嘘はとびきりの愛か?
「あれ、社長だ」
美味しい店があると連れて行ってもらった黒瀬の会社近くのレストランで、声をかけられた。
(わ、美人……!)
目の際に黒子のある女王様のような印象を与える長身の美女がそこにはいた。
「ちょ、馬鹿。今デート中だろ。見なかったふりをだな」
「あらあら、もう話しかけてしまったんだから仕方ないわね」
別の長身の綺麗な男性がツッコミを入れると、その横にいた可愛らしい、狸顔の女性がふふふと笑った。
「…………お前たち」
はーーーーと黒瀬が額を手で覆いながらため息を吐いた。知り合いなのだろう。
「月歌さん、彼女はうちの会社の広告宣伝部長の蜂谷ミリア。隣が元副社長で今は納豆屋を経営してる倉骨清太とその奥さんの由紀さん。由紀さんとお前ら、彼女は日根野月歌さん。僕の……大事な人だ」
二人きりのときはさらっと甘いことを言ってくれる黒瀬も流石に照れたのか、言い淀んで目を逸らしている。
「こんにちは、徹さんとお付き合いをしている日根野です」
最近互いに下の名前で呼び合うようになったので、まだ徹さんと言い慣れておらず、どこかぎこちなさを感じながら月歌は立ち上がって頭を下げた。
「きゃーーーー! やっとね嬉しいわ!!!」
(わ、わ、わ!)
いきなりミリアにぎゅっと抱き着かれて月歌は目を白黒させた。
やっと会えたと喜んでくれているのだろう。
つまり、黒瀬から月歌の話を彼女はよく聞いていたのかもしれない。
「やめろ、ミリア」
黒瀬がミリアを諌めると、ぷくぅと頬を膨らませた。
その仕草は美貌に比べると随分と幼い。
(あれ? 徹さん、彼女のことは呼び捨てなんだ)
まさか、元カノとかだったりしないだろうか?
雑に扱ってる感じもなんだか引っかかる。
「うふふ、ごめんなさい。だって嬉しくて。彼氏と別れたばっかで落ち込んで、由紀さんに愚痴ろうとしてたところに来たテンション上がる存在なんだもの!!! これから仲良くしてね、月りん!」
月りん!??!?
突然、渾名で呼ばれ、最早距離の詰め方が凄い。
「あ、よ、よろしくです」
「ミリア、日根野さんが引いてるだろ、ちょっと落ち着けバカ」
既婚者の清太もまたミリアと呼び捨てにして雑に扱っているので最早、彼女はそういうキャラなのだろうか。
「そうだぞ、いきなり抱きつくやつがあるか」
黒瀬までもミリアにダメ出しをしはじめた。
(なんか、いや……)
もやもやする。これは嫉妬だろうか。疎外感だろうか。
「ふふ、ミリアさんは私から見たら大人っぽい美人ですけど、同郷の彼等にとってはいつまでも可愛い妹みたいなんですよね」
由紀の言葉はまるで、月歌の心を見透かしているかのようだった。
「同郷……なんですか」
ベンチャー企業なんだから仲間内で始めたのだろう。そう思えば確かに同郷なのもおかしくはない。
(私、徹さんのこと、なんにも知らないな……)




