【05】 人口が増えたのは、マンションが建ったから
【05】 人口が増えたのは、マンションが建ったから
翌朝、戸部たちが居る職場。
稔江「人口がもうすぐ10万人なんですって」
その声は、課長にも聞こえるような大きさだった。
戸部(課長にも聞こえたはず。でもピクリともせずパソコンを見ている)
丹沢(課長にも聞こえたはず。本来ならみんなに何か言うか、自慢しそうなのに。変だ)
若石「そうなんだ。すごいですね」
稔江「ちょっと、びっくりしたわ」
若石「いきなりでしたね」
稔江「そう」
春菜「これで税収が増えて、私たちの給料も増えるといいんだけれど」
若石「それは無いですね。給料は、給料表で決められているから」
春菜「じゃぁ仕事が増えるだけね」
若石「そう言うことです」
稔江「がっかりだわ」
戸部(課長は、聞こえぬふりか?)
◇
数日後。住民課。
電話が鳴った。
稔江「はい、住民課、天満です」
県庁「こちら県庁の、統計担当です。いつもお世話になっています」
稔江「こちらこそお世話になっております」
県庁「先日送信してもらった、エクセルでの人口移動表の件なのですが」
稔江「人口移動表の件ですね?」
近くに座っていた古岡が、慌てたように
古岡「私だ、私が送った件だ。その電話、こっちに回して」
稔江「わかりました。お回しします」
古岡「電話代わりました。統計担当の古岡です」
県庁「いつもお世話になっています。先日送信していただいた人口移動表の件なのですが」
古岡「はい、なにかありました?」
県庁「貴市の人口が急に増えていましたので、入力間違いかどうか、確認の電話です」
古岡「間違いではないです。先月は大きなマンションがふたつほど建ちまして、その関係で増えています」
近くで、丹沢、早苗、戸部がその言葉に耳が反応した。
丹沢(大きなマンションが建った?)耳を疑った。
早苗(しかもふたつも?)
戸部(だいたいマンションの入居というのは、子供の学校の関係などで、3月の春休み、8月の夏休み、12月の冬休みがほとんどなのだ。それが6月、大規模マンション二棟に入居なんてありえない)
3人とも違和感を覚えたが、いっさい顔には出さなかった。
古岡が、何か焦っているように、手のひらで額の汗をぬぐっていた。
県庁「なら良いのですが、念のためと思いまして、電話いたしました」
古岡「それは、どうも」
県庁「それでは、失礼いたします」
古岡「失礼いたします」
電話は切れた。
戸部、早苗、丹沢は、疑惑をおくびにも出さず素知らぬふりをした。




