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46歳、異世界では絶対に働きません。  作者: Tomsug


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第42話 蛇だけど。

 南のヴィラで昼ごはんをどうしようか考えていたところで、ふと森の家にいた大蛇を思い出した。


 そういえば、あれが食べられるかギルに聞いたのに、結局答えてもらっていない。


「自分で調べればよかった」


 食べられないならそれまでだし、食べられるなら今日のごはんになる。


 森の家へ転移すると、昨日きれいにした庭はまだその状態を保っていたものの、その向こうは相変わらず緑がぎっしり詰まっていて、グランヴェルムも少し離れたところで寝ている。


 大蛇はというと、昨日と同じ木に巻きついていた。


「いたいた」


 さっそく《万能解析》を使ってみると、毒はなく食用可。肉は淡白で癖が少なく、鶏肉に近いらしい。


「ほら、食べられるじゃん」


 ここにいないギルへ言ってから、《万能魔法》でさっさと仕留め、《無限収納》へ入れた。


 これだけあれば、しばらく肉には困らない。


 そのまま帰ろうとしたところで、近くにあるラフィナビーの巣も思い出した。


「あ、蜂蜜」


 せっかく醤油も手に入ったのだから、少し欲しい。


 巣を駄目にしないよう《万能解析》で余裕のある量を確認し、余剰分だけ分けてもらう。前にもらった時よりかなり増えているので、これなら少しくらい持っていっても問題なさそうだった。


「ありがとねー」


 返事はない。


 まあいい。


 ヴィラへ戻ると、大蛇を《万能生産》で食べやすい大きさに処理した。白っぽい肉は見た目も鶏肉に近かったので、まずは醤油、生姜、にんにくで下味をつけ、片栗粉をまぶして油へ落としていく。


 揚げたてを一つつまんだ。


「あ、美味しい」


 癖はほとんどなく、少し弾力はあるものの、普通に唐揚げとして成立している。


 もう一つ食べながら残った肉を見る。


 これなら、もっと衣を厚くしてスパイスを効かせても絶対美味しい。


「ケンタッキーっぽくできそう」


 そう思ったら、やってみたくなった。


 港でカレーのために買い込んだスパイスを引っ張り出し、《万能生産》にそれっぽく調整させる。出来上がったものは唐揚げより衣がざくざくしていて、見た目からしてかなりそれっぽい。


 一口食べる。


「うん、これだ」


 骨付きではないけれど、味は十分フライドチキンっぽい。


 蛇だけど。


 満足して次をつまもうとしたところで、さっき持ってきた蜂蜜が目に入った。


 醤油もある。


 蜂蜜もある。


 酒もある。


「照り焼きできるじゃん」


 甘辛いタレを絡めた蛇肉を作ってみると、当然ながらこれも美味しい。


 となると、パンに挟みたくなる。


 卵もある。


「……照り焼きチキンバーガーっぽくするか」


 蛇だけど。


 バンズを作り、照り焼きにした肉とレタスを挟み、さらに目玉焼きも乗せる。せっかくバーガーまで作ったのだから、じゃがいもを細く切って揚げ、塩を振った。


 出来上がったものをテーブルに並べて眺める。


 唐揚げ。


 フライドスネーク。


 照り焼きスネークバーガー。


 ポテト。


「飲み物」


 パントリーを覗く。


 お茶もある。果汁もある。水もある。


 違う。


「コーラ」


 《無限収納》も検索してみたが、当然ながら出てこない。


「…………」


 そうだった。地球から持ってきたコーラなんて、とっくに残っていない。


 バーガーとポテトまであるのに。


「ハンバーガーにはコーラでしょ」


 ここまで作って水はない。


 ないなら作ればいい。


 砂糖とレモン、生姜を出し、さっき使ったものも含めて港で買い込んだスパイスを並べる。香りを調整しながら《万能生産》でシロップを作ると、冷やした水に《万能魔法》で二酸化炭素を溶かして炭酸水にした。


