4話シーン15「メティースの過去 後編」
どうも皆さん。
『元』告げる女神メティースでございます。
今回は、私が長年見守り続けていた丘の下に新しい村が開拓されると聞いて、
しばらくの間、人間に身をやつし、『人として』暮らしてみることにしたのです。
「やあ、おはようメティーちゃん」
「おや、今日も元気そうねメティー」
道歩く度に、村人が私を仲間として認識した村人達がすれ違いざまに挨拶していきます。
うんうん、記憶操作は完璧のようです。
私、今は女神としての権能を全て破棄して、人の体に似せて作った偽人のボディで
暮らそうと思ってますの。
年のころは大体、十歳ぐらいの設定で作ったかしら?
偽と言っても、人と同じように成長して人のように命を終えますのよ?
この体の寿命が尽きたら、この特別休暇も終わり。
また女神へと戻ります。
人としてこの村で暮らしてみて、もう三年ぐらい経過しました。
変化といえばこの村に、ついに名前が付いたんですの。
この村の領主、オルヴェラート伯爵の名前をとってオルヴェ村と付いたんです。
ガシッ
ふいに私の背後から抱きついてきました。
本来ならば手打ちものなのですが、私は落ち着いて振り返ると、
その小さな可愛らしい無礼者を抱きしめ返してあげましたわ。
「あらあら、これはパトリック様・・・おはようございます」
「うん、メティー!おはよう!ねえねえ、今日も遊んでおくれよ!」
その子の名はパトリック・オルヴェラート、6歳。
このオルヴェ村の領主のご子息です。
領主のオルヴェラート伯には元々は二人の息子が在ったのですが、その内、
二つ年上の兄の方はこの国の次期国王たる第一王子に養子〈言い換えれば
人質として〉取られてしまい、現在ではこのパトリック様がご長男として
残され、育てられています。
まだまだ幼いやんちゃ盛りで、私がたまに遊び相手になってあげてたら、
気付けばなつかれてしまいました。
「ほらほらメティー!こっちこっちー!」
パトリックが私の手を引いて森を走り回ります。
「待ってください、パトリックさまー早いですー私疲れましたー」
「ハハハ!メティーは体力ないなー」
そういって笑うパトリックの顔はなんとも明るくて可愛らしくて
愛玩動物という面では大変に好ましく思いましたわ。
ああ、半ズボンから見える白い太ももや足が何とも・・・デへへへへ
「うわっ、メティー!急に鼻血なんて出してどうしたの!病気?」
「じゅるっ・・・でへへ、何でもございませんよパトリック様ぁ」
「何ともないわけないじゃん。ほら、血で顔がベトベトだよぉ・・・」
何ということでしょう。パトリックがハンカチをとって、鼻血で汚れた
私の顔を拭いて下さるなんて・・・・なんというご褒美!あざっす!
それから翌年。
その年は良い事と少し悲しい事がありました。
一つは、王都に暮らすオルヴェラート伯の兄君が正式に即位され、
王位を継がれたこと。
戴冠式も終えて、これでオルヴェラート伯も要らぬ疑いをかけられる
ことなく暮らせますわ。
ですが次は少し悲しいこと。
私にとって、この村で初めて体験したお葬式。
亡くなったのは、パトリックのお母さま。
オルヴェラート婦人でしたの。死因は病死。
「・・・うぅ・・・え゛ぐっ・・・えぐっ・・・がぁざま゛・・・」
お可哀そうに。
パトリックは、お母さまの納棺が済んだ後のお墓から何時までも
離れようとしません。
私がついているからとオルヴェラート伯や他の村民たちは帰って
しまわれましたけど、パトリック様の目からは、
まだまだ涙が止みそうにありません。
「ねえ・・・メティ・・・どうして、人間は死んでしまうの?
神様みたく長く生きられたら良いのに・・・・どうしてなの?」
涙と鼻水でグズグズになってお顔で私を見上げるパトリックのお顔。
不謹慎だとは存じますけど、私は実は、そのお顔を見ると胸がキュンと
してしまいました。
ああ、悪いことだとは思うんですよ?
でもでも、ああ、亡くなったお母さまを想う気持ち、私を頼りにして
くれてると感じる気持ちが伝わってきてこれが何とも・・
ごちそうさまでございます!
