4話シーン13「お披露目」
「くっ、でえい!」
「はぁ!」
「どっせい!」
「ちいっ!」
「オホホホホホホ!この程度の攻撃で怯まないでいただけますかぁ?
ワタクシ全然本気なんて出してませんのよ!!」
木巨人の攻撃は激しさを増していた。
背中から翼のように生やすツタはムチのようにしなり、その太い剛腕の一振りは
広範囲を抉りとる。
「ベル!どうにかできないか!?」
「ダメ、カティ!攻撃が激しすぎて、術が使えないの!」
ベロニカの胸当てと両手のガントレットに装備されたオーブによる
『変換』『流転』『収束』
これらを併用した術式を用いれば前回の土蜘蛛を倒した時のような強力な一撃を
見舞えそうなものの、現在の段階では未だ時間が掛かりすぎる。
大きなスキでも作れない限り、現実的に発動は叶わないのだ。
〈くっ・・・俺があの世界でライトニングエッジを使わなかったら・・・〉
カティルは悔いていた。
あの世界から脱獄するために他世界の勇者達とともに、一日一回の必殺の技を
消費してしまった。
『消費して使い果たした』とカティルは勘違いしているのだ。
「あー・・どうしたらぁ・・・」
ビシュメルガは頭を揺らして唸る。
彼女は完全にカティルのスキルを把握しているのだから、悔しいことであるが
バルズタースの祝福によって、『未だ見せられないよ』するデメリットが有る
ものの、カティルのスキルの使用回数と威力は増している。
これを伝えるすべがあったら良いと思う反面、なんでアイツの祝福を利用しなければならないんだと、ビシュメルガは腹ただしく頭を抱えていた。
「さあ、泣きなさい!崇めなさい!許しを乞うのです!」
木巨人の攻撃は激しく、それを操る女神の高飛車で高圧的な態度も
また激しくなっていた。
「跪け、命乞いをしろ、小僧から石を取り戻せぇ!!」
「いや何の話ですかぁそれ!」
バゴォ!
「・・・か・・・はっ・・」
カティルはあまりの痛みに腹を抑え、二歩三歩と後ずさり、
膝をつく。
〈い、、いって・・〉
食らった腹を超え、内臓にまで届く痛みは熱ささえ伴っていた。
息が肺に入らない。
「カティル、大丈夫ですか!?ハイリジェネレーション」
レルが即座に治癒能力強化〈大〉の効果を持つ魔法をかける。
回復魔法とまではいかないものの、痛み自体は直ぐに軽くなっていく。
「あ、ありがとう・・・レルさん」
「いえ、私もやっと意識が回復してきた所でした、間に合って良かった」
「むっふっふっふっ、情けないですねー、もろいですねー
その程度でよく勇者をやってこれましたねー?尊敬しますよー。
わたくしー、しん・でん・も、建立されないていどのぉ?
どマイナー女神らしいんですけどぉ?」
「・・ちぃっ」
カティルは小さく奥歯を噛む。
何やら女神の言葉の一つ一つがカティル達の胸の奥の地味に敏感な部位に棘で
つついていたぶられるようで、妙に痛むというかむず痒い。
目の前の女神は間違いなく強い、のだが・・・・
「ふんす!」
と女神の動きを完全にトレースしたかのように、腰に手を当てて胸を張る
木巨人の姿が、なんともなんとも・・・
『小物くさい』
強大な力を持つ者の武神や闘神ではないから、戦いに対する矜持が感じられ
ないからか。
知識を司る賢神のようにも見えない。
正直にいえば動作だけでなく言動の全てが小物くさい、その女神に太刀打ち
できないでいる自分達がなんとも歯がゆくなっているのだった。
「さあ、どうやって死にたいですか?
壊死?斬死?圧死?焼死?窒息死?なんならこの地下空洞を崩落させて生き埋めに
してさしあげてもいいのですよ?」
言いながら、女神は悪戯にツルをヒュンヒュンと風を切る音を奏でながら
振り回してみせる。
「・・・レルさん・・・何かないですか?」
「俺のブラックバングスターも置いてきちまったし、ユリも籠の鳥だし、
戦力になるのが実質ベルとイツカとレルさんって感じじゃねえか」
つまるところ、火力が足りない。今一歩攻めきれない。
全く持って、もどかしい。
「・・・・・」
手はあるにはある。
レルの視線がイツカに向く。
そう、イツカの双剣の開放、未だカティル達の前で出したことのない
あれら。
これを気軽に決断できてしまえれば、チャンスは掴み取れるはず。
しかし、まだレルの中ではふんぎりがつかないでいる。
『ねえ・・・どうして?』
『どうして貴方は世間からイツカを隠そうとするの?』
「・・・くぅ」
脳内で未だ繰り返されるセシリアの言葉と像。
イツカはまだ未熟、師匠として後見人としても、レルは
見守らなければならないと思っていた。
だがそれは、ゆがんでんでいた。
レルはイツカに対して、自分に依存させようとしていた側面があった。
そして無意識のうちに、イツカの武器を封じて隠すように命じて抑えつけていた。
そこに気付かされてもなお、それを今更、どうしたら良いか。
「とーこーろーでーまだ見せてくださいませんの?」
木巨人の攻撃が一旦止まる。
「あぁ?見せるって何をだよ!!」
「何って、あれですわよ。主神様から伺ってますよ?
