「こ、これは断じて浮気ではない」
糖度が高いかも。
私は、すぐさまルークの手を離し、手をブンブンと振る。
「エ、エ、エ、エリック。どうしてここにいるの?」
「ルークが戦争に行くと聞いたから連絡事項を伝えにきたんだ」
「これは、何でもないのよ。ただの誤解よ」
思わず声が裏返ってしまった。
エリックの私たちを射殺すような藍色の目が怖かった。
「僕には君がルークの手を自分の胸に押し付けている様子がはっきり見えたけど。
まるでルークを誘惑するようなふしだらな行為がはっきり見えたけど」
こ、怖い。このままだと問答無用で殺されそうだ。
「こ、これは断じて浮気ではない。
ルークの手が冷たかったから、温めていただけよ」
「じゃあ、僕の手もそうやって温めてもらうことにしよう」
「冗談よ。ルークに私の胸は大きいでしょうと自慢していただけなの」
ろくな言い訳が思いつかなかった。
「そうか、君の胸は確かに大きいな。僕も触ってみたいな」
「そんなことをしたら、私の胸が穢れるわ。失礼な人ね」
こんな奴に負けるものかと私は彼を睨み付けた。
エリックも、私を睨みつけてくる。
しかし、先に視線を外したのはエリックだった。彼は、ルークに話しかける。
「ちょっとルーク。邪魔だから出て行ってくれないか?」
「いや、ここは僕の家で僕の部屋だけど」
「僕はノエルと重要な話がある。出て行かないなら、今すぐ窓から放り投げる」
そう言って肉食獣のような瞳をするエリック。
ルークは、蛇に睨まれた蛙のような顔になり、すごすごと出て行った。
かわいそうなルークは、自分の部屋から急に現れた他人によって追放された。
その哀愁漂う背中を見ていると何とも言えない気分になった。
「で、浮気をした理由は、君のあふれるばかりの性欲を持て余していたからかな。
だったら、今すぐここで襲ってもいいか?」
ここは、ルークの部屋だけど。
「いいわけな……」
しかし、私は最後までその言葉を言うことができなかった。
エリックが私にキスをしてきたからだ。軽く触れるようなキスではなくて、下を絡ませ唾液を流し込むようなキスだった。
「ん……んん……」
離せ、この豚野郎と言いたいが、言葉にならない。
歯茎をなめられ、舌を撫でられて、貪るようにキスをされる。
口の中を犯されていく。
ようやく長いキスから解放された私は、息をするので精一杯だった。
「はあ、はあ、はあ……」
「ごちそうさま」
そう言ってエリックは、舌なめずりをした。
「このエセ紳士、変態貴公子、エロじじい!」
思いつく限りの罵倒を言葉にし、エリックの綺麗な顔をぶん殴ろうと手を振り上げた。
次の瞬間、殴ろうとした手はたやすく掴まれていた。
そして、今度は唇を軽く舐められた。
「な、な……」
怒りのあまり沸騰しそうだ。私の貴重な体を何だと思っている?
「君が悪い」
当然のようにエリックは、鋭い目つきをしながら言ってきた。
「私は何も悪くないわよ」
私は、思いっきりエリックを睨み返した。
エリックは、私の顎を乱暴な手つきで掴み自分だけをはっきりと私の瞳に写させながらこう言った。
「僕という存在がありながら他の男を目に写している君が悪い。
他の男性の近くに媚を売りながらすりよっているから悪い」
「はあ?何その八つ当たり?
大体、婚約者に対してその発言は無礼だわ」
それを聞いたエリックは、悪戯を企む子供のような笑顔を浮かべた。
「そういえば、君は婚約解消したがっていたね」
「ええ、そうよ。どっかの誰かさんが自己主張が強くてその願いがなかなか叶わないのだけれども」
そのどっかの誰かさんとは目の前にいるこの人だ。
「僕は君みたいな売女とは婚約解消してもいいと思っている」
あまりにもバカにするような言い方に思わずカッとなる。
「本当に?何か裏があるんじゃないの?」
「僕はまっすぐ嘘をつかずに生きている人間だよ。裏なんてあるわけないだろう」
これほど堂々と嘘をつく人間も珍しい。きっと絶滅危惧種だ。
「あなたみたいな腹黒の言うことなんてちっとも信じられないわ」
「ひどい女だな。そうだな、確かに僕は君とは婚約解消する。
その代わり、君が僕と結婚してくれと泣きつく瞬間を見てみたいと思ったんだ」
ゾクゾクするような狂気を孕んだ藍色の目が期待に輝いた。
「かわいそうに。あまり大きな野望を持ちすぎるとすぐに挫折するのよ」
私は、バカにするように笑ってやった。
「いや、挫折しない。
君はいつか必ず僕に結婚してくれと泣きつくことになる。
その瞬間を楽しみにしているよ」
エリックは、狂いかけた笑顔を浮かべた。
藍色の目が妖しく光っていた。
センキュー フォー リーディーング




