【03】 古岡さんが残業するなんて珍しい?
翌日、午後5時50分。住民課。
春菜「お先に失礼します」
稔江「お先に」
勤務時間は午後5時15分までだが、窓口の客が途切れず、この時間になることはよくあった。
古岡が、帰る様子もなく、仕事を続けていた。
丹沢「古岡さん、今日は残業ですか?」
古岡「うん、ちょっときりが悪くて、残っていくから、みんなは先に帰ってください」
丹沢「超過勤務伝票は、出したのですか?」
古岡「そこまで遅くならないし、どうせ超過勤務伝票を出したところで、課長のハンコはもらえないから」
丹沢「確かに」
戸部「すみません、お先に」
丹沢「では、失礼します」
古岡「ああ、お疲れ様」
戸部と丹沢が一緒にロッカーへと向かった。
丹沢「古岡さんが残るなんて珍しいですね」
戸部「うん。昔からよく言われている言葉に『休まず、遅れず、働かず』というのがあるが、あの人の場合『休んで、遅れて、働かず』だからなぁ」
丹沢「なにか、あったんですかねぇ?」
戸部「わからない」
古岡は、職員が全員帰るのを待っていた。そして、住民課の職員全員が帰ると、統計資料に記載された過去の人口数を改ざんし始めた。
古岡「いくら10万人にしろ、と言われても、そんなに一気に増やしたら怪しまれるからなぁ」
古岡は、自分の職員番号でパソコンからアクセスし、過去一年間の人口データを少しずつ増やし始めた。
古岡「まず、過去の人数データを増やしておかないと」
古岡は、『男女別』『年齢別』『町丁名別』などすべてのデータを改ざんした。次に、課内をぐるっと見回した。
古岡「あの『人口ファイル』の中身を変えないと」
古岡は、人口データをプリントアウトし、課内にある『人口ファイル』に入っている紙データをすり替えた。
古岡「あとは、と……」
古岡がロビーを見つめた。市役所ロビーにある人口表示板は、先月末の人口を翌月一日に公表している。表示板の数字が『95,086人』となっていた。それを古岡は『98,973人』に直した。
古岡「これで、すべて直したぞ。完璧だ」
古岡は満足した。後片付けをして、住民課を後にした。しばらくの間、このことは誰にも気づかれなかった。