などと本心を気取られることはなきよう、私は必死で堪えて、
パトリックに視線を合わせました。
「パトリック様・・・・死は誰にとっても怖いものでございます。
ですが、それを恐れてはなりません。
パトリック様のお母さまは今も空から見ておいでですよ?
お母さまに心配をおかけして、パトリック様はそれでよろしいのですか?」
「・・・・」
少し考える素振りを見せた後、パトリックは全力でブンブンと頭を
横に振りました。
くぅ、その仕草も可愛すぎます。犯罪的ではないかしら?
「でしたら・・・今すぐにとは言いません。
パトリック様はこれからもっと学び、大きく成長してくださいませ。
そして何時か、その死を恐れずに真っすぐに立って、
生きる男になってください。
それこそが無くなられたお母さまや何より・・・
私の望むところでございます」
真っすぐにパトリックの瞳を見つめながら私がそういうと、この子は無言で
コクリと頷きました。
〈くぅぅううううううううううううううう!た、たまらん!〉
あやうくまた鼻血を噴き出してせっかくの空気が台無しになる所でしたが
ナイスわたし!
なんかこう、大人として正しい言葉とか正論とかよく分かりませんけど。
そこはかとなく良い感じのこと言えましたよね。
い え ま し た よ ね? わたし!!
そして更にそれから時が流れ、私は設定上19歳、
パトリック12歳に成りました。
所々に豪華な装飾が施された黒塗りの馬車がお屋敷の門の前に到着。
私とパトリックは手荷物を持って、旦那様やお屋敷の皆様に
しばしのお別れのご挨拶。
「では、父上。行ってまいります」
「うむ・・・しっかり学んでくるのだよ、息子よ
・・・・メティーも身の回りの世話をよろしく頼む」
「はい、お任せください旦那さま」
パトリックは先に馬車に乗り込み、私は後から馬車に乗る前にもう一度、
旦那様たちに向けて一礼した。
そう、今年はパトリックが王都の学園へ入学する年なのです。
そして同伴するメイドはこの私。一人。
実は私、夫人のお葬式の後からオルヴェラート伯からの信頼が爆上がり
だったそうで。
私、パトリックの専属メイドとしてスカウトを受けたんです。
無論、私はそれを受け入れました。
メイドとしての仕事を覚えるのは元女神としてまあ少しは大変でしたけど、
ほら私も元々は女神ですし?基本的な礼儀作法なんかは既に習得して、
評価を上げるのは簡単でした。
そうして腕を磨きつつ、パトリック様の信頼も勝ちえ続けた結果、
私は唯一の、おんりーわんな、お付きの専属メイドの地位を、
不動のものとして、勝 ち 取 っ た の で す !
どうやら屋敷内の他のメイドの中にもその座を狙っている者が
いたようですけど?
ハッ!たかが人間にこんな良いポジション渡せるわけねーですよ!
あいむ うぃなー! あいむ あ なんばーわん! です!
ガタン ガタン
走りながら大きく揺れる馬車は、いささか座り心地が悪いです。
中々にお尻が痛いものですね。
ですけど、それも良いものです。
部分的には良い使い道があるってもんです。
ガタン ガタン
ぶるん ぶるん
ガタン ガタガタ
ぶるん ぶるぶるん
がったーん がったーん
ぶっるーん ぶるるーん
「・・・・・」
何とも落ち着かない様子で、パトリックは視線を泳がせている。
もじもじと足の間に挟んだ手がもぞもぞと踊っている。
ふっふーん
皆様にはわかりますか?
