【02】 懲戒処分
それから二日後、住民課。
朝、職員たちがパソコンで、掲示板を見ていた。
春菜「掲示板に懲戒処分が出ているわよ」
戸部「どれどれ」
『丹沢主事、減給10分の3、3か月。宇野係長、減給10分の3、1か月』
稔江「あっ、丹沢さんだ」
早苗「宇野係長も」
若石「課長はないんですね」
戸部「おかしいな。管理職だから、当然懲戒処分の対象なはずだぞ」
早苗「変ね」
春菜「係長の宇野さんは、あるのにね」
課長が係長宇野正文(うの・まさふみ・40歳)を呼びつけると、二人は、相談室へと向かった。
相談室に入ると、
課長「掲示板を見たかね?」
係長「はい」
課長「私はね、君を高く評価していて、つい先日まで君を課長補佐に推薦しようと思っていたんだよ」
係長「ありがとうございます」
課長「ところが、今日、君のことが掲示板に載ってしまっただろう、だから、推薦が非常に難しくなってしまった」
係長「はい、」
課長「だいたい君は、何も悪いことはしてないんだよ。すべては丹沢が悪いんだ。そう思わないかい?」
係長「確かに」
課長「私としては、君がここでつまずいて、このまま何年も、係長でいることが残念でならないんだ」
係長「ありがとうございます」
課長「そこでなんだが、私は市長に、今回のこの事件について、君には責任がまったくないこと。そして、君が、課長補佐に推薦するに値すること。このふたつを先日市長に呼ばれたときに頼んできたんだよ」
課長のまったくの嘘だった。
係長「ありがとうございます」
課長「ついては、君にひとつ頼みたいことがあるんだが」
係長「なんでしょうか?」
課長は、係長の宇野に、市長から自分が言われたのと同じように、二か月で人口を10万人にするよう頼んだ。
係長「わかりました。やってみます」
課長「そうか、やってくれるか。君に頼んで良かったよ。二か月後の結果次第で、君の昇進も現実のものとなるだろう」
その日の帰り、係長宇野が主任職員の古岡人志(ふるおか・ひとし・49歳)を誘い、飲みに行った。
居酒屋で。
宇野は、古岡の好きな有名地酒を注文した。
宇野「君は、もうとっくに係長になっても良い年齢だよな」
古岡「ええ、まぁ。でも、」
古岡は、毎年20日間の有給休暇を消化し、残業は一切しなかった。その勤務スタイルが、所属長の人事評価を下げていた。
宇野「お子さんの学費もかかるんだろう?」
古岡主任の娘は薬学を学んでいた。
古岡「ええ、まぁ、」
宇野「それに、奥さんもご近所の手前、いつまでも平職員という訳にもいかんだろう?」
古岡「ええ、まぁ、」
宇野「まぁ、飲んで、飲んで」
宇野が古岡のグラスに有名地酒を注いだ。
宇野「私は君を係長にするよう課長に言おうと思っているんだが」
古岡「本当ですか?」
宇野「二カ月間だけで良いのだが、人口を2千5百人ずつ増やしてくれないかなぁ」
古岡「月に2千5百人もですか? それは、無理でしょう」
宇野「まぁ、飲んで、飲んで」
また、宇野が古岡のグラスに有名地酒を注いだ。
宇野「今人口は、何人ずつ増えているんだっけ?」
古岡「年に約5百人ずつです」
宇野「10万人になるのは、10年後?」
古岡「はい、そうです」
宇野「それが、10年早くなるだけだよ。早いか遅いかの問題だけじゃないか」
古岡「まぁ……」
宇野「まぁ、飲んで、飲んで」
また、宇野が古岡のグラスに有名地酒を注いだ。
宇野「それで、市長も市民も喜ぶのなら、これは、良いことなんだよ。いいか、誰かがやらなければならないことなんだ。それを君ができるってことは光栄なことじゃないか。来年は係長になり、そのあと、課長補佐になり、収入も大幅アップだ。良いこと尽くめじゃないか」
古岡「まぁ……」
宇野「まぁ、飲んで、飲んで」
また、宇野が古岡のグラスに有名地酒を注いだ。
宇野「これは、誰もが喜ぶ良い仕事なんだよ。君が良い仕事をすることを期待しているよ」
古岡「はい、良い仕事をさせていただきます」
古岡がグイッと酒を飲んだ。




