幕間2「開放」
増えていく、積み重ねていく、広がっていく。
とある一つの世界の神々によって作られた監獄に不条理な冤罪によって
幽閉されていた異世界の勇者達。
それぞれが、勇者カティルに深い感謝を抱き、そして己が世界の救済を
全うしようと固い決意を胸に、止まっていた時計を動かし始める。
カチッカチッカチッ ボーンボーンボーン
それは、竜の姿に似ていると言われる、とある列島国の古都。
近代的なビル群や街並みの地下には、現代人達に忘れられた地下空洞が存在する。
「オンキリキリ、オンキリキリ~」
その長い地下空洞の最奥には、巨大な神殿が存在していた。
有史以前、何万年も前に建てられた、人類よりも更に古くから存在した古代種「鬼」が建てた石造りの神殿。
その内部では巨大な頭部に太く逞しい角を頂く一体の鬼が居た。
現代の人類によって地下に押しやられ、辛酸も苦渋も舐めさせられてきた旧人類が鬼である。
その同胞を救い、現人類達を絶滅させる。
その悲願のために、この鬼「冥獄童子」はこれまで活動してきたのだった。
それを幾度となく妨害し、撃ち破ってきた人類の味方『勇者』が存在したのだが、
異界から授かった秘術によって次元の狭間へと追放したのが半年前のこと。
童子は最早、邪魔する者はなく、着々と計画の準備を進めていた。
かの童子が目指す道は唯一つ。
「冥界逆転の秘儀」を用いて、現代を生きる全人類の魂を贄とし、
冥界に閉じ込められた同胞達の魂を蘇生させること。
そしてもう一度、この世に鬼たちの楽園を取り戻すのだ。
シャン シャン
「オンキリキリ、オンキリキリ・・・」
手にした錫杖を鳴らし、念仏を唱えるようにブツブツと呪文を紡いでいく。
儀式場の中心に描かれた六芒星の陣、その真上には巨大な洞窟が在ると錯覚させるほどに澄んだ黒く邪悪な球体が浮かんでいる。
この球体が完全な大きさに育った時、童子の野望は達成される
はずだった。
ズンっ!
瞬間、童子の側面。壁を突き破って放たれた光の斬撃が童子の額を掠めた。
それを間一髪で躱す。儀式が中断され、球体の成長が止まる。
「やっとここまで辿り着いたぞ!冥獄童子!」
それは、玩具のような光り輝く剣を握り、全身を覆う未知の伸縮自在の布地、
光り輝き頭全体を覆い隠すほどのヘルメットを被り、長いブーツ、
聖なる装備を纏った一人の少年だった。
「ブ、ブレイブブレイバー!?貴様、何故ここへ・・・」
確かに、消し去った筈だ。異界の神から授かった暗黒の三種の邪神器を用いて、
二度と戻れぬ次元の牢獄へと追放したはず。
そうして、悲願の儀式を行うに適した、千年に一度の『参血三夜の冥月の日』を
選び、事を運ぼうという時に。
「おのれブレイブブレイバー!ここまで来て、貴様に邪魔だてさせておくものか!!」
童子は手にした錫杖を握り、少年に向ける。
少年もまた、特別な力が込められた聖剣にメダルを嵌め、全身全霊の力を溜めて
迎え撃つ。
「来るが良い、ブレイブブレイバー!いや・・・勝手守よ!!」
勝手守〈かって まもる〉
それがこの勇者ブレイブブレイバーの力を手にした少年の名前である。
本来はわずか10歳の小学生だった。
しかし、遊び心が災いし、この冥獄童子が封印されていた祠から
封印の要であった聖剣を引き抜き、童子を蘇らせてしまって、その聖剣の
担い手として再び童子を封印する役目を任されることになってしまった。
数々の童子の配下として呼び出された魑魅魍魎達との戦いは熾烈を極め、
困難な道のりだった。