流石に同じシートに座る訳にはいきませんから。私は今、
パトリックの正面の席に座って居るんですけど。
私の体も何と言いますか、順調に成長してしまいまして。
どこがとは言いませんけど揺れるんですよ。
馬車の揺れるのに合わせて、ああ、肩が重くて辛いですー。
「・・・パトリック様?」
急に話しかけられ、パトリックは思わず飛び跳ねる。
「な、なななな、なんだいメティー!?」
頬を赤く染めて、照れているようで、何か隠し事のある幼子のような所が何とも
可愛らしいと思えてしまう。
私はそっとカーテンを閉めると、自分のメイド服のシャツのボタンを外して
下着を捲り上げ、見せました。
「王都まではまだ時間がありますし、いかがですか?」
その二つの豊かな乳房を目にして、パトリックはゴクリと唾を飲み込む。
「め・・・メティー!」
堪えきれずに、パトリックは私に飛びついてきました。
「あんっ・・・パトリックさまぁ・・あっふ・・・焦らずとも、ん・・
メティーは逃げたり、しませんっ・・・」
あらかた都心部に近づき、舗装されて平らな道に入りつつあったのだが、
馬車の中は未だにガタガタと揺れていた。
そうして嬉し恥ずかし、パトリック様の学園生活がスタートしました。
内容は大体、最初の3年間で小学校範囲の勉学を終わらせ、庶民はここで
義務教育課程が修了。
貴族であればその上の貴族院学園に上がって二年で中学校範囲の勉学を終わらせ、
貴族としての最低ラインの勉学はここで修了。
王族や博士号課程など専門分野へ進む場合でしたら、
大学院へといった具合ですが。
うちのパトリック様でしたら貴族院学園まで通う予定ですので、合計五年間、
学園の学生寮で過ごされることになるわけです。
私と二人っきりで、ね。
私は主に昼間はパトリックの荷物持ちとしてつき従い、
授業の時は他家の従者達と共に廊下で待機です。
ああん?なんですか貴方?自分は男爵家の執事?
自分の方が格上の家の従者っぽいから自分と交際しろ?
バカなんですか? 頭にUG湧いてます?
そんな人の顔も見ずに胸ばかりに視線がいくド三下なんか
私が相手にすると思います?
あらあら?ガラスを破ってカラスとフクロウと鶏の群れが・・・
あーあーズタズタですね、みっともない。
あ、ぼっちゃま。お勉強の方は終わりましたか?
お疲れ様でございます。
そして夜になると二人で同じベッドで寝るようになりました。
パンパンパンパン
「あっ・・メティー・・・そこっ、すごっ・・・んっ・・・」
ぴゅっぴゅっ
「はぁ・・はぁ・・・もう、休ませて」
「んっ、じゅるじゅじゅる・・・ちゅぽっ、まだまだですよパトリック様!
強い男になるって・・おほっ!約束したではありませんか!
ほら、次は出すのをもっと遅らせて、腰に力入れて耐えてくださいませ!」
「も・・・もう、何も、出ない〈ゲソッ」
貴族として、夜のお稽古もばっちりしなくてはなりませんね。
何発でもバッチコイです!
そうして三年が過ぎ、貴族学園へと進学。
その頃です、パトリックに一つの転機が訪れました。
「・・・でね、今日は兄上が・・」
なんという幸運でしょうか。
貴族学園では、パトリックは生き別れになっていた兄のエリック様と再会し、
ご縁を温め直す機会を得たのです。
「そしたら兄上ったら、イタズラで僕のお茶に砂糖と塩を・・」
「ウフフ、それはよろしゅうございましたね」
「どこか良いっていうんだよ!?」
いえいえ、とても喜ばしいことだと思います。それは良いことです。
元来、王族として残された兄と王族を退いた兄、それは階級という絶対的な
区別の壁で別たれるものなのに、エリックは弟のパトリックを気遣い、学園の中で
人目に付かない限られた時間であっても「兄上」と呼ぶことを許してくれる。
それだけで、尊いものだと私は思いました。
私も元は時の女神メダの娘として生まれ、三人の兄姉を持つ末っ子であるので、
兄弟が仲良くすることの大切さは分かるつもりです。
〈兄上・・・姉上・・〉
パトリックの話を聞いて、ふいに私の兄弟たちのことを思い出しました。
長女は季節を知らせる女神として世界を一年かけて飛び回る季節の女神メニス、
