつもの淡々とした調子で言う。


「この個体は自身を『いい魔女』と定義している」


「個体って言わないでちょうだい」


「魔女とは分類名か?」


「違うわ。私はいい魔女よ」


「善悪評価を自己申告する種族なのか?」


「違うわよ!」


 帰ってきて早々、何を見せられているんだろう。


「レム、たぶん触らない方がいいよ」


「なぜだ」


「面倒だから」


「ちょっと」


 魔女が不満そうな顔をした。


 仕方がないので結界を一部開けると、魔女はようやく島へ降りてきた。


「それで、何しに来たの?」


「お礼よ」


「帰っていいよ」


「まだ何もしてないわよ!」


 前にこの人からお礼としてもらったのは、一週間の早起きだった。


 あれ以来、魔女の言う祝福を素直に喜ぶ気にはなれない。


「今日はちゃんと考えてきたのよ」


「いらない」


「まだ内容を言ってないでしょう!」


「祝福でしょ?」


「そうよ」


「じゃあいらない」


 魔女が少し傷ついた顔をした。


「前のは善意だったのよ」


「一週間早起きした」


「健康的だったでしょう?」


「朝寝たい」


 横でレムが小さく首を傾げた。


「睡眠周期への強制干渉か」


「そういう言い方やめて!」


 魔女がレムに向かって怒る。


 でも間違ってはいない気がする。


「今回はあなたが喜ぶものにするわ」


 魔女は気を取り直したように胸を張った。


「あなた、働きたくないのでしょう?」


「うん」


「なら、一週間まったく疲れなくなる祝福はどう?」


「疲れるほど動かないし」


 魔女が止まった。


「……では、眠らなくても平気になる祝福」


「寝たい」


「一日中、元気に活動できる祝福」


「活動したくない」


「集中力が上がる祝福」


「何に使うの?」


 魔女の顔からだんだん自信が消えていく。


「家事が楽しくなる祝福は?」


「家事してない」


「……掃除は?」


「自動」


「洗濯」


「自動」


「料理」


「したい時だけ」


 魔女が黙った。


 私は別に意地悪をしているわけではない。


 本当にいらないだけだ。


「……あなた、何があれば幸せなの?」


「今のままでいい」


 魔女は完全に言葉を失った。


 しばらく考え込んでいたものの、やがて箒を握り直す。


「分かったわ」


「帰る?」


「次こそ、あなたが喜ぶ祝福を考えてくる」


「もう来なくていいよ」


「私はいい魔女よ!」


「聞いて」


 魔女が結界の外へ飛び出そうとしたところで、ふとレムの方を見た。


「……あなた、さっきから何を書いてるの?」


「記録だ」


「やめなさい!」


 魔女の声が、南の島に響いた。

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