一時は脱出不可能な異世界の牢獄に送られながらも、こうして異世界の多くの
勇者達とともに抜け出し、再戦の機会に恵まれた。
この幸運を、多くの仲間達の助けをもって手に入れたこの機会を、勇者はけっして逃しはしない。
「いくぞ、冥獄童子!!これで最後だぁ!!」
少年の体から力が湧き上がる。
その力は絶大だった。
少年がこれまでの戦いで得た経験が、今まで助けてくれた人々の想いが、そして
異界の勇者カティルのライトニングエッジの力が少年に流れ込んでいる。
少年は、激しい光の閃光を放ち、光り輝く弾丸のように、童子に切りかかった。
そこは、たった一つの孤島を残し、他の全ての地形が海に沈んでいる世界だった。
孤島というが、何万種類もの生命が生存し、木々が生い茂り、人々は
何億人も暮らしている、それほどに大きな島である。
その島に存在する唯一の国家「アレグリオス」では、今まさに大きな障害に
ぶち当たっていた。
「ガァルアボボボボボポオ!!!」
奇怪な鳴き声を発する、悪しき大蛇「バルジャボジャア」が、この巨大な島を
次々と蹂躙し、木々をへし折って地ならし、数々の生命を食べつくして、
アレグリオスの首都にして唯一の都市ヘリドランへ侵攻を続けていた。
古代語で『あらゆる命を見下ろす目玉』を意味するその大蛇は、
無限の空腹と止まらぬ苛立ちを抱えていた。
「姫様!バルジャボジャアが近づいております、早く森へ避難を!」
従者に促されるのだが、アレグリオス第一王女アメリアは、頑なにそれを拒んだ。
「・・・ここから離れて、どこに安全な地があるというのですか・・・」
そう一言ぽつりと漏らした。
アメリアは内心、深い絶望の中にあった。
彼が、あの者が、バルジャボジャアに戦いを挑んで、謎の底なしの穴底へと
叩き落されたあの日。
人類唯一の希望だった戦士は帰ってこなかった。
もうこの世で、あの邪悪な大蛇に対抗しうる存在など、この世にあろうか?
姫には到底信じられなかったのだ。
「うわあ!もうダメだ、奴がくる!みんな轢き殺されちまう!」
うずくまる者、あてもなく逃げ出す者、後を絶たない。
逃げ惑う人々が雪崩となって我さきにと争うように押し合いへし合う。
転んだ老人が多くの逃亡者に蹴り殺された。
逃げ惑う周囲の人々の圧が、母親と手を繋いでいた子供を容易く引き離す。
人込みに飲み込まれて消えゆく母親を、子供は涙目に見送った。
ついにバルジャボジャアの大きな胴体が、ヘリドランの端へと到達した。
都市の中央に位置する宮殿からも、外側にある農村部の畑や家々が容易く踏み荒らされているのが見えた。
「ガァアアアルアボウボウボウボウボオ!!!」
バルジャボジャアは、ひと際大きく不気味で不快な鳴き声を上げた。
人々にはこう聞こえた。
『これで貴様らはおしまいだ。全て死に絶えろ』
とでも言うように、その巨大な目玉は宮殿を見つめていた。
宮殿の窓から眺めていた姫の胸がグイグイと締め付けられるように痛む。
呼吸がし辛い。
まるでアイツは自分を見つめているようで、
視線が合わさったような錯覚さえ覚えた。
「こんな・・・こんな時に、もしも・・・・もしも・・・」
〈貴方達が生きていてくれたら・・・〉
姫は心の中で諦めていたはずなのに、それでもなお、
そう心の中で呟いてしまった。
バルジャボジャアがスピードを上げて前進を再開する。
その時である。
巨大で、何者よりも大きく何を持ってしても覆い隠すことができない大蛇に、
あり得ないほど大きな影が被さった。
ゴオゴオゴオゴオ・・・・ズズン!