長男は生き物に老いを与える邪神として一つ一つの命を見張る衰えの邪神べーゴ、
次男は在るモノを腐らせて土へ返すために何億もの虫達を操る虫害の邪神ブアル
皆それぞれの仕事に邁進し、私には優し兄弟達・・・・
ポタっポタっ
「!?ど、どど、どうしたの?メティー」
「えぐ・・・えぐっ・・なんでも、なんでもあ゛り゛ば・・ぜん゛」
止まらない。大粒の涙が後から後から零れてくる。
「何でもないことないだろ?何があったか話してよ・・・」
パトリックはあの日と同じようにハンカチを取り出し、私の顔を拭いてくれる。
「ず・・ずびばぜん・・・ただ、ばどりっぐざばの話を聞いでだら・・・
ばび(兄)やばべ(姉)だぢのごど、おぼいだちじゃっで・・・」
言われて、パトリックは黙ってしまう。
実際は皆生きているのだが、村の皆の記憶を操作して、『私の家族は私以外、
全て森の獣に襲われて食われて孤児となった』と記憶させている。
「・・・・変なこと思い出させちゃって、ごめん」
パトリックは優しく私を抱きしめてくれた。
「だんで・・・謝るんでずが、パトリック様・・・パトリック様、
ぜんぜん、わるぐないでずよぉ」
「それでも、ごめん」
私は知らなかった。
人間になる前は、たかだか数十年なんて一瞬だろうと思っていた。
実際、神として生きていた頃にはそうだった筈なのに。
なんで短命で脆弱な人間として生きてる間は、こんなに一年が長く感じるのか。
なんでこんな一日一日が尊く長いのか、私は知らなかったのだ。
それから更に数年の年が流れた。
パトリックは惜しみながら学園を去り、兄エリックと別れて、
私達はオルヴェ村へと帰ってきました。
そしてまあ色々あって、私、晴れて結婚いたしました。
お相手はもちろんパトリックとです。
女神から人間へと落ちて、一村娘だったのが専属メイドと来て、
私、次期オルヴェラート伯爵家当主の奥様に成っちゃいました。
これがV字回復って奴ですか?〈ちょっと違うか?〉
婚約を報告する時も父上のオルヴェラート伯は特に反対される風もなく、
むしろ庶民の血を迎えて家の格が落ちることは、王都に暮らす国王派の興味も
薄れるので都合が良いということで。
私とパトリックは順調に結婚と相成りました。
その結果
おぎゃーおぎゃーおぎゃー
〈死…死ぬほどキッツ・・かった〉
寝室で、近隣の村から呼び寄せた大勢の産婆や助産師たちに見守られながら、
私は一つの大役を全うしました。
「おめでとございまス、奥様。ゲンキなお世継ぎサマですよ?」
産まれた息子を産湯に漬けながら、ベッドの上で息も絶え絶えになっている
私に産婆は告げた。
隣りで私の手を握りながら見守っていたパトリックも目を輝かせている。
「でかした!メティー」
より一層パトリックは私の手を握ってくれた。
私も飛んたり喜びはねたい気持ちではありましたけど、全然声が出ません。
へとへとで、死にかけの老人のように掠れた声が漏れるだけで精一杯です。
そこへやっと綺麗になった息子を布でくるんで、
助産師がパトリックの方へ運んできた。
「おお、おおおお・・・・」
言葉に成らない歓声をあげて、我が子の顔を覗き見るパトリック。
「ほれほれ旦那サマ、奥様にも顔見せてあげねば」
「お、おお、そうかそうか!」
産婆に言われて、パトリックはやっと私の隣りの顔が見える所に
息子を置いてくれた。
ああ・・この子がそうなんだ。この子が・・・・
「なんだかシワシワねえ・・・・」
陣痛がきてこの子が生まれるまで、およそ五時間ほどかかった。
出産記録としては非常に早く、ツルッと出てきたという感じだと
産婆からは聞かされた。
いやいや、早くと言われても凄く辛かったし痛かったですよ?
産む準備が整うために入り口を広げてたと言われても、あの鈍い
ズキズキが何時間も続いたのは苦しかったですって。
それでも、そうして苦しみ抜いた先に授かった、結果が今、そこに在るのです。
それから間もなく、産まれた我が子に初乳を与える。
その間もパトリックはしっかりと私の乳房を吸う息子の顔を覗いていた。
だが、なんだかそわそわしているような?
