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46歳、異世界では絶対に働きません。  作者: Tomsug


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間話 旅の土産話

 封鎖都市から戻って数日後、私は冒険者組合へ顔を出した。


 特に用事があったわけではない。


 この前売った不用品のことで何か連絡があるかもしれないし、ついでにギルの顔でも見ておこうと思っただけだ。


「あ、ギル」


 受付の奥にいたギルがこちらを見て、少し嫌そうな顔をした。


「……今度は何ですか」


「何もしてないよ」


「あなたがそう言う時が一番怖いんですよ」


 失礼な。


 私は近くの椅子へ座り、出してもらったお茶を飲んだ。


「そういえば、この前旅行行ってきた」


「へえ。どちらへ?」


 町の名前を言った。


 ギルの動きが止まった。


「……どこですって?」


 もう一度言う。


 今度は完全に固まった。


「そこ、数日前から一切連絡が取れなくなっている町なんですが」


「うん。封鎖されてた」


「なぜ知ってるんですか」


「行ったから」


「なぜ行ったんですか!」


「旅行」


 旅行だから行ったのである。


 ギルは両手で顔を覆ったあと、ゆっくり下ろした。


「……何があったんです」


「ゾンビ」


「はい?」


「町じゅうゾンビだらけだった」


「待ってください」


 待った。


 ギルはしばらく黙ってから、机の上の紙を引き寄せた。


「最初からお願いします」


「門の前で写真撮った」


「写真?」


「あ、そこからか」


「何なんですか、それは」


「見たものをそのまま残すやつ」


 ギルが眉を寄せた。


「……また何か妙な物を持ってるんですね」


「まあね」


「いや、そこからじゃない!」


 最初からと言ったのに。


「じゃあ町に入ったら静かで、変だなーと思ってたらゾンビがいた」


「ゾンビというのは?」


「人なんだけど、人じゃない感じの」


「分かりません」


「噛む」


「急に分かりやすくなりましたね」


 その後、帰ろうとしたら転移できなかったこと、生存者を見つけたこと、研究所が怪しかったことを順番に話した。


 ギルの顔色が、話が進むほど悪くなっていく。


「研究所の地下で、神に選ばれた肉体とかいうの作ろうとしてたみたい」


「……何ですか、それ」


「健康食品みたいな名前でしょ」


「違うと思います」


 みんな同じことを言う。


「で、再生する体はできたんだけど、頭とか精神まではちゃんと戻らなくて」


「……それで?」


「ゾンビ完成」


 ギルが額を押さえた。


「完成じゃないでしょう」


「私もそう思う」


 そこは意見が合った。


「それで、どうやって戻ってきたんですか」


「研究所の封鎖解除した」


「…………」


「あと中和剤作って、町に撒いた」


「…………」


「感染も止まったよ」


 ギルが無言で私を見た。


「何?」


「あなた今、一都市規模の災害を解決した話を、夕飯の献立みたいにしてません?」


「だって終わったし」


「終わったし、じゃないんですよ!」


 周囲にいた職員が何事かとこちらを見た。


 ギルは一度深呼吸してから、さらに聞いてきた。


「原因を作った者は?」


「いたよ。研究所の主任」


「捕らえたんですか?」


「結界で包んで置いてきた」


「荷物みたいに言わないでください」


「逃げたら困るじゃん」


「それはそうですけど!」


 ギルの声がだんだん大きくなっている。


 私はお茶を飲んだ。


 冷めてきた。


「それで、町の生存者は?」


「研究員たちと残った人が何人か。封鎖は解除したから、そのうち外から人も来るんじゃない?」


「来ますよ! むしろもう動いてます!」


「よかったね」


「他人事!」


 三日も閉じ込められたのだから、私だって十分被害者である。


 ギルはしばらく頭を抱えていたが、やがて疲れ切った顔で私を見た。


「……あなた、旅行へ行くだけでどうして一都市救って帰ってくるんですか」


「知らんよ。私も普通に観光したかったよ」


 本当にそれだけだった。


 綺麗な門を見て、買い物して、美味しいものでも食べる予定だったのだ。


 そこで、近くで話を聞いていた職員がひょいと顔を出した。


「で、お土産は?」


「ないよ」


「え、三日もいたのに?」


「店全部閉まってたから」


「そりゃまあ……ゾンビだらけなら」


 職員は妙に納得したあと、さっきの話を思い出したらしい。


「そういえば、最初に言ってた写真って何なんです?」


「ああ。見る?」


 収納からスマホを取り出す。


 ギルは一瞬それを見たものの、この前いろいろと意味の分からない物を見せたせいか、もう物そのものには突っ込まなかった。


 写真を開いて画面を向ける。


「ほら。これ」


 綺麗な門を背景に、私は普通に笑っている。


 職員が画面へ顔を近づけた。


「……これ、その時の景色なんですか?」


「そう」


「この小さい板の中に?」


「そう」


「これが写真?」


「そうそう」


 ギルまで横から覗き込んだ。


「……相変わらず、何を持ってるんですかあなたは」


「便利でしょ」


 指で画面を広げると、今度は職員が少しのけぞった。


「動いた」


「そこはいいから。で、ここ」


「そこも気になりますけど!?」


 門の影。


 遠くに、小さな人影が立っている。


 首が妙な方向へ傾いていた。


「いたんだよー。全然気づかなかったわ」


 職員の顔から興味津々だった表情が消えた。


「……これ、さっき言ってたゾンビですか?」


「たぶん」


「これを残した時点でもういたんですか?」


「みたい」


 ギルがゆっくり顔を上げた。


「あなた、それに気づかず中に入ったんですか」


「その時は気づいてなかったって」


「気づかなくてよかったのか悪かったのか分かりませんね……」


 職員がスマホから少し距離を取った。


「なんか急に、この写真嫌になってきました」


「いい写真なのに」


「後ろに変なのいるんですよ!」


 私はスマホを収納へ戻した。


 今回の旅行で使った金額はゼロ。


 買った土産もゼロ。


 ギルが疲れ切った顔で尋ねる。


「じゃあ、何を持ち帰ってきたんです」


 私は少し考えた。


「ゾンビの思い出?」


「いりませんよ、そんな土産話!」


 だから話したのに。


 私は残ったお茶を飲み干した。

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