あなた方の内、誰かがワタクシ達、神々に対抗できる特級の武器を隠してるんですわよね?」
「・・・それは」
レルは口ごもった。
「レルさん、そんな凄い武器があったんですか!?」
「・・・それは、ですね」
未だふんぎりがつかないレルは、カティルから顔を反らせた。
ところが、そんなレルを他所にしてイツカが一歩前に出る。
「そ、そーなの、カティ!」
「イツカ?」
「わ、わたし~実は、こんかいの~戦いを、そうて、いして、特別な武器、
もらってた。
バレて、るなら、しかた、ない。イツカ、それ、開放、する!」
なんともガチガチに固まり気味で、様に成らない芝居がかった言い回し。
「い、いいよね?レル・・・さん」
イツカはレルを真っすぐに見据える、一つの決意に満ちていた。
「・・・・仕方ありませんね。出しなさい、イツカ」
コクリ
無言でイツカは頷くと、女神の操る木巨人を見上げた。
そして両手に持っていた黒い双剣を地面に突き刺すと、手をかざして、
ゆっくりと呼吸しながら詠唱に入る。
「我を証明せしは その血をもって
我を解明せしは その力をもって
我を認識せしは その肉体をもって ここに我の全てを開放せん」
空気が変わる。ほぼ密閉されたような地下空間において、わずかに
温かい空気と冷気が入り込むのをカティル達は感じていた。
地面に突き刺さった鉄剣が震えだす。
「思いだせ、汝が銘を、取り戻せ、汝が形を
我は今こそ汝らに求める、昼に輝く太陽に誓い、夜に浮かぶ月に願い、
我が生まれ出でた、この大地に寄り添い、今こそ顕現せよ、
我は今再び、汝らに呼び掛ける。
いでよ、アギナヴィー!ルナーエー!」
二振りの剣の外装がボロボロと剥がれ、その真の姿を現す。
右側には、天の太陽を思わせる、熱くたぎるようなオレンジと赤が
混ざりような灼熱の剣。左側には、深く暗い水底を思わせる、冷たく
凍えるような青と黒が混ざり合うような極寒の剣を顕現させた。
開放された二振りを掴むと、イツカは即座に、単独で木巨人に飛び掛かった。
「でえええええい!」
イツカは次々と襲い来るツル達を切り刻み、極太の剛腕に素早く何回も切り付けた。
ボオン!
「・・・すっご」
ベロニカがイツカの動きをただ茫然と見つめている。
木巨人は聖剣を振るうイツカ一人に集中していると見えて、
他に攻撃が及ぶことはない。
「レルさん、あれは?」
「あんなすげー武器、いったい何処から支給されたって言うんだよ」
「ああ、あれはですね。ええっと・・・セシ、〈じゃなくて〉
セルシアが持ってきてくれたものです」
「セルシアさんが?」
カティルの問いに、レルは頷く。
「ええ、あの明るい剣は、アギナヴィー。イツカの生家、
カッツ家で受け継がれていた聖剣で、元々はキッドが振るっていたものです」
「へえ、じゃあ先代勇者の遺品かよ!?」
「コクリ・・・そしてもう一振りの暗い剣の名は、ルナーエー。
セルシアが知人の研究家達に依頼して作らせた、現代魔法学の全てを
注ぎ込んで作らせた業物・・らしい、です」
そう、ルナーエーに関しては出所も作られた経緯も明かされて居ないため、
レルにさえ回答は難しい。
「・・・凄いんですね、カッツ家って」
カティルが漏らした言葉に、レルはまたも無言でただ俯いた。
それほどまでに、聖剣を手にしたイツカの変貌は凄まじいものだった。
「でえい!」
その刃は刺突剣よりも分厚いがショートソードより細い、
刀のように頑丈で、振るえば鳥の羽のように軽い。
ルナーエーにかけられた闇と水の多重属性が、触れた対象を清めるように
全てのバフを削ぎ落す。
これによって周囲から無尽蔵に向かってくる細いツル達は一撃で切り払われた。
「ダア!この!このぉ!」
その刃は分厚く横広で重量感があり、バスターソードを無理やり縮めたような
ずっしりとした形をしている。
その刀身はヒヒイロカネを純度100%で鍛えたようなお日様色をして、
持ち手には獅子の紋章が刻まれている。
光と火の多重属性を持ち、触れた対象を浄化し焼く。
切れば切る程、対象の内部に光熱エネルギーを蓄積させることでダメージを
増大させていく特性がある。
その特性をもって木巨人の切断不可能と思われた剛腕を何度も切りつけ、蓄積
させた光と火の力が、内部から爆発を起こさせ、剛腕の一本を弾け飛ばした。
「きゃー!!凄いわ凄いわすごいわー、ゴイスーだわイツカちゅわん!!」
べしべしべしべしべしべし
「・・こらぁ、辞めぬか、騒々しい・・・」
べしべしべしべしべしべし!!
