12
「これ、あかさたなはま~をあてはめたら解けるんじゃないですか?」
月歌がひらめくと、黒瀬が小首を傾げた。
映画の後、黒瀬とともにリアル脱出ゲームをしていたのだ。
「えっと?」
「ひらがなの五十音順です」
「ああ、なるほど。恥ずかしながら日本語の基礎教育が抜けていまして」
黒瀬が恥ずかしそうに頭の裏触れた。
(海外育ちなのかな?)
少なくとも現段階で聞くことではないだろうし、制限時間も刻一刻と迫っているので聞いている暇もない。
「つまり鍵はこれかな?」
「当たりでありますよーに!」
月歌が両手を組むと、黒瀬が鍵束から当たりと思われる鍵を差し込むとガコン、と音がして部屋の鍵が開いた。
「やった!」
「脱出成功ですね」
二人で協力して……いや、主に黒瀬が考えて、なんとか脱出に成功し、店員に祝って貰いつつ謎のおさらいをしてもらい、店舗を後にする。
「私、謎解きゲームは初めてしたんですけど楽しかったです! 黒瀬さんはよくされるんですか?」
「いえ、実は僕も初めてで。たまたま友人に勧めて貰ったんです」
「そうだったんですね。また……」
二人で来ましょう、と言おうとして勇気がなくて口ごもる。
「わ、雨」
謎解きゲームが入ったビルを出ると、ずっと室内にこもっていたため気づいていなかったが雨が降っていた。
アーケードがあるためそのまま、ガサゴソといつもぱんぱんにしている鞄を探る。心配性の月歌は鞄にいろいろなものを入れたままにしていた。
どうやら黒瀬も折りたたみ傘を持っていたようで真っ黒な傘を持っている。
(なんだ、持ってたのね……)
持っていなければ相合い傘をしていたかもしれないのに、なんて馬鹿なことを考えた。
「駅まで送らせてください」
「ありがとうございます、方向音痴なので助かります」
なんだかんだで時間が結構経過していたらしく、もう夕方だ。
二人で並んで町を歩いていると、アーケードが途切れ、月歌は傘を差すために俯いた。
そのときだ、黒瀬が月歌を置いてぱっと雨の中を走って行った。
(え?)
そうして、黒瀬が少し遠くにいる女性、赤子を連れたお母さんに話しかけた。彼女は傘がないのか、抱っこひもの中の子供が濡れないようにハンカチを掛けている。
黒瀬が自身の傘を開き、お母さんと赤子を入れ、そのまま傘を渡そうとして、遠慮されているのか、ここからは聞こえないがなにやら押し問答になっている。
すると、ふと、お母さんが振り返り月歌を見た。そして、何故かニコッと笑うとようやく黒瀬から傘を受け取り、頭を下げて去って行く。
反対に黒瀬もアーケードで待つ月歌の元に帰ってきた。
「すみません、お待たせして」
「いえ」
黒瀬も濡れてしまっており、髪が額に張り付いており、右手でかき上げた。
(おお……!)
筋張った腕が動き、下から現れた視線が月歌を捕らえる様は、水もしたたるいい男、と言うやつである。
黒瀬がハンカチで軽く顔や肩を拭いていく。
月歌も手伝おうかと思ったが、勝手に触るのもなんだか違うか、とまごついてしまう。
「私の傘に入ってください」
「すみません、お邪魔します。よければ僕が持っても?」
そりゃあそうだ、月歌と黒瀬は頭一つ分は違う。月歌の基準で傘をさしてしまうと、黒瀬の頭に当たって傘がこんもりするだろう。
「お願いします」
傘を渡し、黒瀬とぐっと近づいて歩く。
「勝手をしたうえ、ご迷惑をおかけしてすみません」
黒瀬に謝られ、月歌はふるふると首を横に振った。
「さっきのお母さん、助かったと思います。黒瀬さんっていい人ですね」
先ほど見た傘は古そうに見えなかった。きっとまだおろしたてのはずだ。
しかも、自分もその一本しか持っていなかったのだ。
それを人に渡してしまうだなんて、どれほど人間が出来ているのか。
「いえ、下心があって渡しましたので」
「下心ですか? あのお母さんに?」
人妻好きというやつなのか。と、月歌が目を見開くと、黒瀬が違いますと、笑い出した。
「あなたに、ですよ」
そして、ふと真剣な瞳になり、じっと月歌を見つめた。
「好きな女性の傘に入れてもらう理由が出来るので、傘を受け取ってくださいとあのお母さんにお願いしたんですよ」