天から、バルジャボジャアに匹敵するほどの巨大な何かが落ちてきた。
それがバルジャボジャアの半身を押しつぶす。
「あれは!?」
姫は大きく目を見開いた。
そんな、あり得ない。だけどあり得ない筈のことが起きた。
それは巨大な赤い地竜だ。
四つ足で歩き、紅蓮のように熱く輝く鱗を煌めかせる。
ただ違うのは、その大きさは以前と比べようもないほどに大きく巨大化していた。
あくまでも人を乗せて走る乗り物の範疇のようだった地龍が、あの大蛇の
目玉程度の大きさだったのが、
今ではその大蛇と対等に、もしかしたらそれ以上に圧倒するかと
予感させるほどに大きく誇らしくその巨体を成長させていた。
「・・・・・べべ」
姫の口から地竜の名前がつい出た。
そしてはっきりとは見えないが、その大きな地竜の額に、米粒よりも小さな何かが共にあるのが微かに見える。
アメリアは確信を持ってそれを見ていた。
あの小さな影は人だ。いやただの人ではない。
失われたと思われていたこの世界の『勇者』だ。そうに違いない。
「・・・・帰ってきたのね、ウィン」
地竜べべと勇者ウィン。
その一人と一頭は二つで一つ。
共に森の中で生まれ、姫たちの率いた騎士団によって発見されてからは
人の中で暮らすことを学び、野生児で開けっぴろげで大胆で無礼だったが、
一度もアメリアを退屈させなかった。
多くのモノを与えた代わりに、多くのモノを与えてくれた、アメリアの最愛の
「勇者」
異世界の邪神によって追放されて、多くの国民を絶望させることになったのだが。
その彼らが今、確かに帰還を果たしたのだ。
「・・・うっ・・・うぅぅぅ・・」
緊張の糸が途切れたのか、ふいにアメリアの頬を涙が伝う。
だがその涙はけして、悲しみの物ではなかった。
それは、大量の竜族と人類が共存する世界。
人々は産まれた時、竜王が定めた運命によって生涯のパートナーとなる
小竜を与えられる。
そして人と竜は共に成長して、竜は幾重もの経験を通じて様々な姿に成長する。
そんな竜と人の関係は数億年もの長きに渡って続いていた。
だが、ある日のこと。
そんな人竜の関係を破壊しかねない事態が発生した。
『暗黒竜グロウバニシュ』
数万年に一度産まれるという、竜王の直系。
次代の竜王と目される十二柱の神龍族の一柱だったグロウバニシュは、
産まれながらに光の属性を持つ、輝く八対の翼を持つ聡明な竜であった。
次代竜王を継ぐのは間違いなく彼であると目されていたというのに、
彼はそれに抗った。
他の十一柱の神龍族の兄弟の息の根を止め、彼は竜王の座を奪うどころか、
その玉座そのものを全て破壊したのだ。
その上で彼は人と竜の繋がりを断ち、人を根絶やしにし、
この世界を竜族だけの楽園に作り直そうと企んだのだった。
そうして彼の影響力は拡大を続け、軍勢に加わることを選んだ竜には
相棒としていた人を己が手で消し去るように命じ、人との繋がりを捨て去った
ハグレ竜を率いて、人類とそれに組する竜を絶滅させることにしたのだった。
現在、グロウバニシュのハグレ竜軍が全世界の七割を支配するに至っていた。
そうしてハグレ竜軍はついに、残りの人類生活圏で最大の国家に当たる
「グランダール水龍王国」
その地を目指して進軍していた。
バサッバサッ バサッバサッ
何百、何千というハグレ竜の群れが大きく羽ばたかせながら高速で進軍している。
