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「やった、私たちの勝ちね。えーと」
困ったラヴリーサンに小声で自分の正体を告げた。
「あ、さっきまで一緒にいたクラスメイトの日根野です」
「え、え! 日根野さんだったんだ! 私たち二人で魔法少女なのね! よろしく」
嬉しそうなラヴリーサンにぎゅっと手を握られる。
そのときだ、上空から声が降りてきた。
「ほお、ブラックスカルがやられたか」
空に仮面をつけた漆黒の男が浮いている。
「仕方ないですわ、魔王様。あいつは私たち四天王のなかでも最弱」
魔王と呼ばれた男のすぐ後ろに、派手なミツバチを彷彿とさせるドレスを着た美女が現れた。
「油断するな、下がっていろ」
はーい、と頬に手を当てて返事しながら、美女が後ろに下がった。
異質だ、と思った。
さきほどのブラックスカルとも、あの美女とも違う。
ビリビリと肌を刺すようなプレッシャーを感じる。
勝てない、その言葉だけが脳を占めている。
『しっかりしろ、ラヴリーサン、ムーン!』
シルキーの声が耳元から聞こえてきて月歌、いやラブリームーンははっと気づいた。
「我が名はイヴリース・フォン・ハーデス・アルシャイターン。深淵の闇を纏いこの世に新たな破壊と秩序を与える者」
一歩、一歩と魔王が近づいてくるたび、ドクドクドクと心臓が恐怖で脈打つ。
『いきなりボス戦は無理だ! 退却だ、退却っ!』
隣にいたラヴリーサンが逃げていく足音が聞こえる。
『何してる、ラヴリームーン、逃げろ!』
逃げたいのに、足が動かない。
何が魔法少女だ、何が世界のために戦うだ。
欠片もそんな気なんかなかったのに、ただなんとなく陽菜が羨ましくて、魔法少女になってしまった。
そうだ、ここで無様に逃げ出して、あのときのあれは中二病だったなー、なんて後になって回想すればいい。
そう思うのに、逃げたくなかった。
何故って、ただ何となくだ。
ただ何となく、幼いころに観ていたアニメの中の魔法少女は逃げなかったから。
(逃げるわけにはいかない……!)
ラヴリームーンには魔法少女のヒロインとなる華はない。
カリスマ性も、特別な才能も、何一つない。
それでも、覚悟だけはあったのだ。
そしてそれは最も必要とされる資質であった。
後に、魔法少女ラヴリーズを束ねたシルキー・ド・エスメラルダは自身の著書の中でそう語った。
ラヴリームーンは拳を握り込み、力を込めた。
魔王の目を正面からまっすぐ見据える。
「ラヴリーーーーーーパンチっ!」
「無謀な」
パシッと、ラヴリームーンのパンチは簡単に魔王に片手で押さえ込まれた。
「キャー魔王様っ!」
美女が魔王を心配して駆け寄ってきた。
「…………ふん、どうやらまだ時空の調整がうまくいってないらしい」
パリパリパリとラヴリームーンを抑えている魔王の手から謎の異音がしている。
「いいだろう、今日のところは一旦ひいてやろう。さらばだ」
魔王がマントを大きく翻した。
次の瞬間、美女ともども消えていたのだった。