「なに?」
「あ、いや・・・あの・・・」
「?」
何か緊張しているようで、何か隠し事をしているようにも見える、忙しなく
手で自分の膝を擦り続ける動作がしばし続く。
それからやっと意をけっしたように、パトリックは口を開く。
「その・・・こ、こんなに可愛い子供を授けてくれて、あ、あ、ありがとう!」
そういってパトリックは椅子に座ったまま、私に上半身だけで一礼した。
「・・・やだ。今の一言だけで、これまでの疲れが全部吹っ飛んじゃった」
悲しい事なんて何もない、嬉しさだけがこみ上げてくるのに、
私の目尻から涙が零れた。
そして始まりました。私の育児ライフ。
息子の名前はアンドリュー。パトリックが付けてくれました。
アンドリュー・オルヴェラート・・・・はあ、なんという美しい響きでしょう。
この子の顔立ちもどこかこう、品があるというのでしょうか?
まあ美しく気高い元女神の私と高潔で慈悲深く心強い貴族たる夫との
息子さまですし?
この子はきっと輝く原石です、ダイヤモンドですよルビーですよエメラルドですよ!
きっと世界に名だたるおとぎ話の英雄になること間違いなしです。
え?ちょっと旦那様、笑わないでくださいませ。私そんな変なこと言いました?
おい、そこの窓から覗き見てるカラスとフクロウ!
お前達も笑いましたね?
気づいてないとでも思いでしたか!?
アンドリューの育児方針ですが、旦那サマや義父さまの提案で、
乳母をつけると言われました。
そんなとんでもないですわ!?
そんなどこの馬の骨ともわからない女に大事なアンドリューを預ける!?
え?村の女だから馬の骨じゃない?
ベテランで子供を六人も産んで育てた手練れ?私の苦労も解消される?
そんなことありません!
この子は私一人でも立派に育てて見せますー。
え?もう雇うって決めたから辞められない?クーリングオフはできません?
ああ、そう、できませんかそうですか。
・・・・だったら、せめて妥協点です、折版案です、
半分ぐらいは任せても良いですけど。
私だってアンドリューにお乳あげたいです、おしめ換えしたいですー、
だっこしたいんデスー!
え?貴族の妻として率先して子育てに参加するのは変わり者?
だからどうしたってんです!
とりあえず、一日の最低半分は私がアンドリューを見ますからね!
それでお願いしますわ!
それから一年後、アンドリュー一歳。
おしめ替え大変でした、夜泣きが多くて大変でした。
産まれて一年は特にひどくて、乳母に名乗り出てくれたママルさんには
本当に感謝です。
あの人があってこそ、私は安心して育児が行えています。
感謝感謝です、要らないなんていってごめんなさい。
今では非常に頼りにさせて頂いておりますわ、ママルさん。
それから一年後。アンドリュー二歳。
ああ、なんと可愛いのでしょう。
私のアンドリューも少しずつ大きくなってきて、すこーしだけ手がかからなく
なって来ました。
今は離乳食を食べ終えて、私の腕の中ですやすや寝てるんですけど・・・・
重くて腕が痛いですわ。
でも何故かベビーベッドに寝かせたくないんですよ、ああ抱っこしてたいですー。
この子の腕に熱さを覚えるレベルの温かさ、筋なんてほとんどないような
柔らかさ、
ただ私だけを見つめるその穢れなき瞳!ああ!お漏らしをしてない時でも
香ってくるようなベビー臭!ああ、たまらないデスー
たまらんですー、ハァハァハァハァ、可愛い息子たんハァハァ
そんな時でもたまに思い出してしまうのが、天界の兄姉達やお母さまのこと。
母様、兄さま姉さま、見ておいででしょうか?
この子が甥っこですよ?
ええ、人間ですけど血筋の子です。
可愛い皆様の裔でございます。
人間となった私には皆さんのお顔が拝見できませんけど、暇なときにでも
見に来てくださいませ。
そう思ってたまにこの子を抱いて窓際に立っては、
この子を窓の外に見せるように晒してしまうんですよね。
あれ?アンドリューどうしたのですか?窓の外に手を振ってる?
家臣のアフターヌやグナイも来てませんよね?無人のように見えるのですが・・・
まさかアンドリュー、叔父上や伯母上が見えてたりします!?