口から強力な放射火炎砲や超音波メス、大出力ビーム等を吐く彼らの超高度からの砲撃は実に脅威である。
ズシン ズシン ズシン ズシン
地では、多くの四つ足のトカゲ竜のハグレが地を這い進軍していた。
その重厚な硬い鎧のような鱗、強靭な足による突進は、地にある全ての物を粉砕し踏み荒らしていく。
中には強力な酸液や毒霧を吐く個体も混じっていた。
そうしてそれを率いる暗黒竜グロウバニシュは、先陣を切ってグランダールの地を蹂躙していくのだ。
八枚の黒翼から放たれる黒色の破壊光波は全周囲に照射され、全ての物を灰に変えて霧散させる。
竜族の中で唯一、魔法を扱う知能を持ち、重力を操る『ヘビーグラビティ』を
放ち、近づく者を全て地に叩きつけて圧壊させる。
そして幾重にも体に張り巡らされたあらゆる属性への耐性、防御障壁スキル、
家臣としたハグレ竜からの信仰心の高さによって自身が強化されるスキル
『絶対王者の加護』が、彼の体に傷一つ与えることが叶わない。
その強さのために彼は無敗であり、無敵。彼は何処までも傲慢であり、
増長していた。
何せ最も障害となっていた白竜とそれに乗る白騎士は、もう居ない。
この先にあるグランダール水竜王国は今や、人と竜の繋がりを保つ者達に
とって最大最後の聖地。
この国が落とされれば、最早人類に生存の可能性は完全に潰えることになる。
「陛下、もう次期、ハグレ竜軍の最前と接敵する頃合いです、お下知を」
前線にて陣を敷いた中心にて、1人の将軍が一柱の水龍に話しかける。
「・・・ええ、分かっていますタレーブ将軍・・・・ですが、
あの方を失った我らにどれだけの対抗ができるというのでしょう」
彼女こそがこの国を建国した国母『水龍グランダール』の名を受け継ぎし子孫、
「水龍王グランダール六世」であり、
この国の旗頭として数多くの人竜一体の防衛軍を指揮して戦おうとしていた。
だが、その瞳の色は悲し気で心細さを隠せないでいる。
何よりも頼りにされていたあの竜が居ないのだ。致し方ない。
「行きましょう、全軍に通達なさい。敵が防衛線を突破するのに合わせて、
全竜全武装の同時射撃。
その後に私が先陣を切って突撃します」
「御意。ワタクシも、我が愛竜コマーンもお供します」
〈無論、冥土まで〉
最後までは言いきらなくとも、タレーブの言わんとしていた言葉も、覚悟も、
グランダールには通じていた。
ふいにグランダールは思いをはせる。
生涯で初めて愛した勇ましい白竜。そして二か月前に産み落とした愛しい卵。
できたらその子の父親に、誕生を伝えたかったのだが、その願いは潰えた。
その卵は現在、信頼における家臣に守らせている。
自分にもしものことがあったらその子が自分の後を継ぐだろう。
後顧の憂いもなく、自分も死にに行ける。
母として強い意思をもって、グランダールは戦場に立っていた。
王都の内部も慌ただしかった。
未だ無傷の城壁があっても、国民の焦りや不安は拭えない。
暴動や略奪が起こらないか、城壁内の城下町では今一歩ぎりぎりの線で
国民や避難民たちは震えあがっていた。
町内にある、冒険者ギルド中央。
百人規模で働く従業員、三千人以上の冒険者が毎日利用するこの建物でも、不安に包まれていた。
「ねえねえ、メロディ、大丈夫かな?だってだって、敵はあの暗黒竜なんだよね?
