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アラサー魔法少女ラヴリームーンの引退  作者: 有栖賀馬頭(TL名義は朱里雀)


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「やった、私たちの勝ちね。えーと」

 困ったラヴリーサンに小声で自分の正体を告げた。

「あ、さっきまで一緒にいたクラスメイトの日根野です」

「え、え! 日根野さんだったんだ! 私たち二人で魔法少女なのね! よろしく」

 嬉しそうなラヴリーサンにぎゅっと手を握られる。

 そのときだ、上空から声が降りてきた。

「ほお、ブラックスカルがやられたか」

 空に仮面をつけた漆黒の男が浮いている。 

「仕方ないですわ、魔王様。あいつは私たち四天王のなかでも最弱」

 魔王と呼ばれた男のすぐ後ろに、派手なミツバチを彷彿とさせるドレスを着た美女が現れた。

「油断するな、下がっていろ」

 はーい、と頬に手を当てて返事しながら、美女が後ろに下がった。

 異質だ、と思った。

 さきほどのブラックスカルとも、あの美女とも違う。

 ビリビリと肌を刺すようなプレッシャーを感じる。

 勝てない、その言葉だけが脳を占めている。

『しっかりしろ、ラヴリーサン、ムーン!』   

 シルキーの声が耳元から聞こえてきて月歌、いやラブリームーンははっと気づいた。

「我が名はイヴリース・フォン・ハーデス・アルシャイターン。深淵の闇を纏いこの世に新たな破壊と秩序を与える者」

 一歩、一歩と魔王が近づいてくるたび、ドクドクドクと心臓が恐怖で脈打つ。

『いきなりボス戦は無理だ! 退却だ、退却っ!』

 隣にいたラヴリーサンが逃げていく足音が聞こえる。

『何してる、ラヴリームーン、逃げろ!』

 逃げたいのに、足が動かない。

 何が魔法少女だ、何が世界のために戦うだ。

 欠片もそんな気なんかなかったのに、ただなんとなく陽菜が羨ましくて、魔法少女になってしまった。

 そうだ、ここで無様に逃げ出して、あのときのあれは中二病だったなー、なんて後になって回想すればいい。

 そう思うのに、逃げたくなかった。

 何故って、ただ何となくだ。

 ただ何となく、幼いころに観ていたアニメの中の魔法少女は逃げなかったから。

(逃げるわけにはいかない……!)

 

 ラヴリームーンには魔法少女のヒロインとなる華はない。

 カリスマ性も、特別な才能も、何一つない。

 それでも、覚悟だけはあったのだ。

 そしてそれは最も必要とされる資質であった。

 後に、魔法少女ラヴリーズを束ねたシルキー・ド・エスメラルダは自身の著書の中でそう語った。


 ラヴリームーンは拳を握り込み、力を込めた。

 魔王の目を正面からまっすぐ見据える。

「ラヴリーーーーーーパンチっ!」

「無謀な」

 パシッと、ラヴリームーンのパンチは簡単に魔王に片手で押さえ込まれた。

「キャー魔王様っ!」

 美女が魔王を心配して駆け寄ってきた。

「…………ふん、どうやらまだ時空の調整がうまくいってないらしい」

 パリパリパリとラヴリームーンを抑えている魔王の手から謎の異音がしている。

「いいだろう、今日のところは一旦ひいてやろう。さらばだ」

 魔王がマントを大きく翻した。

 次の瞬間、美女ともども消えていたのだった。  

 


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