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月歌が待ち合わせの場所の駅改札に行くと人混みのなかに既に黒瀬が待ってくれていた。
頭一つ高い黒瀬はどこにいても目立つ。
「あのー、お兄さん。お一人ですか?」
「さっきから凄くかっこいいなって気になっていて、私たちとお茶しませんか?」
キャピキャピとした若い、二十代になりたてかなっていないかだろう女の子たちに声をかけられ黒瀬が苦笑した。
「すみません、女性と待ち合わせをしているところです」
(で、出づらーーーー)
彼女たちに月歌の顔を見られたら絶対、なんであんな大したことないおばさんと? とか思われそう。
というより、そもそも30越えてナンパされる黒瀬も凄い。
見た感じで彼女たちより充分年上だとわかるだろうに。
幸い、待ち合わせまで時間はある。まわれ右して出直そうか。
「あ、日根野さん!」
黒瀬がぱっと笑い、月歌の元へ近づいてきたため、思わず俯いた。
チラリと彼女たちのいた方向を見ると断られた時点で興味をなくしていたらしいもういない。
(よかったー)
「お待たせしてすみません」
「いえ、僕が早く来すぎました」
確かに待ち合わせ15分前である。いつから黒瀬はいたのだろうか。
「映画、楽しみですね」
黒瀬に話を振られ月歌は頷いた。
「そうですね。意識高い探偵久門〜意識低い探偵久門、爆誕〜ってタイトルですけど、どうなるんでしょうね?」
「予告編では久門がソファの上でだらけていましたね」
「そうそう、それをシルキーが呆れた目で見ていて……私もよくシ……友達からあの目で見られます」
危ない、ラヴリーズ全盛期、シルキーを肩に乗せて戦っていたころはあの目でよく見られていたと、言いかけてしまった。
「シルキーと言えばどことなく信楽焼の狸に似ていますよね」
「わかります、本人は猫って言い張ってる……らしいですけど」
月歌はシルキーのことを真っ白な信楽焼だと思っていた。
笠をかぶれば完璧である。
(そういえばシルキー、まだテレビに出たての頃はバライティでよく信楽焼の狸を演じさせられてたなぁ)
あのプロデューサーは僕の輝かせ方をわかっていないとぶうぶう言っていたシルキーが今やプロデューサーである。
人生とはわからない。
そうこう考えているうちにすぐに映画館に着いてしまった。流石、駅直結の商業施設である。
「ええっとチケットは」
映画を映画館で見るなど何年ぶりだろうか。
すっかり昔と様変わりしているようで、チケットは販売機で売っているみたいだ。
「どうぞ、日根野さんの分です」
「えっ?」
黒瀬がチケットを見せてきたので月歌はびっくりした。
「実は今日が楽しみすぎて仕事で近くに寄ったときにチケットを買っておいたんです」
「待ってください、おいくらでしたか?」
「忘れてしまいました」
この前のカフェもそうだったが、またしても奢られてしまった……!
どこまでもスマートな人なのだ。
「あの、飲み物はなににされますか? これはせめて払わせてください」
月歌は顔を上げて頭上のメニューを見た。なかなかな値段がする。
「それが、飲み物代も含まれたチケットなんです」
(どうしよう勝てない)
気遣い選手権、連敗続きである。
かくなるうえは、次の機会があれば手作り弁当でも持ってこればいいのか。いつも冷凍食品詰めているだけだけれど。
「ぱ、パンフレット、いかがですか?」
そうして、月歌はせめてなにか払わせてほしくて、つい商売人のような言い方になってしまったのだった。