大丈夫かなぁ・・」
「そんなの、私にも分からないよ。ランドさんが居てくれてたら、
大丈夫だった、と思う、けど」
そう、勇者ランドと白竜パーシグ。
このギルドどころか世界中で名を知られていた、打倒暗黒竜の要中の要だった
コンビが消された。
ここから最果ての地、暗黒竜の住まいとしていた古代竜王の居城に単身挑み、
暗黒竜を退治するあと一歩の所まで彼らは来ていたそうだ。
だが、観測していた冒険者の報告によると、暗黒竜は謎の宝玉に込められた
魔術を使い、彼らは消滅させられたという。
まだ半信半疑な者も数多くいる一方、既に諦められている者も少なくない。
〈お願いします、ランドさん・・・いるなら、姿を見せてください・・・
私、アナタに伝えてないこと、いっぱいあるんですから・・・〉
いいながら、ギルド職員のメロディは自分の下腹部を撫でた。
城下町には一件、とても奇妙な建物が立っていた。
それは今の騒動が起こる百年も前、遠い異国から越して来た移民が建てた建物で、名を香狐館。
この地にはない土壁と瓦屋根で作られ、亜麻色の髪のベージュ肌の娘達が集う
町一番の料亭なのだった。
この騒動のただ中であるというのに、店は営業しており、しかも普段通りに
繁盛していた。
慌ただしく入れ替わる客、次々に料理を運ぶ店子達。
腰のギリギリまで切れ目を入れたことで肌着をあえてチラ見えする
ように拵えた漢服風の衣装は魅惑的で、
男性客たちの人気は抜群だ。
「ねえね!マチのひトたち、みンな不安がってるネ。このまマえいぎょしてて良いノ?」
店員の少女が不安げに、店主をしている女性に話しかけた。
店主の名は『珍香春〈チン・シァンチュン〉』非常に豊かな胸部を持ち、
多くの男達を魅了してきた美人さんであり、この店一番の看板娘の座を
二十年守り続けてきた。身持ちも硬く、その身を許したのは生涯でただ一人である。
「何言ってるのよ満毛〈マンマオ〉こういう時こそ、皆に美味しい物を食べて
もらって安心させてあげるノ!」
「で、でも・・・あの金髪ノにさん〈兄さん〉とシャオパイロンいなくナったテ聞いたヨ?」
「・・・・」
「・・・・ねえね?」
「バカ言ってないの、サボったら給金下げるわよ!
さっさとそこの料理を運びなさい!!」
「は、はいいい!わかたヨ!」
大慌てで満毛は料理を担ぎ、客席へ走り去っていった。
それを見送って香春は竹を編んだ蒸し器を空け、肉まんの出来具合を確認する。
手軽にテイクアウトできるこの店の肉まんは一番人気のメニューであり、
切らすことはしない。
うんうん、今日もいい出来合いだ。
〈ランドたちが帰ってきたら、沢山食べるだろうからいっぱい作らないとね〉
蒸せた肉まんを眺めながら、彼女は彼らに想いを馳せていた。
グー
ふいに香春の腹が鳴った。
〈ダメね・・・なんでかこの所、お腹が空くのが早いのよねえ。
あと不思議と月に一度のあれも来てない気がする。
まあ重い方だから来ないなら楽で良いんだけど・・・・まさか、ね〉
自然と香春は自分の腹部に手を添えるのだった。
そうして戦場に戻る。
その光景は、まさに壮絶を極めた。
戦闘が始まってからまだ半日立っていない。グランダール軍の被害は甚大であり、損耗率一割で敗北とされる戦場で
グランダール軍の損耗率は五割を超えていた。
対して暗黒竜率いるハグレ竜軍の損耗率はゼロ。
全くの無傷であり、死屍累々と屍を晒しているのは全てグランダール軍の
兵士と竜である。
ハグレ竜はそれらの死骸に舌鼓を打ちながら食らっていた。
まるでハイキングにいき山頂で弁当を食うように、ハグレ竜たちは兵士の肉を
食らっている。
小休止のために進軍を止めさせた、それがグランダール軍の散らした命の
価値だったというように、その躯の一つ一つが苦悶の表情で空を見つめている。
ドシン
暗黒竜グロウバニシュは地面に降り立ち、死に体となったグランダールの腹を踏みつけた。
言葉はかけない。だが目が語っている。
