絶対的エース、ラヴリーサン
初めて会ったときから、彼女は特別な女の子だった。
その日、日本の空に突如、異界ゲートが現れた。
空から降りてきた魔王を名乗る仮面の男は、率いる軍勢は武力を行使してくることはなく、だからといって武装解除することもなく、ただ、人類に降伏するよう告げてきた。
そのときは高校の掃除の時間で、月歌はたまたま同じクラスの陽菜とともに校庭の端にある焼却炉へゴミを捨てに行っていたときだった。
窓から覗くと、誰もが本来学校に持ってきてはいけない携帯や、普段は道徳の時間くらいにしか使わないテレビを使ってニュースを夢中で見ている。
テレビの中のアナウンサーが何者かが日本に武力侵攻してきていると叫んでいる。
何故か魔王は東京ではなく大阪に現れたようで、ここから結構近い。
月歌はこれは変な夢なのかと思った。
「陽菜、僕はシルキー、魔法少女の導き手。君は選ばれし戦士だ! 魔法少女になって、世界を救うんだ!」
突然、足元に現れたシルキーと名乗る奇怪な狸のような生物は、月歌ではなく、その隣りにいた太刀川陽菜に談判した。
なるほど陽菜は特別な女の子だ。
美少女で心優しくて、いつも笑っている、クラス、いや学校の人気者。
彼女は正義の味方にとして戦うに相応しい。まさしくアニメに出てくるヒロインのよう。
「わかったわ!」
特に質問するでもなく即答した陽菜に月歌はこれまたアニメに出てくるクラスメイトとして声をかけた。
「頑張って!」
それだけ言って見守る体制に入ると、シルキーは陽菜に腕時計を渡した。
「これをつけてマジカルサンパワー、ラブリーチェンジって叫んで!」
それは、思春期真っ只中の女子高生にはなかなか辛い要望だった。
だが、陽菜は気にしなかったようで手を上げ、フリまでつけた。
前々からノリの良い子だと思っていたが、想像以上である。
「マジカルサンパワー、ラヴリーチェンジ!!」
陽菜の言葉とともに、足元が光だす。紗がかかっていて見えないが、裸の陽菜の下に何体もの小さなメカが現れた。
そして、一体が陽菜にメイクを施し、一体がコスチュームを、一体がリボンをとどんどん変身させていく。
「よし、うまく作動した! 少ない予算だったのに、さすがボク」
月歌は斜め下にいるシルキーを見た。
魔法少女のコスチューム代がケチられているとは世知辛い。
「さあ、行くんだ、魔法少女ラヴリーサン!」
「オッケー」
変身を終えた陽菜の髪は金色に也、高い位置で一つに纏められていて、キラキラと光っている。
赤いコスチュームは、上半分はセーラー服に似ていて、下半分はフリルがふんだんにあしらわれたスカートでとても可愛い。明るい彼女によく似合っている。
感心していると、ドンっと大きな音がして、陽菜が人間とはとても思えない脚力で飛んでいく。
「ちょっと、君何をぼーっとしているんだい、早く僕を抱っこして追いかけるんだ!」
下からシルキーにキレられ、月歌は慌てて抱き上げて命令に従ってしまった。
それは二人の生涯の力関係が決まった瞬間だった。