魔王城。
ビシュメルガから送信されるカティル視点の映像を眺めて、竜角の一本となった
セシリアは、ドラコーの巨大な竜体を興奮気味に叩いていた。
「辞められるわけないでしょドラコー!これマジヤバよ!マジヤバだわー!!
ああ、お父さんそっくりねー、勇猛果敢?勇往邁進?勇気爆発・・って
これ違うかー。
おほほほほ!!とにかく凄いのよぉ!ママ感激ぃ!!」
べしべしべしべしべしべしべしべしべしべしべしべし!!
「だから・・痛い、痛いというておろうに、バカリアが。
そんなに力を込めて殴るな。お前の力には我から奪った力も乗って
おるのじゃぞ?
山を簡単に吹き飛ばす級の力を我にぶつけるでないわ!!」
音は貧弱でも、その『ぺし』の一発一発の力は極大であった。
「はいはい、ごめんなさいねぇドラコー。まあ私とアンタの仲なんだから
勘弁しなさいってー」
「ムカッ〉我、お主とそこまで仲良しさんなつもりないんじゃが!?」
セシリアは聞いてなかった。
「ああ、もうたまんないわぁ!これ永久保存版よ絶対!
スタッフー!スタッフゥ!」
パンパンとセシリアは手を叩く。
すると影から、一匹のコウモリが何やら水晶玉を掴んで運んできた。
「はい、ご苦労様」
「ぎべっ!?」
セシリアはコウモリから球を受け取ると、労いの言葉を贈ると同時に
そのコウモリを握りつぶした。
「・・・殺す意味あったのかの?」
「え?・・・生きて返す意味あったのかの?」
ケロりとした顔でモノマネで返すセシリアを見て、ドラコーは黙った。
「さあー、録画よ!録画しなきゃ!母さん今日は奮発してベータで
録画してあげちゃうわ!永久保存!」
言って、セシリアは水晶玉を起動させ、ビシュメルガから送られてくる
映像をスイスイと水晶玉に吸い込ませるのだった。
「だあ!よし、これならイケるぞ!!」
イツカの活躍を起点にして、カティル達も攻撃を再開させ始めていた。
木巨人の体は片腕を失い、翼のように背中から生えていた大量のツルの再生能力も衰えつつあるようで、カティル達からは、女神の力が弱まりつつあるのを感じていた。
〈これならイケるんじゃないか?ライトニングエッジの力が無くても女神の討伐!〉
そう確信を持ち始めていた。
しかし、カティルはしっかりと見るべきだったのかも知れない。
女神の木巨人はもうボロボロだというのに、当の女神は未だ一切の弱みを見せず、
弱音も吐かず、倒れたりふらついてもいないという現実を。
「ベル、ここは機動力が大、切。二人であそこ、へ、攻撃、集中」
イツカは木巨人の中心、あの女神が植物に包まれ、球体状のコアとして収まった
辺りを指さした。
「おーけー、行くわよイツカ!」
ベロニカは片手のガントレットに装備された「収束」のオーブの力を発動させる。
ベロニカの体内に残されたありったけの魔力を自身の足と片腕に集中させ、
今撃てる最大火力を撃ちだす準備を整えた。
「必殺!カイザーナックル・リミットオーバー!!」
「秘剣・十文字・炎宴水酔〈えんえんすいすい〉!!」
叫ぶと同時に二人は木巨人の中心目掛けて飛び掛かる。
「・・・な、なん・・で・・」
それから僅か数秒のことである。
イツカとベロニカは地面に叩きつけられ、立ち上がることもできないほどに
負傷するのだった。
「だから私、言いましたわよね?
我が名はメティース。
千の神獣、200の神々、その上に立つ60の上位神が一柱。
『告げる女神のメティース』あなた方を屠る者だって・・・」