それからしばらく経過して、アンドリュー五歳の頃。
アンドリューも大分成長してきました。
そして私もそろそろ、あの事を考えなくてはならない時期がきたようです。
そう、アンドリューだっていつまでも子供扱いしてて良いわけではありません。
どこかある年齢になったら扱いを改めるべきですので、
それを何歳からにするのか、パトリック達とお話しました。
例えば、何歳まで母親と寝るのか?
いい加減、ある程度の年齢に成ったら一人寝をさせるようにしませんと。
ええ、そこは母として心を鬼にしますわ。
そして相談の結果、わたし決めましたの。
アンドリューに一人寝を覚えさせ始める年齢、
それは10歳からにしたいと!
ええ、分かってます。おそらくは他所の家の子よりも何倍も速いのでしょう。
これが原因で私は末代まで語り草になる鬼親と言われるかも知れません。
ええ、だからこそ、アンドリューには厳しく接してあげなくてはと思うのです。
だからアンドリューが10歳になるまでは母と同じベッドで寝ましょうね?
ぐへへへへへ
・・・なんですか?アナタも義父さまもママルも・・・そんなひっくり返って。
わたし、変なこと言いましたか?
アンドリューも五歳を過ぎて大分しっかりと活動的になってきました。
大体、パトリックと私が初めてあったのも、あの子ぐらいの頃でしたかしら?
ウフフ、懐かしいですね。
アンドリューが村の子たちと遊びに出かけてしまって、
久しぶりに私も夫との時間が取れるようになってきました。
そうしていると、パトリックが急に私を抱きしめたかと思うなり、私の唇に・・・
って義父さま!?やだ、見ていらしてたんですの!?
は、はずかしい・・・え?恥じることはない?むしろ家としては歓迎?
1人っ子はアンドリューが可哀そうだから第二子もよろしく?
そ の 手 が あっ た か !
そんな訳で、私とアンドリューは直ぐに第二子生産にかかりましたわ。
そしたら何というか、出産はアンドリューの時以上に疲弊しました。
あれ?どうして?
アンドリューは本当にツルッと産まれてくれたというのが分かりました。
第二子は娘ちゃんだったのですが、産まれるまでにまるっと一日かかりました。
ええ、時間にして20時間以上。すっごい難産だったんです。
それでも五体満足に生まれてきてくれて、アンドリューも何やら
「ぼく、おにいちゃん」と繰り返し周囲に言い続けていて、
喜んでくれてるようで良かったです。
娘の名前は「ターシャ」と名付けました。今度は義父さまに付けて頂きました。
よかったわね、ターシャ。
そうして私は二児の母となり、ますます幸せの絶頂に居ました。
ママルさんの力も積極的に借りますし、意外だったのは義父さまが
娘の誕生を喜んでくれたことです。
どうやら、二児とも男の子だったらエリックとパトリックのように
引き裂かれないかと心配になるそうですが、
娘ならば嫁ぎ先に困ることはあっても、力づくで他家に奪われる心配が
ないからですって。
でもそう心配するのも分からなくもないですね。
だって、うちの子達はこんなにもこんなにも可愛いんですから
「カァ・・・人間はそういうのを親バカっていうらしいですよ?」
「メティース様、ちょっと人間に染まりすぎじゃないっス?」
おだまりそこの鳥類!!焼き鳥にして食べてさしあげましてよ!
でもそうですか・・・こういうのが親バカっていうんでしょうか?
じっと腕の中の愛娘を見る。
ターシャは母親を見もせずに、誰も居ない筈の窓の外に手を伸ばしている。
あらあら?あなたにも叔父上や伯母上の姿が見えるのかしらね?
ターシャにお乳を与えている時のことです。
ああ、今日も愛娘は元気に私のお乳を飲んでいます。
ちょちょいと背中をトントンすれば、げっぷもしますし、
吸う力もしっかりしてます。
これならこの子もアンドリューみたいに元気に育つ気がします。
アンドリューの時も感じていましたが、子に乳を与えていると、
私も何だか安心するんです。
~♪ ~♪
思わず鼻歌を歌ってしまいます。特に歌詞は無くとも、つい出てきます。
何の曲かは分からないし、曲名もありません。
ですが、あなた達がこの世に生まれてきたことの喜びを
母はたっぷりと、この曲に込めているのですよ?
