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46歳、異世界では絶対に働きません。  作者: Tomsug


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11話 消耗品の管理もしたくない

 トイレットペーパーの芯が、妙に近い。


 用を足したあと何気なく紙を引き出していて、手が止まった。残っている厚みは心許なく、棚に置いてある予備も、最初に持ってきた頃に比べれば明らかに少ない。


「……これ、なくなるじゃん」


 当たり前のことに気づいてしまった。


 この世界へ来てから、もう二週間以上になる。食料は町で買えるようになり、水も電気も家が勝手になんとかしてくれるので、暮らすことそのものにはほとんど困らなくなっていた。


 服だって全自動衣類錬成庫に放り込めば、洗濯どころか多少の傷みまで勝手に直る。


 だから忘れていた。


 世の中には、使えばただ減っていく物が山ほどある。


 洗面所へ行けば、歯磨き粉だけではなく化粧水や洗顔料も減っている。風呂場のシャンプーやボディソープ、キッチンのラップやペーパー類まで考え始めると、きりがない。


「……結構あるな」


 今すぐ全部なくなるわけではないものの、なくなるたびに一つずつ対応する方が面倒なので、どうせならまとめて終わらせたい。


 そんなことを考えながらリビングへ戻ると、床で寝転がっていたロキが顔だけを上げた。


「何してたの?」


「なくなる物を探してた」


「なくなる物?」


「いっぱいあった」


 答えながらソファへ腰を下ろしたところで、下腹部に覚えのある重さを感じた。


 数秒黙ったあと、ゆっくり立ち上がる。


「……最優先あったわ」


 嫌な予感は当たっていた。


 生理である。


 幸い、日本から持ってきたナプキンもタンポンもまだ残っているので今日困ることはないものの、これだけは「なくなったらその時考えよう」で済ませる気になれない。


 異世界へ来たからといって、生理までなくなってくれるほど都合よくはなかったらしい。


 トイレから戻ると、さっきまでより少しだけ真面目な気分でテーブルについた。


「よし。全部作ろう」


 そう決めて《万能生産》を使おうとして、止まった。


「……材料いるじゃん」


 家を作った時も家具を作った時も、何もないところから突然物が生えてきたわけではない。木なら木、石なら石と、周囲にある物を材料として使っていた。


 トイレットペーパーくらいなら森の木で何とかなりそうだが、シャンプーや日焼け止め、生理用品となると何を使えばいいのか分からない。


「……いつもの感じのやつ、作れる?」


 半ば丸投げするように《万能生産》へ求めると、周辺から利用できる素材が選び出された。


 木材や植物繊維、水、植物から採れる油分や成分、土や岩に含まれる鉱物。


 何がどこへ使われるのかはさっぱり分からないものの、必要な加工まで含めて生産できるらしい。


「それなら任せる」


 分からないものは、分かる方にやってもらえばいい。


 紙類から洗面用品、風呂で使う物まで、必要な生活用品をまとめて作らせる。日焼け止めは肌に合ってきちんと紫外線を防げる物、生理用品は使い慣れた物にできるだけ近い形と使用感を指定した。


 しばらくすると、テーブルの上は見慣れた日用品で埋まっていた。


「できるじゃん」


 これなら困らない。


 そう思った直後、別の問題に気づいた。


「……待って。これ、なくなるたびにまたやるの?」


 それでは意味がない。


 一度作った物を登録し、残量が一定以下になったら自動で補充するように設定する。液体類は容器の中身だけを補い、歯ブラシのように傷む物は交換が必要になった時点で新しい物へ替える。


 紙類も生理用品も同じようにして、必要になった分だけ周辺から素材を集め、《万能生産》で加工するようにした。


 これで残量を確認する必要もなければ、買い足す必要もない。


「よし」


 満足してソファへ沈み込むと、ロキがテーブルに並んだ物を眺めながら首を傾げた。


「ねえ、由美」


「ん?」


「なんでそんなに魔力あるの?」


「……え?」


 言われてみれば、そうだった。


 家を作り、家事を自動化し、転移まで使った。海では巨大な魔物を吹き飛ばし、今日はこれだけの物をまとめて作っている。


 それなのに、魔力が減ったとか、疲れたとか、一度も感じた覚えがない。


「確かに……」


 今さらすぎる。


 試しに自分へ《鑑定》を使ってみる。


 表示された結果を追っていると、見慣れない項目があった。


 《魔力供給:周辺環境より自動取得》


 《使用源:自然界に存在するマナ》


 《自己保有魔力:原則未使用》


「……自然界のマナ使ってるって」


 読み上げると、ロキが目を瞬いた。


「え?」


「周りにあるマナを勝手に使ってるみたい。自分の魔力は、ほとんど使ってないって」


「……そんなことできるの?」


「知らない」


 珍しく本気で驚いている。


「普通じゃないの?」


「普通じゃないよ」


 即答された。


 どうやら自分の魔力が多いのではなく、そもそも自分の魔力をほとんど使っていなかったらしい。


 周囲にある物を材料にして、周囲にあるマナで魔法を動かす。


 それなら、いくら使っても疲れないのも納得できる。


「じゃあ、別に気にしなくていいか」


「気にしてよ」


 珍しくロキに突っ込まれたものの、今のところ困っていないので、とりあえず保留にした。


 必要な生活用品は勝手に補充される。


 魔力まで自前ではない。


「ますます何もしなくていいじゃん」


 それが一番いい。


 しばらく満足していたものの、窓の外を眺めているうちに、ふと思った。


 紙を作るために木を使い、ほかの生活用品にも植物をそれなりに使ったらしい。


「……使いっぱなしもあれか」


 森なのだから少しくらい減ったところで困るとは思えないが、ちょうど使い道に困っている物がある。


 トイレへ向かい、処理された排泄物が固められたペレットを確認すると、二週間以上暮らしているだけあって、それなりの量になっていた。


 以前確認したところ、肥料として使えるらしい。


「ちょうどいいじゃん」


 畑を作る気はない。


 野菜を育てれば、水やりだの収穫だのと仕事が増える。


 けれど家の周りには草も木も生えているので、そこへ撒いておけば少しくらい森へ返したことになるだろう。


 容器を持って歩き回るのも面倒なので、《万能魔法》でペレットをまとめて浮かせた。


「この辺に適当に撒いといて」


 ぱらぱらと茶色い粒が飛んでいき、家の周囲に生える草や木の根元へ広がっていく。


 処分もできて、植物にも返せる。


「無駄がなくていいね」


 それで満足して家へ戻った。

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