 出来上がったシロップを炭酸水で割り、一口飲む。


「おお」


 思っていたよりちゃんとコーラだ。


 というより、瓶に入れて高く売っていそうなクラフトコーラになった。


「こっちの方が美味しいかも」


 せっかく炭酸水まで作ったので、生姜を多めに使ったシロップも用意し、ついでにジンジャーエールも作っておく。


 気づけば、蛇を唐揚げにするだけだったはずの昼ごはんが、完全にファストフード祭りになっていた。


 さすがに一人で食べる量ではない。


「ロキたち呼ぶか」


 隣の家へ声をかけると、しばらくしてロキと爺がやってきた。


「ちょっと試食してみて」


 テーブルいっぱいに並んだ料理を見て、ロキは何も聞かずにフライドスネークを一つ取った。爺も隣へ座り、照り焼きの方を口にする。


 ざくざくとした衣を噛んでいたロキが、もう一つ取った。


「うまい」


「ええ。こちらもよく味が染みております」


 よしよし。


 バーガーも二人の前へ置くと、ロキが中の肉を見た。


「何の肉だ」


「蛇」


 二人の動きが止まった。


「森の家のとこにいた、でっかいやつ」


 ロキが手元のバーガーを見る。


 爺は少し間を置いてから、静かにこちらへ顔を向けた。


「森の家の近くに、巨大な蛇がいたのでございますか」


「うん。庭のジャングルが結界の外まで広がってたみたいで、森の奥にいるやつがいろいろ来てるんだよね」


「……外にまで広がっておりましたか」


「ドラゴンもいたよ」


 今度は二人とも完全に止まった。


「ドラゴン?」


「グランヴェルムっていうらしい。でっかいやつ」


 爺の表情がわずかに変わる。


「深森竜《グランヴェルム》でございますか」


「そうそう。それ。寝てたからそのままにしてきた」


 ロキが無言で私を見る。


「何?」


「いや」


 何もしてこないものを、わざわざどうにかする必要もない。


 そこで、ふと気づいた。


「あれ?」


「なんだ」


「買い物行く時の転移先、森の家だよね?」


「そうだぞ」


 森の家の結界内までは安全だけれど、その先は昨日まで大蛇がいて、その辺には深森竜まで寝ている。


「……今そこから外出たら危ないじゃん」


 爺が少し考えてから口を開いた。


「幸い、まだ食料などの備えがございますので、こちらへ移ってから買い出しには出ておりませんが」


「あぶな」


 気づいてよかった。


「町の近く追加しとくね」


 ロキと爺の家から使える転移先に、最初の町の入口近くを追加しておく。これなら買い物のたびにジャングルを抜ける必要もない。


「ありがとうございます」


「今まで気づいてなかったのか」


「だって私、普通に転移できるし」


 自分では困らないので、完全に忘れていた。


 気を取り直して、クラフトコーラを二人の前へ置く。


 ロキがグラスを見る。


 黒に近い茶色の液体から、細かな泡が絶えず上がっている。


「……これ、飲むのか」


「飲むよ。コーラ」


 爺もグラスへ視線を落とした。


「こちらも、由美様がお作りになった飲み物でございますか」


「そう。飲んでみ? 美味しいから」


 明らかに怪しんでいたロキだったが、私が作るものなら大丈夫だと思ったのか、グラスを持ち上げてほんの少しだけ口をつけた。


「――っ」


 すぐにグラスを離す。


「なにこれ」


「炭酸」


 舌を刺激する感覚が初めてだったらしい。


 隣では爺も目をわずかに見開いていたものの、二人ともグラスを置かなかった。


 ロキがもう一度飲む。


「……甘い」


「でしょ」


 今度はさっきより普通に飲んでいる。


 爺も二口目を飲み、しばらく味わってから頷いた。


「なるほど。これは……癖になりますね」


 どうやら気に入ったらしい。


 ジンジャーエールも出してみると、今度は色が薄いせいかロキも素直に口をつけた。生姜の刺激と炭酸に少し眉を寄せたものの、結局こちらも飲んでいる。


 気づけば、ロキは二杯目のコーラを飲んでいた。


「飲みすぎないでね。甘いから、飲んだあとは歯磨かないと虫歯になるよ」


 その瞬間、爺がロキを見る。


「坊ちゃま」


「分かってる」


「昨夜も少々――」


「磨いた」


 あ、始まった。


「爺もね」


 今度は爺が止まった。


「……承知いたしました」


 爺もコーラを飲んでいた。


 ロキはバーガーを食べ終えると、今度は唐揚げへ手を伸ばした。


「これ、売れるな」


「やだよ。仕事になるじゃん」


 ロキは少しだけこちらを見る。


「食べたい時に作るから美味しいんだよ」


 爺が静かに頷き、ロキは特に何も言わず二個目の唐揚げを取った。


 食べ終わる頃には、二人ともコーラとジンジャーエールをすっかり気に入ったらしい。


 余った分を瓶に入れ、何本か二人へ渡す。


「これ、持って帰っていいよ」


 ロキが素直に受け取ると、隣から爺の声がした。


「坊ちゃま。くれぐれも飲みすぎませんように。歯磨きもお忘れなく」


「分かってる」


 たぶん、これからは爺が管理するんだろう。


 残りの飲み物と料理は《無限収納》へ入れておく。食べたくなった時に出せばいい。


 最後に残っていたポテトを一本つまんだ。


「やっぱジャンクフードって美味しい」


 働く気はないけど、食べるためならこれくらいはする。

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