__この俺に靡かずに、あんな小竜に身を許すからそうなるのだ__
__このまま貴様も、貴様の国も全て消し去ってやる__
ただ暗黒竜はグランダールを見下ろしていた。
まるで山頂を制覇した登山家が低地を眺めるように、
高みからグランダールを見下ろしてる。
暗黒竜の八枚の羽に、黒炭を濃縮させて液状にしたような黒球が出現する。
暗黒竜の最大火力「暗黒の破壊光波」を間近から放とうというのだ。
グランダールは静かに目を閉じる、願わくば、魂までは汚されることなく、冥土で
夫と定めた白竜の元へ行けますようにと、ただ願った。
ピシっ
「!?」
ふいに奇妙な音が響いた。
まるでガラスにヒビが入るような小さい異音。
だが小さい筈のその異音は全ての生き物の耳に届いたのだ。
全ての位置にいる、全ての大きさの、あらゆる生命体の耳にその小さな異音は届いていた。
暗黒竜は空を見上げた。
__なんだ・・・あれは__
空を見上げると、青々とした空に大きくヒビが入っているのが見えた。
ビシッ・・・バリバリバリバリバリバリバリバリ
そのヒビは次第に大きく大きくなり、細かく細かく広がり、そして最後には
空が割れた。
そしてその割れた空の向こうから、飛んでくる何かが見えた。
激しく真っ白に輝く軌道を描く生きた流星。
それが超高速で、暗黒竜の元へ真っすぐに向かってくる。
間近まで迫った時、その流星を包んでいた激しい光が消え去って、その姿を現した。
「やっと見つけたぞ、グロウバニシュ!!」
〈パーシグ!ランドだと!?〉
それは、純白の竜と純白の鎧を纏った騎士だった。
__バカな・・・・貴様は確実に消したはずだ__
__異界の邪神より譲り受けた宝珠によって、消え去ったのではなかったのか!!__
「帰ってきたのさ!」
「僕たちはお前を倒す!皆のために、世界のために、
父上の無念を晴らすために、絶対に!!」
今再び、向かい合う。
主無き暗黒の竜と友と在る純白の竜が。
__貴様は何度、この俺の邪魔をすれば気が済むのだ!存在自体が邪魔な
腫物の分際で!!__
「そう呼ばれるのも今日までだ!兄さん!!」
この二柱の竜は、元々は一つの存在だった。
まだグロウバニシュが光り輝く小聖竜であった時、運命のイタズラか。
彼は闇に心を魅入られた。そうして暗黒側に寝返るために彼は捨てた。
自分の中の光を。父竜に期待され、誇られていた輝きを。
その別れた光の部分は後に形を成し、一匹の小竜となった。
その小竜こそが「パーシグ」だ。
幼く、一対の羽しか持たない小竜は孤独な生活を続けるうちに、
一人の少年ランドと出会った。
パーシグとランドは二人で一つの存在だった。
1人と一匹では蝋燭の灯であろうが、二つが一つとなった時、
無敵の大きな輝きを放つ勇者となる。
その体から放たれた強烈な光が周囲に拡散する。
その輝きは世界の果てまで、どこまでも届いた。
「・・ぱー、しぐ、サマ・・」
地に倒れ伏した弱った女竜が、その輝きに目を細める。
「ランド・・・」「ランドさん・・」
多くの人々が、その懐かしい輝きを目にして、その名を呟いた。
次々と帰ってゆく。帰ってゆく。
多くの囚われた囚人たちが、物語の重要なシーンを中断されたまま、
無念の内に監獄に閉じ込められていた。
彼らが次々と元の世界へと返り咲いていく。
中断された物語が再び動き出し、彼らは囚人から勇者という、
元の己を取り戻す。
そうしてその脱獄の先導者もまた、己の世界の、
幽閉された直後の時間へと戻っていた。
地中深く、何かの植物の根が絡み合う薄暗い空間。
その一角がミシミシと音を立てたかと思うと大きな爆発音と共に瓦解した。
「でえええりゃああああああああああああああああああ!!!!!」
ボロボロと崩れ去る砕け散った根の奥から、勇者カティルが躍り出た。
また間が空いてしまいましたが、まあまあ執筆続けてます。
今回で寄り道は終わります。
次回から本編再開しますので、お付き合いいただけたら幸いです
ではまたノシ