あら?ふと気付くと扉の隙間から、こちらをアンドリューが覗いてました。
「どうしたのアンドリュー?こっちへいらっしゃい」
私が片手でおいでおいですると、アンドリューはおずおずとこちらに近づいてきました。
「うん・・・あのね、あのね・・かあさま」
もじもじ
「何ですか?母に頼みごとがあるなら言ってみて?」
もじもじ もじもじ
「あの・・・ね・・・・ぼくも、ね・・・」
ああ、そうか。と私は気づきました。
私は着ていたドレスのボタンを外して、ターシャに吸わせていた方の反対の
お乳を出すと、アンドリューを静かに手招きします。
「ほら、アナタもいらっしゃい」
「・・・は、はい!」
アンドリューはテクテクと私に近づいてくると、思いっきり私に抱きついて、
空いているお乳に吸い付いてくる。
もう五歳だというのに甘えんぼさんだ、アンドリューは。
アンドリューはもう歯が生えそろっていて吸われるお乳に当たって痛むのだが、
私は構わずに二人の子に吸わせていた。
二人とも、とっても仲良しさんだ。
私にとっては掛けがえのない宝物です。
「・・・・・~♪ ~~♪」
また私の鼻歌が静かに響き始めた。
あらアナタ、アナタはだめですよ?
お乳は子供のためのものですから。父親なら我慢してください。
そんな残念がらないでください。
どうしてもというなら夜に、この子達を寝かしつけてからですよ?
私、最近はあることを認められるようになって来ました。
それは今まで気づいていたけど、気づかないふりをしていたことです。
私にとって、人間とは脆弱でか弱い、人間から見たネズミのような存在に
しか見えてなかったのです。
けどね、一時の遊びのつもりで人に姿を変え、人としてたかだか十数年程度
生きてみただけですのに。
今の私にはこんなにも、愛おしさがこみ上げてくるのです。
我が子達が、夫が、友人達や屋敷の皆が、村の皆が、
等しく愛おしく大切に思えてくるのです。
ですが、それらがあと数十年近く経てば全て死に絶え居なくなる。
それを想うと、今までにない寂しさと悲しさを覚えてしまう。
今なら分かります。夫の幼い頃、母上を亡くして泣いていた時のこと。
『ねえ・・・メティ・・・どうして、人間は死んでしまうの?
神様みたく長く生きられたら良いのに・・・・どうしてなの?』
今なら分かる、あの言葉の重み。
どうして、死ななくてはならないのですか?
パトリックも死ぬ、アンドリューも死ぬ、ターシャも死んでしまう。
私は死んでもこの体だけ、この体が死ねばまた女神としての肉体に戻され、
またあの退屈な女神としての役割を何万年も繰り返すだけ。
この子たちの行く先へは、私は絶対に共に行けない。
そのことが悲しい
そのことが恐ろしい
そのことがくやしい。
「・・・・えっ・・・ぐ・・・うぅぅ・・」
だから私は決めました。
アンドリュー、ターシャ・・・私はあなた達を見守ります。
貴方達の死後の魂も見守って、あなた達の残した血筋を末代まで見守り続けます。
孫たちもひ孫たちもその先の子孫達みんなを私は見守ります。
だからどうか、この子たちの先に弥栄あれ。
母なる時の女神よ、季節の女神たる姉さま、兄さま、二番目の兄さま、
どうかどうか、この子達をお守りください。
そして私がこの子達を見守り育むことをどうか、お許しください。
そんな風に心の底から願ってもなお、ソレは起きてしまいました。
ある日の晩、オルヴェラート家のお屋敷に火の手が上がる。
はいどうも、金属パーツです。
久々に調子が出てきてしまい更新できました。
読みづらい文章のくせにちよっと長めの文で、ちょっと申し訳なさを感じてたり。
でもこれで前の後書きで描いた通り、前後編でまとめられましたよね?
次回はまだ過去編ではありますが、ちょっとだけ辛めの展開を予定しています。
が、まあ気が向いたら見て頂きたいと思います。ではまたノシ




